日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
がん疼痛治療薬トラマドール塩酸塩(トラマール®カプセル25 mg·50 mg)の薬理作用と臨床試験成績
廣内 雅明田中 麻美子西村 健志
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2011 年 137 巻 4 号 p. 189-197

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抄録
トラマール®カプセル25 mg・50 mg(有効成分:トラマドール塩酸塩)は,「軽度から中等度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」の効能・効果で2010年7月に承認された.トラマドール塩酸塩はμ-オピオイド受容体を介する作用,ならびにノルアドレナリンやセロトニンの再取り込み系を抑制する作用を有し,これらが抗侵害作用の主たる作用機序と考えられている.軽度から中等度のがん疼痛患者を対象とした臨床試験において,トラマドールは100~300 mg/日の用量範囲で鎮痛効果を有した.また,トラマドール100~300 mg/日のモルヒネに対する効力比は0.200であり,モルヒネ等の強オピオイド鎮痛薬に変更する際には,トラマドールの定時投与量の1/5用量がモルヒネの初回投与量の目安となることが示唆された.さらに,トラマドールが長期にわたり疼痛制御が可能であることを確認するとともに,依存性形成を疑わせる結果は認められなかった.安全性についてはレスキュー・ドーズを含めて400 mg/日までの忍容性を確認した.トラマドールの副作用発現率は,モルヒネに忍容性のある患者を対象とした第III相二重盲検クロスオーバー試験では,モルヒネに比して差はなかったが,オピオイド鎮痛薬未投与の患者を対象とした第III相二重盲検並行群間比較試験では,モルヒネに比して低く,主な副作用は便秘,悪心,傾眠ならびに嘔吐であった.このうち,便秘の発現率およびその程度はいずれもモルヒネより低かった.以上の事から,トラマドールは非オピオイド鎮痛薬では鎮痛効果不十分ながん疼痛患者にオピオイド鎮痛薬による治療を開始する際の導入薬として,治療上の新たな選択肢の1つになることが期待される.
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© 2011 公益社団法人 日本薬理学会
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