日本薬理学雑誌
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実験技術
タバコ煙溶液およびリポポリサッカライドによる肺気腫モデルの作製
水谷 暢明渕上 淳一高橋 真樹奈邉 健吉野 伸河野 茂勝
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2010 年 135 巻 1 号 p. 25-29

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抄録
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,吸入されたタバコ煙などの有害粒子やガスにより,肺胞壁の破壊による肺気腫,さらには慢性気管支炎を示す病態である.しかしながら,本病態の発症メカニズムの詳細については明らかではない.COPDの発症メカニズムの解析ならびに新規治療薬の開発には,ヒトに類似した症状を示す動物モデルが必要である.一般的に,肺気腫を示す実験的COPDモデルは,タバコ煙を3ヵ月以上曝露することにより作製されているが,本方法は長期間を必要とするとともに反応も弱いものである.そこで筆者らは,比較的短期間でのCOPD様症状を示す動物モデルの作製を企図して,特に肺気腫症状を示す病態モデルの作製を試みた.まず,1)肺にタバコ煙の成分を長時間滞留させるために,タバコ煙を溶液としてモルモットの気管内に直接投与し,さらには2)症状増悪化の因子である感染を考慮してリポポリサッカライド(LPS)をタバコ煙溶液の投与とともに加えた.この方法により,3週間以内に,気道抵抗,残気量および機能的残気量の上昇が観察された.また,タバコ煙溶液およびLPS溶液を投与したモルモットの肺を肉眼的に観察すると,明らかな肺の過膨張が認められるとともに,病理組織学的な検討では,上皮細胞の過形成および肺胞壁の破壊を示す肺気腫が観察された.さらに,肺胞内への肺胞マクロファージおよび好中球の浸潤が認められた.一方,本モデルを用いてテオフィリンの効果を検討したところ,気道抵抗の上昇および上皮細胞の過形成は明らかに抑制されたが,その他の症状に対して抑制効果は認められなかった.これらのことより,タバコ煙溶液およびLPS溶液を気管内に投与することにより,短期間に肺気腫を示す動物モデルの作製が可能となった.
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© 2010 公益社団法人 日本薬理学会
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