日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
抗凝固薬エノキサパリンナトリウム(クレキサン®皮下注キット2000 IU)の薬理学的特性および臨床試験成績
井本 孝一牧田 茂樹
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2009 年 133 巻 2 号 p. 91-98

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抄録

低分子量ヘパリンであるエノキサパリンナトリウム(クレキサン®皮下注キット2000 IU)はブタ由来の平均分子量約4500の抗凝固剤である.海外では静脈血栓塞栓症(VTE)の予防,治療および虚血性心疾患の治療等で使われ,低分子量ヘパリン製剤中,最も幅広い適応症を有し,現在までに世界100カ国以上で使用されている.本邦では,股関節全置換術(THR),膝関節全置換術(TKR)および股関節骨折手術(HFS)施行患者での本剤のVTEの予防効果が示され2008年1月に承認された.エノキサパリンナトリウムは,ヘパリンと同様,アンチトロンビン(AT)と複合体を形成し,ATの第Xa因子(Xa)およびトロンビン阻害作用を促進して抗凝固作用を示すが,その作用はヘパリンと異なり,トロンビンよりXaに対して選択的である.ヒト血漿でのエノキサパリンナトリウムの抗Xa/抗トロンビン活性比は,ヘパリンおよび他の低分子量ヘパリンより大きく,活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)延長作用は,ヘパリンおよび他の低分子量ヘパリンに比べ弱かった.ウサギ深部静脈血栓症(DVT)モデルへのエノキサパリンナトリウムの皮下投与は,用量依存的な腹部大静脈閉塞時間の延長および抗血栓作用を示した.ヘパリンと比べ,エノキサパリンナトリウムの抗血栓作用は同程度であり,血漿中抗Xa活性は高く,aPTTの延長作用は弱かった.また,ウサギ頸静脈血栓モデル,ウサギ頸動静脈シャント血栓モデルへのエノキサパリンナトリウムの静脈内投与は,いずれもヘパリンと同程度の抗血栓作用を示した.エノキサパリンナトリウムはヒト血小板のADP誘発一次凝集に影響を及ぼさなかったが,ヘパリンは一次凝集を増強させた.日本人健康成人男子を対象とした第I相臨床試験,さらにTHR,TKRおよびHFS施行患者を対象とした臨床試験が実施された.THRおよびTKR施行患者を対象にプラセボを比較対照とした二重盲検試験では,本剤20 mg 1日2回投与がプラセボに比較して有意なVTE発症の抑制を示し,安全性の重要な指標である出血事象の発現率では,プラセボに比べ有意差はみられなかった.以上の薬理試験ならびに臨床試験成績から,エノキサパリンナトリウムは抗凝固作用に基づいて下肢整形外科手術施行後の患者におけるVTE発症を抑制し,また,良好な安全性も示し,臨床的に有用性の高い薬剤であることが示された.

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© 2009 公益社団法人 日本薬理学会
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