日本薬理学雑誌
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特集:心血管病に関与する細胞内情報伝達系
アンジオテンシンII2型受容体の最新の知見
―AT2受容体を介する新しい心肥大のメカニズム―
千本松 孝明
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2007 年 129 巻 4 号 p. 258-261

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抄録

レニン-アンジオテンシンシステム(RAS)は心血管系の機能調節並びに疾患形成に関わる重要な因子であり,循環器領域に関わる臨床医,研究員にとって最も関心深いシステムの一つである.アンジオテンシンII(Ang II)による成長促進,血圧上昇,肥大と言った作用は主に1型受容体(AT1)を介していると考えられている.一方,2型受容体(AT2)の作用はホスファターゼの活性などAT1受容体の作用に対して拮抗するものと考えられているが,その細胞内情報伝達機構は未だ不明な点が多い.RASを抑制する薬剤としてAngiotensin Converting Enzyme Inhibitor(ACEI)とAngiotensin II Type1 Receptor Blocker(ARB)がある.両薬の循環器疾患に対する有効性は数々の臨床大規模試験で証明されているが,その相違は未だはっきりしていない.この両薬はAT1受容体を介するAng IIの作用を抑制するが,ARBでは血中Ang II濃度が上昇しそれがAT2受容体を刺激する.一方ACEIはAng II産生そのものを抑制するためAT2受容体を抑制することになる.AT2受容体の機能がAT1受容体に拮抗するものであれば,理論的にはARBはACEIよりも有効性が高いはずなのだが,ARBの優位性を求めた臨床大規模試験ではその優位性を完全に立証することが出来ていない状態である.我々はAT2受容体遺伝子欠損マウスを用いて,腹部大動脈縮窄による慢性圧負荷およびAng IIの長期投与を施行したところ,AT2受容体遺伝子欠損マウスは心肥大を示さなかった.さらに心臓においてAT2受容体はpromyelocytic leukemia zinc finger protein(PLZF)を介して成長促進に作用していることを発見した.PLZFは74 kDのトランスクリプションファクターで組織選択的発現性が高く,心臓,肝,腸管では発現を認めるが,少なくとも正常な血管,腎では発現を認めない.AT2受容体はPLZF存在下では成長促進を示すが,非存在下ではホスファターゼの活性など成長抑制を示した.AT2受容体の新しい作用を示したこれらの結果はACEIとARBの使い分けのヒントを提示する可能性がある.

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