日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
抗腫瘍薬 ラパチニブトシル酸塩水和物(タイケルブ®錠)の薬理作用と臨床効果
新井 裕幸八巻 麻美西村 祐一郎
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2010 年 136 巻 3 号 p. 175-184

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抄録
上皮増殖因子受容体(EGFR/HER/ErbB)はEGFR(HER1/ErbB1),HER2(ErbB2),HER3(ErbB3)およびHER4(ErbB4)に分類されている.ラパチニブトシル酸塩水和物(タイケルブ®,以下,ラパチニブ)は4-アニリノキナゾリン構造を有する新規のEGFRおよびHER2阻害薬であり,低分子の経口投与可能な化合物である.ラパチニブはHER2を過剰発現しているBT474ヒト乳管癌細胞の増殖をin vitroおよびin vivoにおいて抑制し,各種乳癌細胞において,ラパチニブの腫瘍増殖抑制作用の効力はHER2の発現レベルと相関する.ラパチニブはEGFRおよびHER2を介したシグナル伝達経路の下流に位置するAktおよびextracellular signal regulated kinase(Erk)のリン酸化を抑制し,細胞内シグナル伝達を阻害する.また,乳癌細胞においてサバイビンの発現を低下させ,アポトーシスを誘導し,変異型HER2であるp95HER2に対しても阻害作用を示す.ラパチニブの臨床開発は2001年より米国にて開始され,EGFRもしくはHER2の過剰発現が確認されている乳癌を含む種々の癌腫に対する有効性および安全性の検討がなされている.2006年にNew England Journal of Medicineに発表された海外第III相試験の成績により,HER2過剰発現を示す転移性乳癌に対するラパチニブとカペシタビンの併用療法の有用性が示され,ラパチニブは2007年3月に米国にて全世界で最初に承認された.本邦においても2009年4月に「HER2過剰発現が確認された手術不能または再発乳癌」を効能・効果として承認され,アントラサイクリン系薬剤,タキサン系薬剤およびトラスツズマブ治療後の患者に対する二次治療として臨床使用が可能となった.なお,二次治療に加えて一次治療,術前・術後補助化学療法においてもさらなる有効性および安全性の検討が進められている.2010年1月には,ホルモン受容体陽性,HER2過剰発現を示す閉経後転移性乳癌患者に対するラパチニブとレトロゾールの併用療法が一次治療として米国にて承認され,また,他の抗悪性腫瘍薬との併用療法による一次治療および術前・術後補助化学療法における大規模な国際共同臨床試験が進行中である.このように,ラパチニブはHER2過剰発現を示す乳癌患者に対する分子標的治療薬を主体とした治療戦略の中でKey Drugに位置付けられる新規治療薬として期待される.
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© 2010 公益社団法人 日本薬理学会
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