日本薬理学雑誌
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129 巻 , 6 号
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特集:睡眠障害と睡眠覚醒調節
  • 橋本 聡子, 本間 さと, 本間 研一
    2007 年 129 巻 6 号 p. 400-403
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    睡眠に関する悩みを持つ人の割合は,日本においても増加の一途である.体内時計は,自然な睡眠を駆動しており,体温やホルモン分泌と同様,サーカディアンリズムを示す.このリズムの中枢時計は視交叉上核にあり,24時間/1日に同調するためには光が最も重要な因子であることが知られている.睡眠覚醒リズムに関連した振動体仮説には,2振動体仮説と2プロセス仮説が上げられ,同調機序が異なる.近年,哺乳類において,サーカディアンリズムに関する時計遺伝子の研究が進んでおり,ヒトにおいても睡眠相前進症候群にこの関与が示唆されている.
  • 池田 昌美, 池田 真行
    2007 年 129 巻 6 号 p. 404-407
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    酸化ストレスの除去は,脳機能維持のために不可欠である.そのストレス除去にあたり,スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)やグルタチンペルオキシダーゼ(GPX)は,主要な抗酸化酵素として働いている.興味深いことに,実験動物の睡眠を妨げると,脳内のSOD活性や還元型グルタチオン(GPX基質)量が減少し,酸化型グルタチオン(抗酸化反応物)量が増加するという.つまり,覚醒の持続は,脳内の酸化ストレスレベルを上昇させる作用があるようだ.われわれは,t-ブチルヒドロペルオキシドを用いて,ラット脳に酸化ストレスを負荷したところ,睡眠量の増加と,視索前野/前視床下部におけるアデノシンや一酸化窒素遊離を観察した.この結果は,ある程度の酸化ストレスには睡眠物質遊離や眠気を促進する効果があることを示している.つまり,覚醒が脳内に酸化ストレスを生み,これをトリガーにして睡眠という脳保護活動が誘発される可能性が示唆された.
  • 上野 太郎, 粂 和彦
    2007 年 129 巻 6 号 p. 408-412
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    睡眠は動物界において広く観察される生理現象であり,睡眠覚醒制御は概日周期の出力系として最も重要なものの一つである.従来,睡眠が体内時計に制御されていること,および体内時計の遺伝子は哺乳類と昆虫間で保存されていることが示されていた.ショウジョウバエは1日のうち,約70%の時間をじっと動かない状態で過ごす.また,この静止状態は行動学上,哺乳類の睡眠に特徴的な様々な側面を併せもつことより,ショウジョウバエに睡眠類似行動が存在するということが示されている.ショウジョウバエはその生物学的特徴により,遺伝学的解析に広く用いられており,ショウジョウバエにおける睡眠類似行動の発見は,睡眠の分子生物学を推進する要因となった.ショウジョウバエを用いた睡眠の遺伝学的解析により,睡眠時間を規定する遺伝子が同定され,また睡眠を調節する脳内構造についても研究が進んでいる.本稿では,ショウジョウバエを用いた睡眠の分子生物学的研究について概観する.
  • 本多 和樹
    2007 年 129 巻 6 号 p. 413-417
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    睡眠異常を持つ動物モデルの存在が睡眠研究を飛躍的に進展させる場合がある.睡眠研究はおよそ100年前に断眠したイヌの脳から睡眠物質を抽出したことに始まるが,睡眠覚醒の液性調節機構および神経調節機構に関する研究では,多くの動物モデルが利用されてきた.また,近年の分子生物学の進歩から睡眠覚醒調節が分子レベルで理解されるようになり,ヒトと同様の睡眠異常を示す遺伝子変異動物モデルが利用できるようになってきた.特にナルコレプシーや睡眠呼吸障害の動物モデルとしてイヌ,サル,ブタ,マウス等が利用されている.一方,イルカのように生存環境や内部環境によって睡眠様式を変化させた動物モデルも存在している.睡眠研究において様々な動物モデルが利用されることで,多くの新知見が集積され,睡眠覚醒調節機構や睡眠障害がさらに明らかされることが期待される.
  • 有竹 清夏, 榎本 みのり, 松浦 雅人
    2007 年 129 巻 6 号 p. 418-421
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    神経疾患による睡眠障害は,脳内病変により睡眠と覚醒をコントロールする神経機構の障害,呼吸筋筋力低下や不随意運動といった神経症状,治療薬に起因するもの,疾患に対する不安などの心理的要因が組み合わさって生じる.レム睡眠行動障害はパーキンソン病,レビー小体病,多系統萎縮症の前駆症状のことがある.筋ジストロフィー症ではレム睡眠時の低呼吸が呼吸不全の初発症状となる.筋萎縮性側索硬化症では肺胞低換気が主症状で,進行に伴って睡眠呼吸障害が生じる.各種神経疾患の睡眠障害の発生機序を理解することで,初めて適切な治療が可能となる.
  • 本多 真
    2007 年 129 巻 6 号 p. 422-426
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    睡眠障害はQOLを障害する大きな問題であり,その重要性が認識されるようになってきた.本稿では不眠症,過眠症,概日リズム睡眠障害,睡眠随伴症について,頻度の高い疾患をとりあげ,その症状と病態,さらに非薬物療法を含めた治療の現況を概説する.また最近進展している睡眠科学の知識に基づき,新規の睡眠覚醒調節に関わる分子や経路を標的とする,新たな薬物療法開発の可能性について紹介する.
  • 鈴木 淳一
    2007 年 129 巻 6 号 p. 427-431
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome, SAS)は,循環器疾患,特に心不全に多く合併する事が明らかとなっている.その機序は,夜間の頻回な無呼吸により交感神経が活性化して血圧が上昇し,その結果心不全,虚血性心疾患,不整脈などを来すと理解されているが,不明の点も多い.SASを治療することにより,循環器疾患の予後改善が期待されており,我々は,SASを治療する事により,心室性不整脈の発生を抑制出来る症例があることを証明した.しかし,SASを合併した循環器疾患全体の大規模臨床試験の結果はまだ得られていない.SASと循環器疾患は緊密に結びついているが,その病態や治療については,まだ不明の点が多く,今後の研究が期待されている.
  • 市岡 正彦
    2007 年 129 巻 6 号 p. 432-435
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    睡眠中の呼吸制御系の変化として,上気道抵抗の上昇,呼吸筋,特に肋間筋やその他の補助呼吸筋の活動性低下が特徴であり,換気量の低下,肺気量減少に伴う動脈血酸素分圧の低下がもたらされる.呼吸調節の面では炭酸ガスおよび低酸素換気応答が低下する.これらの変化はレム期において著明であり,健常人でも呼吸は不安定になる.こうした睡眠に伴う呼吸の変化は,睡眠時の体位,性,年齢,アルコール,睡眠薬などの薬物,妊娠の有無,居住地の高さなどさまざまな因子の影響を受ける.健常者にとっては問題にならないこうした変化も,背景に慢性呼吸器疾患や神経筋疾患,肥満や上気道の異常などがある場合には,容易に睡眠呼吸障害の発症に結びつく.睡眠呼吸障害の代表的疾患である閉塞型睡眠時無呼吸症候群も,上気道の形態的・機能的異常を背景に,睡眠中の呼吸制御系の異常が加わって発症し,重症度に応じた治療が施されている.
総説
  • ─薬理試験および毒性試験への応用─
    鬼頭 剛
    2007 年 129 巻 6 号 p. 437-443
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    薬理試験あるいは毒性試験の心機能評価として,経時的にしかも無侵襲で心臓の左室容積および左室機能を測定することは,重要な手段の一つである.最近導入されたリアルタイム3次元(RT3D)心エコー法を用いてカニクイザルの左室容積および左室収縮能の基礎的なパラメータを測定し,β遮断薬およびカルシウム拮抗薬のベラパミルの作用を比較検討した成績について解説する.実験として,雄性カニクイザルを麻酔下で,RT3D心エコー法を用いて心臓のイメージを記録・測定し,画像の解析には,専用のソフトを用いている.左室機能の評価として,左室拡張末期容積(EDV),左室収縮末期容積(ESV),1回拍出量(SV),左室駆出率(EF),心拍出量(CO),心拍数(HR)を測定した.まず,(1)RT3D心エコー法のプローブの精度について,in vitro実験の成績,(2)基礎的な測定として,左室容積に対する2D心エコー法,RT3D心エコー法における値を求め,実測値との相関関係,(3)プロプラノロール,メトプロロールおよびベラパミルを静脈内持続注入し,左室容積および収縮能を比較してみた.カニクイザルの左室容積に関して,RT3D心エコー法で求めた左室容積と実測値との間には強い相関関係が認められ,さらに2D心エコー法とRT3D心エコー法で求めた値にも相関関係がある.プロプラノロールおよびメトプロロールはESVの増加を生じて,その結果EFおよびSVは減少した.ベラパミルはEDVとESVのいずれも増加させ,それによって,SVはEFが軽度に減少したにもかかわらずほとんど投与前値を維持した.RT3D心エコー法は,薬理試験および毒性試験においてカニクイザルの左室容積および収縮能の変化を正確にイメージし,再現性の高いデータを提供した.これらの成績を踏まえて3次元心エコーの実験動物への応用について解説する.
実験技術
  • 嶋澤 雅光, 井口 勇太, 伊藤 保志, 原 英彰
    2007 年 129 巻 6 号 p. 445-450
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    現在の主要な失明原因には,緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性症および網膜色素変性症などがある.これらの失明性眼疾患の多くは網膜細胞の変性に起因することから,網膜細胞の変性の原因を調べ,その機序を解明することは,病気の原因を解明し治療法を確立するうえで必須要件である.これまで,これらの病態モデル動物の作製にはラット,ウサギ,サルなどの大動物が多く用いられてきた.一方,マウスを用いた病態モデルの作製については,眼球自体が小さいため手技が難しいことにより今までほとんど検討されてこなかった.しかし,マウスは多くの遺伝子改変動物を利用できることから病態解明には最も有用な動物種である.本稿ではマウスを用いた網膜障害モデルの作製法ならびにその評価法について紹介する.
  • 力石 裕一, 嶋澤 雅光, 原 英彰
    2007 年 129 巻 6 号 p. 451-456
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    糖尿病網膜症や未熟児網膜症などの網膜血管新生疾患は硝子体内に病的な血管新生が進展することにより不可逆的な視野欠損や失明を引き起こす.そこで本稿では,網膜血管新生阻害作用を検討するためのin vitroおよびin vivo評価系を紹介する.In vitro評価系はヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)とヒト線維芽細胞の共培養系によるHUVEC管腔形成能を指標としたモデルである.本モデルはvascular endothelial growth factor(VEGF)-Aにより管腔形成を促進する.In vivo評価系は網膜血管新生疾患の病態モデルとして汎用されているマウス高酸素負荷網膜血管新生モデルである.C57BL/6生後7日目(P7)マウスを高酸素条件下(75% O2)でP12まで飼育し,その後大気圧条件下(21% O2)に戻してP17まで飼育することにより網膜血管新生を惹起した.網膜血管を可視化するため,FITC-dextranを全身灌流し,眼球摘出後,網膜フラットマウント標本を作製した.また,本モデルの新規評価法として網膜全体を網羅した画像解析ソフトによる定量法を確立した.本評価法は作製した網膜フラットマウント標本を高感度CCDカメラを用いて取得し,正常網膜血管P7からP17において網目状に網膜血管が成熟していく過程を定量的に捉えることができる.また,高酸素負荷処理P17網膜でのみ,高酸素負荷によって特異的に生じた網膜症様症状(異常な血管新生)を定量的に捉えることもできる.本稿で紹介するin vitroおよびin vivo評価系は,簡便で再現性の高い評価系であり,網膜血管新生疾患に対する様々な化合物の薬効評価に適している.また画像解析ソフトを用いた定量法は網膜血管構造を詳細に評価でき,マウス高酸素負荷網膜血管新生モデルの新たな評価法として有用である.
  • 永井 拓, 田熊 一敞, 亀井 浩行, 溝口 博之, 鍋島 俊隆, 山田 清文
    2007 年 129 巻 6 号 p. 457-462
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    実験動物において,空間記憶の評価には放射状迷路試験が汎用されている.放射状迷路を用いた実験方法の中でもdelayed spatial win-shift(SWSh)課題は,遅延反応を使った行動課題の一種であり,遅延時間を挟んで訓練試行と保持試行より成る.動物は訓練試行で得た情報を遅延時間の間保持し,その記憶をもとに保持試行で効率よく報酬を獲得できる.訓練試行は,8本のアーム全てに餌を置き,毎回ランダムに4カ所のアームのギロチンドアを閉め,ラットが残り4カ所すべてのアームに進入して餌を食べるか,5分経過するまで行った.訓練試行後,ラットをホームケージに戻し,一定の遅延時間が経過した後,保持試行を行った.保持試行では全てのギロチンドアを開放し,訓練試行で餌を食べたアームに進入した回数を試行間エラー,保持試行で一度進入したアームに再び進入した回数を試行内エラーとした.訓練試行後,迷路のみを回転させ餌ペレットの空間的位置を変化させない場合にはエラー数は変化しなかったが,迷路と餌ペレットを一緒に回転させ餌ペレットの空間的位置を変化させた場合には試行間および試行内エラー数が顕著に増加した.また,遅延時間を5分から60分まで延長しても試行間エラー数は変化しなかったが,90分以上では有意に増加した.訓練試行に伴う海馬の機能変化を調べると,訓練試行から60分後まではリン酸化extracellular signal-regulated kinase1/2(ERK1/2)の増加が認められ,120分後にはコントロールレベルに回復した.MAPKキナーゼ阻害薬を海馬内に微量注入すると,試行間エラー数が有意に増加した.以上の結果から,delayed SWSh課題は空間作業記憶を評価するのに有用であり,空間作業記憶には海馬におけるERK1/2の活性化が重要な役割を果たしていることが示唆された.
創薬シリーズ(3) その1 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • ─実践的な毒性評価に向けて─
    堀井 郁夫, 浜田 悦昌
    2007 年 129 巻 6 号 p. 463-467
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/06/14
    ジャーナル フリー
    医薬品の開発を進めるに際しては開発ステージに応じた非臨床安全性試験の実施が求められており,その基本となっているのが,単回投与毒性試験と反復投与毒性試験,いわゆる一般毒性試験である.単回投与毒性試験は単回投与によって概略の致死量(げっ歯類)や毒性兆候が発現する用量(非げっ歯類)を明らかにすること,反復投与毒性試験は繰り返し投与によって誘起される毒作用を明確にし,毒作用を誘起する用量と毒作用の認められない用量(無毒性量)を明らかにすることを目的としている.実験方法や実施時期はICHの合意に基づいたガイドラインで規定され,詳細について記載した解説書も発行されている.両試験とも試験で認められた種々の変化のどれが毒作用か,認められた毒作用はcriticalか否か,暴露状態と毒作用の関係等を考慮し,慎重に結果を解釈する必要がある.更に,毒作用の発現機序,発現の程度,回復性,治療係数,臨床試験上の対処手段等の観点から総合的に安全性評価を行うことが,適切な臨床開発を進めるためには不可欠である.
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