日本薬理学雑誌
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特集 中枢神経摂食制御の分子メカニズム
視床下部AMPキナーゼによる摂食調節機構
箕越 靖彦
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2011 年 137 巻 4 号 p. 172-176

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抄録

AMPキナーゼ(AMP-activated protein kinase: AMPK)は,酵母から植物,哺乳動物に至るほとんどの真核細胞に発現するセリン・スレオニンキナーゼである.AMPKは,細胞内エネルギーレベルの低下(AMP/ATP比の上昇)およびAMPKKによるリン酸化によって活性化し,代謝,イオンチャネル活性,遺伝子発現を変化させてATPレベルを回復させる.このことからAMPKは, “metabolic sensor” または “ fuel gauge” と呼ばれている.また,近年の研究により,AMPKは,メトホルミンなどの糖尿病治療薬,運動,レプチンやアディポネクチンなどのホルモン,自律神経によって活性化して,糖・脂質代謝を調節することが明らかとなった.さらに,視床下部AMPKが摂食を調節することも示された.AMPKは,様々なイオンチャネル活性を制御するとともに,遺伝子発現を調節する.従って,これらの機能を介して神経活動を制御し,摂食を調節することが考えられる.しかし,最近の研究によると,AMPKが末梢組織と同様に,神経細胞においても脂肪酸代謝を変化させ,これを介して摂食を調節することが明らかとなった.視床下部AMPKは,栄養素やホルモン,神経伝達物質からの情報を,神経細胞内での代謝変化などを介して統合し,摂食行動を制御している.

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