日本薬理学雑誌
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特集:生活習慣病から急性疾患に至るまでの血管内皮細胞障害の重要性
虚血・再灌流後の微小循環障害における血管内皮機能調節の重要性
射場 敏明
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2008 年 131 巻 2 号 p. 92-95

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抄録

急性動脈閉塞による虚血後臓器障害には,虚血性障害とともに活性化白血球による血管内皮細胞障害が関与している.したがって閉塞性動脈疾患の予防的治療にあたっては,これらを調節し得る抗血小板薬が選択されているか否かが,その後の機能障害を規定することになる.われわれは,動物モデルを用いて抗血小板薬の相違による虚血・再灌流後の臓器障害の違いを検討した.まずマウスの前腸間膜動脈をトータルクランプし,その後に再灌流を行って腸粘膜下微小循環の観察を行なった.治療としてはアスピリン,シロスタゾール,ジピリダモールの前投与をおこない,未治療群との間で,微小循環動態を比較した.その結果,再灌流後には,1)血小板の活性化,2)凝固の活性化,3)活性化白血球,さらにこれらによって生じる血栓形成や血管内皮細胞障害が微小循環障害と臓器障害の程度に関与していることが明らかとなった.そしてシロスタゾールやジピリダモールは,1)から3)を抑制するが,アスピリンは白血球の活性化を抑制できず,循環障害の緩和効果は不十分であることが示された.その理由としては,phosphodiesterase(PDE)3やPDE5阻害作用を有するシロスタゾールやジピリダモールは,血小板凝集のみならず白血球による内皮細胞障害を抑制し得ることが予想された.一方アスピリンはPGI2の合成を阻害して内皮の抗血栓性を低下させるため内皮細胞障害を緩和することはできず,循環改善効果は部分的なものにとどまると予想された.以上のことより,虚血・再灌流後の組織障害を予防するためには,血管内皮機能調節が重要であり,このような効果を有する薬剤によるプレコンディショニングが必要であると考えられた.

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