抄録
筋収縮,神経伝達,ホルモン分泌など,様々な生体機能は,細胞内Ca2+シグナルにより巧みに制御されている.このCa2+シグナルは,細胞膜Ca2+チャネルや小胞体Ca2+放出チャネルなどのCa2+動員系により誘導され,細胞膜Na+/Ca2+交換体や細胞膜・小胞体Ca2+ポンプなどのCa2+除去系により終結される.Na+/Ca2+交換体は,3個のNa+と1個のCa2+を交換輸送する細胞膜イオントランスポーターである.通常,この交換体は,細胞膜を介するNa+の濃度勾配に従ってCa2+を細胞外へ排出する役割を担っている(“forward mode”).しかし,病態時などの特殊な状況下では,この輸送体を介するCa2+流入(“reverse mode”)が引き起こされる.筆者らは,Na+/Ca2+交換体の特異的阻害薬および遺伝子改変マウスを用いた研究から,1型Na+/Ca2+交換体(NCX1)を介するCa2+流入が心臓や腎臓の虚血再灌流障害および食塩感受性高血圧の発症に関与することを明らかにしてきた.また最近,心筋特異的なNCX1トランスジェニックマウスが心肥大を呈することを見いだし,心不全発症におけるNCX1の役割について解析を進めている.本稿では,これらの知見を中心に心血管病におけるNCX1の役割について概説したい.