日本薬理学雑誌
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特集 代謝性疾患治療薬の研究戦略
胆汁酸からの糖・脂質代謝疾患への新たなアプローチ
石井 伸一
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2010 年 136 巻 5 号 p. 265-269

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抄録

2型糖尿病患者では脂肪肝/NAFLDを合併する頻度が高く,肝臓への異所性の脂肪蓄積が,インスリン抵抗性の増大やメタボリックシンドローム発症の危険因子の1つとして考えられている.また,ALT値やγ-GTP値の上昇が糖尿病発症率と相関することから,肝機能異常の糖尿病発症への関与が示唆されている.さらに,我国の糖尿病患者の死因の調査結果によれば,全死因に占める肝癌・肝硬変症の割合が増大していることから,糖代謝異常と肝疾患は密接に関係している可能性が高い.コレステロール異化の最終産物である胆汁酸は,肝臓・胆嚢および腸管を中心とした生合成や脂質の吸収排泄を調節する因子として研究されてきた.近年,新たに胆汁酸が核内受容体FXRやGPCRのTGR5の内因性リガンドとして働くことが報告され,metabolic modulatorとしての作用に注目が集まっている.胆汁酸によるFXRあるいはTGR5活性化作用は,主に疎水性胆汁酸では認められるが,ウルソデオキシコール酸(UDCA)のような親水性胆汁酸にはほとんど見出されない.一方タウリン抱合型UDCAのERストレス減弱によるインスリン抵抗性改善作用が最近報告され,親水性胆汁酸の作用にも着目されている.本稿では,胆汁酸の機能や胆汁酸からの糖・脂質代謝異常への新たなアプローチについて紹介する.

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