日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
ベルケイド®(ボルテゾミブ)注射用3 mgの薬理学的特徴および臨床試験成績
藤井 秀二壽 嘉孝野村 俊治原田 寧
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2007 年 130 巻 5 号 p. 421-429

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抄録
ボルテゾミブは,米国Millennium Pharmaceuticals, Inc.(以下,MPI社)により開発された,強力,可逆的かつ選択的なプロテアソーム阻害薬であり,本作用機序を有する薬剤としては世界初の抗悪性腫瘍剤である.26Sプロテアソームは細胞内に存在する酵素複合体で,ユビキチン修飾を受けたタンパク質を特異的かつ急速に分解する作用を持っていることから,多くの細胞周期制御因子,シグナル伝達因子,転写因子,癌および癌抑制遺伝子産物の分解を担うことにより細胞の増殖,分化およびアポトーシスを制御している.ボルテゾミブは,この26Sプロテアソームのキモトリプシン様部位に選択的に結合して阻害作用を発揮し,細胞周期の進行およびNF-κBの活性化調節するなどして腫瘍細胞にアポトーシスを誘導し抗腫瘍効果を発揮する.また,その後の研究から,ボルテゾミブは単一の分子標的である26Sプロテアソームを選択的に阻害することで複数のシグナル伝達経路に影響を与えることに加え,更に腫瘍中の血管新生抑制,骨髄腫細胞と骨髄ストローマ細胞との接着抑制および骨髄腫細胞の増殖に必要なIL-6分泌抑制など腫瘍周囲微小環境に作用して抗腫瘍効果を発揮することが明らかとなった.臨床試験では,複数回以上の前治療歴のある再発又は難治性多発性骨髄腫患者に対して30%の効果(PR)が認められ,同様の患者を対象とした海外臨床試験での効果(CR+PR:38%)とほぼ同等であったことから日本人患者においてもボルテゾミブの有効性が期待できることが示唆された.主な副作用は,骨髄抑制,胃腸障害,食欲不振,末梢性神経障害,発熱等であった.現在,ボルテゾミブは海外第III相試験にて,65歳以上で移植の適応とならない初発患者を対象に開発が進められており,近い将来国内外においても,これら患者への適応拡大が期待されている.
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© 2007 公益社団法人 日本薬理学会
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