日本薬理学雑誌
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133 巻 , 2 号
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総説
  • 小原 祐太郎, 中畑 則道, Philip J.S. Stork
    2009 年 133 巻 2 号 p. 63-68
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/13
    ジャーナル フリー
    Mitogen-activated protein kinase(MAPK)ファミリーに属するextracellular signal-regulated kinase(ERK)1/2は,細胞外の様々な刺激に応答し,細胞増殖,分化,生存促進作用などを媒介するリン酸化酵素である.また最も代表的なセカンドメッセンジャーであるcAMPは,様々な神経伝達物質やホルモン刺激などにより産生され,外界からの刺激に対する細胞応答を媒介する.cAMPによりERK1/2が抑制される細胞が存在する一方,逆にcAMPを介してERK1/2が活性化される場合もある.神経系の細胞においては後者の場合が多く,神経細胞の分化,生存,記憶学習に関連する様々な遺伝子の発現促進作用などにERK1/2が関与する.そこで,本稿ではcAMPによるERK1/2の活性制御機構を低分子量Gタンパク質のRasとRap1,さらにそれらのエフェクター分子であるRafの役割を中心に解説する.神経系細胞のモデル細胞として汎用されているPC12細胞においては,cAMP/PKA/Src/Rap1/B-Rafのシグナル伝達経路がcAMPによるERK1/2の活性化とPC12細胞の分化に必須なものと推定される.一方,小脳顆粒神経細胞においては,cAMP/PKA/Ras/B-Rafのシグナル伝達経路がERK1/2の活性化に重要な役割を担っており,Rap1の役割は部分的であることが示唆される.以上のように,PC12細胞,小脳顆粒神経細胞ともにcAMPを介してERK1/2の活性化を引き起こすが,PC12細胞においてはRap1が,そして小脳顆粒神経細胞においてはRasが中心的にcAMPによるERK1/2の活性化を媒介しており,cAMPが細胞特異的に2種類の低分子量Gタンパク質を巧妙に使い分けているものと考えられる.
治療薬シリーズ(33) 標的分子薬-4-(2)
  • 田村 研治
    2009 年 133 巻 2 号 p. 69-72
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/13
    ジャーナル フリー
    がん領域に「分子標的薬剤」が盛んに導入されている.なかでも,上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)ファミリーと血管内皮成長因子受容体(vascular epidermal growth factor:VEGF)に対する薬剤が注目される.EGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるエルロチニブまたはゲフィチニブ,EGFR抗体であるセツキシマブ,EGFR type2(HER2)抗体であるトラスツズマブ,VEGF抗体であるベバシズマブ,VEGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるソラフェニブなどは,非小細胞肺がん,乳がん,大腸がん,腎細胞がんなどで,標準的治療法に加えられ,本邦でも承認されている.標的分子の状況から効果が期待できる患者集団を選択することは,これら分子標的薬剤の治療効果を向上させ,効果が期待されない症例に別の治療機会を与える上で重要である.
治療薬シリーズ(34) 男性型脱毛症治療薬(1)(2)
  • 山田 久陽, 池田 明子
    2009 年 133 巻 2 号 p. 73-77
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/13
    ジャーナル フリー
    男性型脱毛症(Androgenetic alopecia, AGA)は,遺伝的背景および男性ホルモンによって主に男性に生ずる病態で,頭頂部や前頭部の毛髪が細く短くなり,外観上,薄毛と認識されるようになる.AGAは生死に関わる疾患ではないが,薄毛に悩むヒトは多く,AGA治療薬の開発に注目が集まっている.AGA治療薬開発のターゲットとしては,STAT3,BMP,WNTおよびSHHなど毛周期の休止期から成長期への移行,すなわち発毛促進作用に関係する分子と,男性ホルモン受容体およびTGF-βなど,短縮した成長期を本来の長さに戻し,太い毛を育てる作用に関係する分子が考えられる.治療効果を有する化合物は,in vitroの系で毛乳頭,毛包上皮あるいはそれらの共存培養系,毛包の器官培養によりスクリーニング可能である.in vivoではマウスで休止期から成長期への誘導あるいは成長期の延長が評価でき,ヒトに酷似したAGAの病態を発症するベニガオザルを用いた評価も行われる.
  • 坪井 良治
    2009 年 133 巻 2 号 p. 78-81
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/13
    ジャーナル フリー
    男性型脱毛症の治療は代表的な若返りのひとつであり,一般の人々の関心も高い.男性型脱毛症(壮年性脱毛)の診断と病態を簡単に述べるとともに,男性型脱毛症に対する治療の現状と展望について概説した.現在は,内服治療薬であるフィナステリドと外用育毛剤であるミノキシジルが,安全で有効性の高い薬剤として,単独ないし併用で広く使用されている.このほかにも数多くの外用育毛剤が使用されているが,育毛・発毛・ヘアケアに関する根拠のない情報も氾濫しているので,エビデンスに基づいた情報の提供が求められている.
創薬シリーズ(3) その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • 茶谷 文雄
    2009 年 133 巻 2 号 p. 82-86
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/13
    ジャーナル フリー
    精巣は次世代をつくるための精子産生と雄性機能発揮のためのホルモン産生を担う生殖器官であり,医薬品開発時の動物を用いた毒性試験においてしばしば変化が認められる.精巣毒性の多くは精上皮細胞(精細胞とセルトリ細胞)を標的とし,萎縮,空胞,多核巨細胞,脱落,消失,精子遊離遅延などの変化が生じる.精巣毒性の評価には,精子形成段階を理解した病理組織学的検査と安全マージンや病変発現メカニズムを考慮したヒトへの外挿性の判断が重要である.
  • 長野 嘉介
    2009 年 133 巻 2 号 p. 87-90
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/13
    ジャーナル フリー
    呼吸器は,空気から酸素を取り入れ血液から二酸化炭素を放出するガス交換を行うための器官である.空気中に存在す化学物質は呼吸を通して体内に入るため,呼吸器はこれらの化学物質に最初に接触しその影響を最も受けやすい器官である.このため,大気汚染物質による健康障害では呼吸器が標的器官となることが多い.医薬品の分野では,吸入以外の経路でも抗癌剤等による薬剤性肺障害の報告があり,本誌でも詳しい総説がある(1).また,近年は経鼻投与など経気道的に投与する薬剤の実用化が進んでおり,医薬品の開発に際して鼻腔などの気道を含む呼吸器への直接的な接触による副作用が課題になってきている.本稿では,鼻腔等の気道を中心として,呼吸器の構造と機能,呼吸器毒性の検査法,薬剤等による呼吸器毒性について概説する.
新薬紹介総説
  • 井本 孝一, 牧田 茂樹
    2009 年 133 巻 2 号 p. 91-98
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/13
    ジャーナル フリー
    低分子量ヘパリンであるエノキサパリンナトリウム(クレキサン®皮下注キット2000 IU)はブタ由来の平均分子量約4500の抗凝固剤である.海外では静脈血栓塞栓症(VTE)の予防,治療および虚血性心疾患の治療等で使われ,低分子量ヘパリン製剤中,最も幅広い適応症を有し,現在までに世界100カ国以上で使用されている.本邦では,股関節全置換術(THR),膝関節全置換術(TKR)および股関節骨折手術(HFS)施行患者での本剤のVTEの予防効果が示され2008年1月に承認された.エノキサパリンナトリウムは,ヘパリンと同様,アンチトロンビン(AT)と複合体を形成し,ATの第Xa因子(Xa)およびトロンビン阻害作用を促進して抗凝固作用を示すが,その作用はヘパリンと異なり,トロンビンよりXaに対して選択的である.ヒト血漿でのエノキサパリンナトリウムの抗Xa/抗トロンビン活性比は,ヘパリンおよび他の低分子量ヘパリンより大きく,活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)延長作用は,ヘパリンおよび他の低分子量ヘパリンに比べ弱かった.ウサギ深部静脈血栓症(DVT)モデルへのエノキサパリンナトリウムの皮下投与は,用量依存的な腹部大静脈閉塞時間の延長および抗血栓作用を示した.ヘパリンと比べ,エノキサパリンナトリウムの抗血栓作用は同程度であり,血漿中抗Xa活性は高く,aPTTの延長作用は弱かった.また,ウサギ頸静脈血栓モデル,ウサギ頸動静脈シャント血栓モデルへのエノキサパリンナトリウムの静脈内投与は,いずれもヘパリンと同程度の抗血栓作用を示した.エノキサパリンナトリウムはヒト血小板のADP誘発一次凝集に影響を及ぼさなかったが,ヘパリンは一次凝集を増強させた.日本人健康成人男子を対象とした第I相臨床試験,さらにTHR,TKRおよびHFS施行患者を対象とした臨床試験が実施された.THRおよびTKR施行患者を対象にプラセボを比較対照とした二重盲検試験では,本剤20 mg 1日2回投与がプラセボに比較して有意なVTE発症の抑制を示し,安全性の重要な指標である出血事象の発現率では,プラセボに比べ有意差はみられなかった.以上の薬理試験ならびに臨床試験成績から,エノキサパリンナトリウムは抗凝固作用に基づいて下肢整形外科手術施行後の患者におけるVTE発症を抑制し,また,良好な安全性も示し,臨床的に有用性の高い薬剤であることが示された.
  • 車谷 元
    2009 年 133 巻 2 号 p. 101-111
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/13
    ジャーナル フリー
    ケアロード®LA錠60μg,ベラサス®LA錠60 μgは,プロスタサイクリン(PGI2)誘導体であるベラプロストナトリウム(BPS)を有効成分とする経口徐放性製剤であり,2007年10月,「肺動脈性肺高血圧症」(PAH)を効能・効果として承認を取得した.BPSは東レ株式会社で創製された経口投与可能なプロスタサイクリン誘導体であり,その通常錠であるドルナー®錠20μg,プロサイリン®錠20は1992年の発売以降広く臨床応用されている.本剤は,有効血漿中濃度の持続化,Cmaxの抑制による服用回数の低減とともに,1日服用量の増加による治療効果の向上を目的としたものである.通常錠での知見やin vitroでの薬理作用から設定した目標血漿中濃度推移を達成することは,BPSの血漿中半減期が約1時間と短いために困難であったが,独自のハイドロゲルマトリックス製剤とすることでこれをクリアし,プロスタグランジン(PG)製剤としては世界に類のない経口徐放性製剤を完成させた.本剤は,肺動脈性肺高血圧症に対して,肺血管の選択的な拡張作用,抗血小板作用,血管平滑筋細胞の増殖抑制作用などによってその病態を改善する.血小板凝集抑制作用が本剤投与後12時間持続すること,他の作用も血小板凝集抑制作用に類似した濃度-作用関係を示すことから,1日2回投与とした.健康成人における第I相試験で良好な徐放特性が確認されたため,「原発性肺高血圧症および膠原病に伴う肺高血圧症」の患者を対象とし,漸増法を用いた第II相試験によって,本剤の有効性および安全性を評価した.その結果,主要評価項目である「6分間歩行距離の差」に加え,「平均肺動脈圧」や「全肺血管抵抗」での効果が示された.本剤は,WHO機能分類I度,II度の軽度患者からの投与が認められていること,CYPで代謝される薬物との併用によって互いに血漿中濃度に影響を及ぼす可能性が低いと推察されることなど,使用にあたっての利便性が高いことから,今日なお難治性疾患である肺動脈性肺高血圧症治療に,新たな選択肢を提供するものとしてその将来が期待される.
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