日本薬理学雑誌
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総説
ドパミン情報伝達を制御するホスホジエステラーゼ
西 昭徳黒岩 真帆美首藤 隆秀
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2010 年 135 巻 1 号 p. 8-13

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抄録
ドパミンは精神運動機能を調節する神経伝達物質であり,ドパミン情報伝達系の中でcAMP/PKAシグナルが中心的役割を担っている.cAMP産生を調節するドパミン受容体機能に加え,cAMPを分解するホスホジエステラーゼ(PDE)はドパミン情報伝達制御において極めて重要である.ドパミン神経の投射を受ける線条体にはPDE1B,PDE7B,PDE10Aの発現が高く,精神機能調節に重要なPDE4Bも多く発現している.1つの神経には複数のPDEアイソフォームが発現し,発現するPDEアイソフォームは線条体神経サブタイプにより異なる.我々は,線条体組織におけるPDE4とPDE10Aの役割を解析し,PDE4は主としてドパミン神経終末でドパミン産生を制御し,PDE10Aは直接路と間接路の線条体神経でcAMP/PKAシグナルを制御していることを明らかにした.PDE抑制による線条体cAMP/PKAシグナルの増強は,(1)ドパミン産生と放出の促進作用,(2)ドパミンD1受容体シグナルの増強作用,(3)ドパミンD2受容体シグナルの拮抗作用を示す.PDE抑制により,D1シグナル増強による直接路活性化とD2シグナル拮抗による間接路活性化がおこり,大脳基底核からの抑制性出力に対して脱抑制と抑制強化という相反する作用を導く.直接路活性化が優位となる場合にはドパミン関連行動は増強され,間接路活性化が優位となる場合にはドパミン関連行動は抑制される.これらの作用はPDEアイソフォームに特異的であり,ドパミン神経終末,直接路D1タイプおよび間接路D2タイプ線条体神経での発現パターンとPDE活性が大きく影響する.PDEインヒビターを精神神経疾患の治療薬として臨床応用するためには,神経サブタイプに発現するPDEアイソフォームの解析と選択的PDEインヒビターの開発が必須である.
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© 2010 公益社団法人 日本薬理学会
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