日本薬理学雑誌
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実験技術
ヒト組織バンクから供給される手術摘出組織の研究利用
吉田 東歩
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2009 年 134 巻 6 号 p. 315-319

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抄録

ヒューマンサイエンス研究資源バンクは,厚生労働省支援のもとに1995年に開設され,(独)医薬基盤研究所で収集,品質管理した細胞,遺伝子を産学官の研究者に有償で分譲している.また,国内で最初の公共的ヒト組織バンクを2001年からスタートした.ヒト組織バンクで取り扱う対象は,外科手術等で摘出され,診断などに不要と判断された組織またはその組織に由来する試料である.これらのヒト試料は,提供者への十分な説明と同意のもとに,匿名化などの個人情報保護に係る手続きを厳重に行った上で11医療機関から提供されている.ヒト試料の保存形態は,凍結,固定,新鮮(冷蔵)の3種類で,一部は組織から細胞や細胞内画分に加工され,凍結試料として保存している.凍結組織は,肝,胃,小腸,大腸,皮膚などで,癌部位,非癌(正常)部位,癌部位と非癌部位のペアー組織がある.固定組織は,胃,大腸,乳腺,甲状腺の癌部位,非癌部位をパラフィン包埋したブロックである.これらに加え,「生きた」状態の細胞を研究利用したいという研究者の要望に応えるため,2006年から新鮮組織の譲渡を始めた.現在,皮膚,滑膜,内臓脂肪,大腸・胃・食道・膵臓の癌部位と非癌部位のペアー組織が譲渡可能で,摘出後数時間以内に冷蔵状態で研究機関に譲渡している.これまでに,皮膚は培養皮膚の作製や薬物代謝研究,滑膜は,薬理学研究や滑膜細胞の増殖制御研究,内臓脂肪は脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化調節機構の研究,大腸・胃は癌研究の目的で有効に利用されている.また,腸間膜脂肪組織から脂肪前駆細胞を調製し,凍結チューブで譲渡する事業も開始した.医学・薬学研究でヒト組織の需要は増しているが,国内での供給体制は十分でない.研究に有用なヒト組織の種類,質,量を確保し,海外から入手困難な新鮮組織について,保存条件,加工技術,品質管理法の開発を進めたい.

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© 2009 公益社団法人 日本薬理学会
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