日本薬理学雑誌
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134 巻 , 6 号
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総説
  • 田辺 光男, 高須 景子, 小野 秀樹
    2009 年 134 巻 6 号 p. 299-303
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/14
    ジャーナル フリー
    抗てんかん薬ガバペンチンは,欧米において神経因性疼痛治療薬としての地位を確立しているが,その作用メカニズムについては未解明な部分が多い.我々はその作用部位として上位中枢に焦点を当てた研究を行い,脳室内投与したガバペンチンが神経損傷(マウス坐骨神経部分結紮モデル)後の疼痛症状(熱痛覚過敏および機械アロディニア)に対し障害依存的な鎮痛作用を発揮することを示し,ガバペンチン全身投与後の鎮痛作用において,上位中枢を介する効果が大きく寄与することを見出した.ガバペンチンの全身投与あるいは脳室内投与によって引き起こされる鎮痛効果は,脳幹から脊髄へ下行するノルアドレナリン(NA)神経を消失させると大幅に減弱し,また,α2-アドレナリン受容体アンタゴニストヨヒンビンの全身投与や脊髄内投与によって同様に減弱した.脳室内投与したガバペンチンが脊髄腰部膨大部のNA代謝回転を神経障害依存的に促進させたことからも,上位中枢に作用したガバペンチンが下行性NA神経を介して脊髄内においてNA遊離を増加させ,α2-アドレナリン受容体を介した鎮痛効果を発揮すると考えられる.さらに,坐骨神経部分結紮による神経障害後に作製したマウス脳幹スライスの青斑核ニューロンにおいて,ガバペンチンはGABA性の抑制性シナプス伝達をシナプス前性に抑制することを明らかにした.Sham手術マウス由来のスライスではガバペンチンはこの抑制性シナプス伝達抑制作用を示さず,また,神経障害後でも興奮性シナプス伝達に対しては影響を及ぼさなかった.これらの研究結果より,ガバペンチンは青斑核においてGABA性の抑制性入力を抑制することによって青斑核ニューロンを脱抑制し,下行性NA疼痛抑制経路を活性化させて神経因性疼痛を緩解することが示唆された.
  • 吾郷 由希夫, 田熊 一敞, 松田 敏夫
    2009 年 134 巻 6 号 p. 304-308
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/14
    ジャーナル フリー
    ストレス応答の中核を担う視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA系)は,外部環境刺激に適応していくために必要不可欠なものであり,その機能破綻は精神疾患の発症に深く関与していると考えられる.うつ病患者の多くで,デキサメタゾン/コルチコトロピン放出ホルモン負荷(DEX/CRH試験)における血中コルチゾール値の上昇といったHPA系のネガティブフィードバック機能障害が認められ,この障害が抗うつ薬や電気けいれん療法による抑うつ症状の寛解と同調して改善されることから,うつ病の生物学的マーカーの一つと考えられており,HPA系の機能維持はうつ病治療の標的である可能性が示されている.このような背景のもと,HPA系のネガティブフィードバック制御を担うグルココルチコイド受容体(GR)はその標的分子として注目されており,これまでに精神病性うつ病に対するGR拮抗薬の有効性が見出されている.また我々は,環境ストレス負荷モデルとしての長期隔離飼育マウス,およびグルココルチコイド長期負荷マウスを用いることで,GR拮抗薬の抗うつ様作用を示し,脳内モノアミン神経伝達物質遊離の解析から,本作用における前頭前野ドパミン神経活性との関連を見出した.一方,うつ病患者において海馬ミネラルコルチコイド受容体(MR)の発現量の低下や,抗うつ薬の長期投与によるMRの発現増加が示されており,さらに近年,遺伝学的解析からMR遺伝子多型とうつ病との関連が見出されるなど,うつ病態や抗うつ薬の作用発現におけるMRの重要性が指摘されている.そこで本稿では,HPA系の機能異常とうつ病の関連について,GRおよびMRの役割に焦点を当てながら概説し,またうつ病治療薬として開発進行中のGR拮抗薬の最新情報について紹介する.
  • 嶋澤 雅光, 原 英彰
    2009 年 134 巻 6 号 p. 309-314
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/14
    ジャーナル フリー
    我が国の中途失明疾患には,緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性症(age-related macular degeneration:AMD)および網膜色素変性症などがある.これらの失明性疾患の多くは網膜細胞の変性に起因することが知られている.しかしながら,それらの病態の機序については十分には解明されていない.一方,最近これらの眼疾患の一部とアルツハイマー病(Alzheimer disease:AD)との関連が指摘されている.すなわち,AD患者において網膜機能の低下,網膜神経節細胞の減少および視神経変性が高率に認められている.さらに,AD患者における緑内障の発症率が高いことが明らかにされた.ADは認知機能の低下,人格の変化を主な症状とする認知症の一種であり,その発症には脳内のアミロイドβペプチド(Aβ)の凝集・蓄積が引き金となり,神経細胞の変性・脱落が惹起されると考えられている(アミロイド仮説).現在,本仮説に基づいてAD患者の脳内におけるAβの産生または蓄積を抑える様々な治療法が試みられている.最近,我々は緑内障および糖尿病網膜症患者の硝子体液中のAβ1-42の著明な低下およびタウタンパクの上昇を見出した.これらの変化はAD患者脳脊髄液中の変動と類似していた.また,AMDにおける唯一の前駆病変と考えられるドルーゼン中の構成成分としてAβが高頻度に存在することが報告された.これらの知見はこれらの網膜疾患とADの間に共通の病態発症機序が存在し,とくにAβが網膜疾患の病態に深く関わっている可能性を示唆している.本稿では網膜疾患のなかでADとの関連がとくに示唆されている緑内障および加齢黄斑変性症について,治療の現状とその病態の発症におけるAβの関与並びにアミロイド仮説に基づいた治療の可能性について概説する.
実験技術
  • 吉田 東歩
    2009 年 134 巻 6 号 p. 315-319
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/14
    ジャーナル フリー
    ヒューマンサイエンス研究資源バンクは,厚生労働省支援のもとに1995年に開設され,(独)医薬基盤研究所で収集,品質管理した細胞,遺伝子を産学官の研究者に有償で分譲している.また,国内で最初の公共的ヒト組織バンクを2001年からスタートした.ヒト組織バンクで取り扱う対象は,外科手術等で摘出され,診断などに不要と判断された組織またはその組織に由来する試料である.これらのヒト試料は,提供者への十分な説明と同意のもとに,匿名化などの個人情報保護に係る手続きを厳重に行った上で11医療機関から提供されている.ヒト試料の保存形態は,凍結,固定,新鮮(冷蔵)の3種類で,一部は組織から細胞や細胞内画分に加工され,凍結試料として保存している.凍結組織は,肝,胃,小腸,大腸,皮膚などで,癌部位,非癌(正常)部位,癌部位と非癌部位のペアー組織がある.固定組織は,胃,大腸,乳腺,甲状腺の癌部位,非癌部位をパラフィン包埋したブロックである.これらに加え,「生きた」状態の細胞を研究利用したいという研究者の要望に応えるため,2006年から新鮮組織の譲渡を始めた.現在,皮膚,滑膜,内臓脂肪,大腸・胃・食道・膵臓の癌部位と非癌部位のペアー組織が譲渡可能で,摘出後数時間以内に冷蔵状態で研究機関に譲渡している.これまでに,皮膚は培養皮膚の作製や薬物代謝研究,滑膜は,薬理学研究や滑膜細胞の増殖制御研究,内臓脂肪は脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化調節機構の研究,大腸・胃は癌研究の目的で有効に利用されている.また,腸間膜脂肪組織から脂肪前駆細胞を調製し,凍結チューブで譲渡する事業も開始した.医学・薬学研究でヒト組織の需要は増しているが,国内での供給体制は十分でない.研究に有用なヒト組織の種類,質,量を確保し,海外から入手困難な新鮮組織について,保存条件,加工技術,品質管理法の開発を進めたい.
  • 淺井 康行
    2009 年 134 巻 6 号 p. 320-324
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/14
    ジャーナル フリー
    創薬研究においてcell–based assayと呼ばれる細胞機能性試験は,簡便・迅速なアッセイ方法として頻用されている.これまでの細胞機能性試験で使われる細胞は,旺盛な増殖能を有するCHO細胞やHeLa細胞といったがん化した動物由来あるいはヒト由来の細胞株に目的とするターゲット分子の遺伝子を導入したものであった.しかし,このような細胞を用いたアッセイ系の一部はヒトへの外挿性はあまり高くはないことが経験的にわかってきた.一方,外挿性の低さを克服するためのフェノタイプ(形質)利用アッセイで主として用いられる初代培養細胞は,実験に用いるまでの工程が煩雑である上に,得られた細胞が脆弱であったり,ロット間のバラツキが大きかったりHTSに必要な細胞量を確保することが難しい細胞が多いことが欠点であった.このような状況から,これまで使用されている細胞株のように大規模な実験に使用できるほどの細胞量を容易に確保することができ,かつ,初代培養細胞のようにnativeに近い細胞として幹細胞由来細胞が期待され実用化され始めている.ES/iPS細胞由来心筋細胞を用いたQT延長アッセイ系(QTempo:QT prolongation Examination with Myocardia derived from Pluripotent cell)は,化合物を創薬早期に検索し創薬後期以降での“ドロップアウト”を少なくすることを主眼に置いて研究開発されてきた.QT延長関連試験は用いる細胞材料や検出法によりいくつかの方法があるが,本法はAPD(action potential duration)検出手法とヒトへの創薬に適していると考えられているサルES細胞やヒトiPS細胞を組み合わせたものである.われわれが構築したアッセイ系において化合物を評価することでよりヒトへの外挿性の高い心毒性の予測が可能となる.
  • 森 文隆, 阿部 正章
    2009 年 134 巻 6 号 p. 325-329
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/14
    ジャーナル フリー
    ヒト前立腺肥大の病態モデルとして,種々モデルが薬効評価に使用されている.ラットにおいては,テストステロン(さらにはエストラジオール添加)負荷による前立腺肥大モデルが汎用されているが,前立腺の組織変化をみた場合,ヒト病態組織像との乖離が大きい.ヒトの前立腺肥大の組織像は,平滑筋やマトリックス成分など,主に間質成分より構成され,いわゆる間質肥大と言われているのに対し,ラットにおいてはそもそも前立腺の構成成分が腺成分優位であるため,ホルモン負荷により腺成分の肥大が顕著な組織像を呈する.このように,ヒトでの前立腺組織像を反映するような間質肥大を呈する前立腺肥大症の動物モデルがないために,その発症メカニズムの解明はおろか,ヒト前立腺肥大で特徴的な間質肥大に対する薬剤の有効性を評価することも難しい現状である.そこで,筆者らは,ラット胎仔の未分化な前立腺組織である泌尿生殖洞(urogenital sinus:UGS)を成体ラットの前立腺被膜下に移植するという手法を用いることで,そのUGSがヒトの前立腺肥大症組織と同様に間質肥大を呈するモデルを作製する事に成功した.その移植UGSは間質肥大を呈するだけでなく,その間質性成分の割合や,間質肥大の原因とも考えられている増殖因子の発現状況なども,ヒトの前立腺肥大での報告と同様な傾向を示した.さらには,抗アンドロゲン薬の効果についても,臨床での効果に類似した結果が得られた.これらの結果より,今回作製した新規前立腺肥大症モデルは,これまでにない臨床の前立腺肥大の病理組織を反映したモデルであり,今後,前立腺肥大症の発症メカニズムの解明に貢献するだけでなく,現在の治療体系を大きく変えうる新薬の創製に貢献するモデルとなることが期待される.
創薬シリーズ(4) 化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その3) 代謝(6)(7)(8)
  • 太田 之弘
    2009 年 134 巻 6 号 p. 330-333
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/14
    ジャーナル フリー
    投与した薬物が代謝酵素誘導能を持つ場合,もし併用薬が同じ酵素により代謝されると,併用薬の血中濃度低下が亢進し,薬効発現に必要な濃度を維持することができず,期待された薬効が得られない恐れがある.主要薬物代謝酵素であるチトクロムP-450(CYP)で代謝される薬物,その中でもCYP3Aで代謝される薬物は多く,酵素誘導による併用薬の薬効低下に注意する必要がある.本稿では創薬初期段階におけるCYP誘導評価方法について解説し,中外製薬(株) 研究本部でのスクリーニング運用実践例および誘導能の判定基準について紹介する.さらに,操作方法の留意するポイントとして,取り扱いが難しいヒト凍結肝細胞による活性評価について解説する.
  • 横井 毅
    2009 年 134 巻 6 号 p. 334-337
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/14
    ジャーナル フリー
    チトクロムP-450(CYP)を中心とした前臨床試験スクリーニング系の発達により,第II相代謝酵素で触媒される候補化合物が増加傾向にあると言われている.ヒトにおける代表的な第II相代謝酵素は,グルクロン酸抱合酵素(UGT)であり,近年多くの研究成果が集積されてきている.しかし,CYPと比べ前臨床試験スクリーニングへの応用は進んでいない.UGTのヒトin vivo代謝反応の予測系の確立は,UGTの様々な特性が原因で進展していない.特異的阻害薬が無いこと,活性化が認められること,さらに抱合代謝物によるUGT阻害などが試験系を難しくしている.さらに,種差および肝外臓器における情報は極めて少ない.グルタチオン抱合や硫酸抱合代謝物は,排出型トランスポーターの影響を受けるが,体内動態に及ぼす影響の検討が必要である.今後,CYP等の第I相と第II相酵素反応を同時に考慮できる評価系の構築が期待されている.
  • 大江 知之
    2009 年 134 巻 6 号 p. 338-341
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/14
    ジャーナル フリー
    医薬品の代謝過程で生成する反応性代謝物は数々の毒性の原因になると考えられており,製薬企業にとってそうしたリスクのある化合物は,創薬段階においてできる限り排除しておきたいものの1つである.最近,多くの企業で,探索段階の比較的初期から,“反応性代謝物の回避”というものを意識して化合物の誘導化を行っている.共有結合性試験やトラッピング試験と呼ばれる評価法などがあるが,これらは毒性予測という観点からはまだ不十分なものである一方で,医薬品候補の優先順位付けという観点からは有用である.メディシナルケミストと協力して,より毒性リスクの低い候補品を選択することが,探索薬物動態研究者の使命である.
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