日本薬理学雑誌
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実験技術
放射状迷路を用いたDelayed spatial win-shift課題による空間作業記憶の評価
永井 拓田熊 一敞亀井 浩行溝口 博之鍋島 俊隆山田 清文
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2007 年 129 巻 6 号 p. 457-462

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抄録
実験動物において,空間記憶の評価には放射状迷路試験が汎用されている.放射状迷路を用いた実験方法の中でもdelayed spatial win-shift(SWSh)課題は,遅延反応を使った行動課題の一種であり,遅延時間を挟んで訓練試行と保持試行より成る.動物は訓練試行で得た情報を遅延時間の間保持し,その記憶をもとに保持試行で効率よく報酬を獲得できる.訓練試行は,8本のアーム全てに餌を置き,毎回ランダムに4カ所のアームのギロチンドアを閉め,ラットが残り4カ所すべてのアームに進入して餌を食べるか,5分経過するまで行った.訓練試行後,ラットをホームケージに戻し,一定の遅延時間が経過した後,保持試行を行った.保持試行では全てのギロチンドアを開放し,訓練試行で餌を食べたアームに進入した回数を試行間エラー,保持試行で一度進入したアームに再び進入した回数を試行内エラーとした.訓練試行後,迷路のみを回転させ餌ペレットの空間的位置を変化させない場合にはエラー数は変化しなかったが,迷路と餌ペレットを一緒に回転させ餌ペレットの空間的位置を変化させた場合には試行間および試行内エラー数が顕著に増加した.また,遅延時間を5分から60分まで延長しても試行間エラー数は変化しなかったが,90分以上では有意に増加した.訓練試行に伴う海馬の機能変化を調べると,訓練試行から60分後まではリン酸化extracellular signal-regulated kinase1/2(ERK1/2)の増加が認められ,120分後にはコントロールレベルに回復した.MAPKキナーゼ阻害薬を海馬内に微量注入すると,試行間エラー数が有意に増加した.以上の結果から,delayed SWSh課題は空間作業記憶を評価するのに有用であり,空間作業記憶には海馬におけるERK1/2の活性化が重要な役割を果たしていることが示唆された.
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© 2007 公益社団法人 日本薬理学会
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