日本薬理学雑誌
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130 巻, 5 号
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特集:神経系アクチン細胞骨格
  • 花村 健次, 白尾 智明
    2007 年 130 巻 5 号 p. 352-357
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    樹状突起スパインは脳内の主要な興奮性シナプス後部であり,その形態および構成タンパク質の可塑的変化は学習記憶などの高次機能に重要である.スパイン内の構造体としては,シナプス後部肥厚(PSD)とアクチン細胞骨格があり,スパインの形態変化は主にアクチン細胞骨格により制御されている.スパイン内ではその頭部と頸部でアクチン線維の構造が異なることに加えて,頭部の中でもシナプス直下のPSD近傍と細胞質の中心領域でアクチン結合タンパク質の分布が異なる.したがって,スパインは3種類の性質の異なるアクチン細胞骨格によって構成されていると考えられる.アクチンを脱重合させると,多くのスパイン構成タンパク質の局在が不安定化し,スパイン形態もフィロポディア様に変化する.従って,アクチン細胞骨格がスパイン形態の形成,安定化に必須であることがわかる.発達過程におけるアクチン細胞骨格の変化に関しては,スパインの前駆体であるフィロポディア内で,アクチン結合タンパク質ドレブリン依存的にアクチン線維が集積することがわかっている.この集積はその後のPSD95の集積やスパインの形態形成の制御に促進的に働く.成熟スパイン内においてもアクチン線維やドレブリン,プロフィリンをはじめとするアクチン結合タンパク質の量が神経活動依存的に増減することが知られており,アクチン結合タンパク質の構成変化がスパインの形態やその可塑的変化を制御する基盤と考えられる.実際,アクチン結合タンパク質に変異を導入した遺伝子変換動物では,シナプス伝達効率の可塑的変化に異常をきたすことが報告されている.スパインの形態形成とアクチン細胞骨格の異常は認知機能の異常を伴うヒト脳の疾患でも数多く知られており,その制御機構の解明は急務である.
  • 東海林 幹夫
    2007 年 130 巻 5 号 p. 358-361
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病における現在の研究の進歩をまとめ,病態機序のうち最も直接的な原因物質がAβオリゴマーであることを指摘した.アルツハイマー病では発病早期からシナプス後膜のドレブリン(drebrin)が低下しており,この低下が記憶障害に相関していることが示されている.シナプス後膜におけるドレブリンの選択的低下はAβオリゴマーによることが最近明らかにされた.現在,ドレブリンはアルツハイマー病における主要な病理過程の重要な分子として登場しつつあり,今後の研究の進展が望まれている.
  • 中川 裕之, 西原 恵利
    2007 年 130 巻 5 号 p. 362-366
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    神経細胞が細胞体から伸長した神経突起の先端は成長円錐と呼ばれ,葉状仮足と糸状仮足が存在する.アクチン繊維は,葉状仮足内部で網目状構造を形成しているが,糸状仮足内部では束状の構造を形成している.成長円錐では,葉状仮足から糸状仮足が伸長することから,糸状仮足は葉状仮足のアクチン繊維がアクチン繊維結合タンパク質によって束化されると伸長されると考えられている.しかし,蛍光タンパク質を融合した複数種のアクチン繊維結合タンパク質の動態の解析から,それらのタンパク質は糸状仮足のアクチン繊維束において,アクチン繊維に結合した状態と解離した状態の間で速い交換(ターンオーバー)がされていることが,最近示された.この結果から,糸状仮足のアクチン繊維束は,葉状仮足内の繊維が束ねられたものではなく,葉状仮足内で独立に伸長している可能性を示唆している.
  • 寺崎 朝子
    2007 年 130 巻 5 号 p. 367-372
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    神経細胞のアクチン系細胞骨格は含量が少ないものの,成長円錐の運動やスパインの形成など神経ネットワークの形成に必須の機能を持つ.神経組織のアクチン系細胞骨格を制御するタンパク質を探索するためにニワトリ脳をアフィニティカラム法の一種であるFアクチンカラムで解析したところ,多くの結合タンパク質が得られた.これらをイムノブロット,アミノ酸シークエンサーおよび質量分析で解析し,新規アクチン結合タンパク質lasp-2を同定した.アミノ酸シークエンスや質量データを用いたタンパク質の解析ではデータベースの選択など解析上の条件検討が重要であるだけでなく,実験データとの整合性を考慮しながら検索結果を解釈する必要があった.
総説
  • 多田 稔, 小林 哲夫, 紺谷 圏二, 堅田 利明
    2007 年 130 巻 5 号 p. 373-379
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    低分子量Gタンパク質は,GDP結合型とGTP結合型のコンホメーション転換により,上流からのシグナルを下流に伝達する“分子スイッチ”として,細胞内情報伝達系の中心的な役割を果たしている.Rasの例に代表されるように,低分子量Gタンパク質を介する情報伝達系の乱れは,癌をはじめとする疾患の原因にもなっている.これまでに同定された様々な種類の低分子量Gタンパク質の研究から,それらが細胞増殖や分化,細胞運動,細胞内小胞輸送などの基本的な細胞機能を制御することが明らかにされてきた.一方,近年のゲノムプロジェクトの進展に伴い,既存の低分子量Gタンパク質群とは異なる新奇低分子量Gタンパク質が複数存在することが明らかになり,それらの生理的役割が注目されつつある.本総説ではこれらに関する最近の知見を含めて,低分子量Gタンパク質研究の進展を紹介したい.
  • ─現状と今後の展望─
    和田 裕雄, 岡崎 充宏, 横山 琢磨, 倉井 大輔, 後藤 元
    2007 年 130 巻 5 号 p. 380-385
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    「成人市中肺炎診療ガイドライン」(日本呼吸器学会編)は,(1)科学的根拠に基づく医療Evidence-based medicine(EBM)を提示し,(2)モニタリングやエビデンスの調査等で改定を行っていく,(3)開業医から勤務医まで,全員で同じガイドラインを使用出来る,など使用する側の立場に立って作成された.多くの抗菌薬が登場しているが,感染症の診療は,原因微生物の同定と感染臓器の特定,抗菌薬の選択とPK/PD理論に基づく投与法の決定という目前の感染症患者の治療はもちろん,耐性菌の出現を阻止するための数々の工夫,すなわち感染制御を実践することも必要である.また,感染症は慢性炎症を引き起こし,悪性疾患,動脈硬化,喘息などの発症と関与しうるとの報告もみられるが,マクロライド系のように免疫調節作用がある抗菌薬もあり,抗菌薬治療で一部の慢性疾患の治療も行える可能性が期待される.本稿では以上の項目を概説する.
実験技術
  • 安東 嗣修, 倉石 泰
    2007 年 130 巻 5 号 p. 386-392
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    マウスにおいて後肢による掻き動作をかゆみの指標とすることが可能であることが示されて以来,種々のかゆみの動物モデルが報告されてきた.内因性の起痒物質としてヒスタミン,セロトニン,サブスタンスPなどがよく用いられ,これらを吻側背部に皮内注射すると後肢による掻き動作が引き起こされるが,ヒスタミンが明らかな掻き動作を引き起こすマウスの系統は限られる.即時型アレルギーのかゆみのマウスモデルとして,受身皮膚アナフィラキシーと蚊刺アレルギーがあるが,これらのかゆみの発生機序は異なる.接触性皮膚炎のかゆみのマウスモデルではハプテンが反復塗布される.乾皮症のかゆみのマウスモデルを作製するには,脱脂処理の直後に水で処理することが必要であり,角質層から水溶性の天然保湿因子の喪失がかゆみの一因であると考えられる.アトピー性皮膚炎のかゆみに関しては,NC系マウス,DS-Nh系マウス,ヘアレスマウスなど特殊な系統のマウスが用いられる.掻き動作の計測は,ビデオ撮影による観察,画像解析,磁場変化検出などで行われる.それぞれに一長一短があるので,実験目的に応じて使い分ける必要がある.かゆみに関係した掻き動作を計測するには,かゆみが心理・精神的な影響を非常に受けやすい感覚であることを考慮することが大切である.
治療薬シリーズ(20)慢性動脈閉塞症
  • 高橋 健三
    2007 年 130 巻 5 号 p. 393-397
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    閉塞性動脈硬化症(ASO)は動脈硬化により四肢末梢動脈が慢性的に狭窄・閉塞したために循環障害を来した病態であり,冷感,間歇性跛行,安静時疼痛,潰瘍・壊死などの虚血性の臨床症状を示す.既存の治療薬は抗血小板作用や血管拡張作用などにより虚血肢の末梢循環を改善し,一定の治療効果を示している.しかし,最も多い症状である間歇性跛行に対する明確な有効性を示す薬物は少なく,わが国ではその臨床効果も検証されていない.現在,既存薬の改良型や新規作用メカニズムの薬剤の開発が進められており,動物での薬効評価には下肢虚血モデルでの歩行障害も導入されてきている.また,血管新生療法の研究から治療薬の新しいターゲットもクローズアップされてきている.ASOは潜在患者数と治療薬の完成度から考えると,重要な領域の一つであり,より優れた治療薬の開発が期待される.
  • ─現状と今後の治療薬に期待すること─
    蜂谷 貴
    2007 年 130 巻 5 号 p. 398-401
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    近年の高齢化,生活様式の欧米化により閉塞性動脈硬化症(ASO)は増加の一途である.ASOは動脈硬化性変化に由来する狭窄・閉塞により四肢末梢の循環障害から虚血症状をきたす疾患である.臨床症状はFontaine分類で表わされI度無症状,II度間歇性跛行,III度安静時痛,IV度潰瘍・壊死であり,II度の間歇性跛行を主訴とするものが全体の8割ほどである.これら症例の増加に伴い治療指針が必要となり,2007年TASCIIが発表され,現在日常診療に利用されている.本邦で現在使用可能な薬剤はFontaineIIIIV度を対象として開発されてきたため,重症虚血肢への効能は確認されているものの,その他の症状には効果が確認されていない.TASCIIでは間歇性跛行への薬物療法が推奨されており,今後本邦においても間歇性跛行への効能・効果をもった薬剤の出現が期待される.
創薬シリーズ(3)その2 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • ─その概要と適用範囲
    永見 和之
    2007 年 130 巻 5 号 p. 403-407
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    過去の薬害事件から学ぶように,新規医薬品の開発において,安全性を正しく評価することが極めて重要ですが,試験データそのものは実体がなく,その信頼性は品質管理システムと品質保証システムの考え方を取り入れたシステムによってのみ保証することが可能であり,そのことが承認申請資料に用いられる非臨床安全性試験にGood Laboratory Practice(GLP)が適用される理由です.GLPはソフトとハードの両面から遵守すべき事柄を規定したものといえ,その基本構成は,責任体制の明確化,試験方法の標準化,信頼性保証部門の設置,適切な施設設備・機器の使用と管理です.運営管理者は信頼性の高い組織の構築と運営を行い,試験責任者は試験の実施過程において信頼性確保に努め,信頼性保証部門責任者はその信頼性を第三者的に保証します.各GLP施設は(独)医薬品医療機器総合機構による定期的なGLP適合性調査を受け,安全性試験の信頼性が評価されています.  医薬品開発におけるGood Laboratory Practice(GLP)とは,新規医薬品の承認申請資料として用いられる非臨床安全性試験において,その試験の重要性からデータの信頼性をシステムとして保証するためにソフトとハードの両面から規定を定めたものといえます.GLPは医薬品の他,医療機器,化学物質,農薬,動物用医薬品および飼料添加物にも適用され,薬事法,農薬取締法,化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法),労働安全衛生法(安衛法)などを根拠として所轄省庁の省令で定められ,それぞれの目的に応じてGLP適用試験の種類が定められています.ここでは,医薬品GLPを中心にGLPを概説したいと思います.
  • 西村(鈴木) 多美子
    2007 年 130 巻 5 号 p. 408-411
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    わが国の医薬品GLP試験施設のレベルは世界のトップクラスであり,わが国は医薬品GLP試験データの輸出国の1つである.医薬品GLPは医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施のための基準であり,OECD-GLPに準じて制定されている.GLP試験データは新医薬品の開発を進めるかどうかの判断の1つであるので,データの品質と信頼性を確保するために既定されたGLPのソフトとハードのシステムに則って試験を実施することが求められている.新医薬品の承認申請のためのGLP試験は,基準への適合性を医薬品医療機器総合機構(総合機構)で調査される.そのため,GLP制定の経緯,わが国のGLP調査およびGLP調査を受ける際の注意点,さらに,総合機構の今後の取り組み等について解説した.わが国で実施されたGLP試験データが,わが国発の新医薬品の開発に繋がり,病気で苦しむ世界の患者の方々を救い続けることに期待している.
新薬紹介総説
  • 松村 学, 杉原 博
    2007 年 130 巻 5 号 p. 413-420
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    ソナゾイド®注射用は,ペルフルブタン(C4F10,PFB)ガスを水素添加卵黄ホスファチジルセリンナトリウムで安定化したPFBマイクロバブル(以下マイクロバブル)を有効成分とし,超音波検査における肝腫瘤性病変の造影を目的とする.マイクロバブルは超音波を効率良く反射するが,ソナゾイドは静脈内投与すると肺の毛細血管床を通過して肝循環に到達するため,ハーモニックモードによる造影超音波検査(造影超音波)では明瞭な肝臓造影効果が得られる.正常ウサギにおいて,本剤は静脈内投与直後の血管造影(血管イメージング)と投与後5~10分以降に認められる肝実質造影(クッパーイメージング)の2種の造影パターンを示した.また,本剤をウサギ移植肝腫瘍モデルに投与すると,血管イメージングから腫瘍の血流情報が,クッパーイメージングから腫瘍と肝実質とのコントラストに基づく腫瘍の存在情報がそれぞれ得られた.病理所見との対比から,血管が分布する部位は血管イメージングで陽性に造影されることが示された.また,クッパー細胞が存在する部位はクッパーイメージングで陽性に造影され,その結果,クッパー細胞が存在しない腫瘍部はクッパーイメージングで陰性に造影された.クッパーイメージングの造影機作が,クッパー細胞によるマイクロバブルの貪食に起因することを,ラットおよびウサギの肝臓の電子顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡観察により検証した.以上から,血管イメージングは,肝腫瘤性病変の血管・灌流を造影することで病変の鑑別診断能向上が,またクッパーイメージングはクッパー細胞を持たない悪性腫瘍の検出能向上が期待された.本邦での肝腫瘤性病変を有する患者を対象とした単一用量多施設試験では,肝腫瘤性病変の鑑別診断の正診率および病変検出能において,本剤による造影超音波の方が非造影超音波検査(単純超音波)より優れることが検証された.また,副次的評価では,造影CT検査と比較して,正診率,病変検出能は同等以上であるという結果が得られた.肝癌のラジオ波焼灼療法(Radio Frequency Ablation,RFA)の治療効果判定では,造影CT検査による評価との一致性が高く,RFAによる治療効果判定に本剤の造影超音波が有用であることが示唆された.以上の基礎的検討および臨床試験成績より,ソナゾイド造影超音波は,肝腫瘤性病変の診断選択肢の一つとして加わるだけでなく,治療効果判定や疾患マネージメントにも貢献すると考えられる.
  • 藤井 秀二, 壽 嘉孝, 野村 俊治, 原田 寧
    2007 年 130 巻 5 号 p. 421-429
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/14
    ジャーナル フリー
    ボルテゾミブは,米国Millennium Pharmaceuticals, Inc.(以下,MPI社)により開発された,強力,可逆的かつ選択的なプロテアソーム阻害薬であり,本作用機序を有する薬剤としては世界初の抗悪性腫瘍剤である.26Sプロテアソームは細胞内に存在する酵素複合体で,ユビキチン修飾を受けたタンパク質を特異的かつ急速に分解する作用を持っていることから,多くの細胞周期制御因子,シグナル伝達因子,転写因子,癌および癌抑制遺伝子産物の分解を担うことにより細胞の増殖,分化およびアポトーシスを制御している.ボルテゾミブは,この26Sプロテアソームのキモトリプシン様部位に選択的に結合して阻害作用を発揮し,細胞周期の進行およびNF-κBの活性化調節するなどして腫瘍細胞にアポトーシスを誘導し抗腫瘍効果を発揮する.また,その後の研究から,ボルテゾミブは単一の分子標的である26Sプロテアソームを選択的に阻害することで複数のシグナル伝達経路に影響を与えることに加え,更に腫瘍中の血管新生抑制,骨髄腫細胞と骨髄ストローマ細胞との接着抑制および骨髄腫細胞の増殖に必要なIL-6分泌抑制など腫瘍周囲微小環境に作用して抗腫瘍効果を発揮することが明らかとなった.臨床試験では,複数回以上の前治療歴のある再発又は難治性多発性骨髄腫患者に対して30%の効果(PR)が認められ,同様の患者を対象とした海外臨床試験での効果(CR+PR:38%)とほぼ同等であったことから日本人患者においてもボルテゾミブの有効性が期待できることが示唆された.主な副作用は,骨髄抑制,胃腸障害,食欲不振,末梢性神経障害,発熱等であった.現在,ボルテゾミブは海外第III相試験にて,65歳以上で移植の適応とならない初発患者を対象に開発が進められており,近い将来国内外においても,これら患者への適応拡大が期待されている.
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