日本薬理学雑誌
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特集 疾患と創薬の標的としての細胞内小器官イオン動態
カルシウム放出チャネルとしてのTRPM2のβ細胞における役割
山本 伸一郎森 泰生
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2011 年 137 巻 5 号 p. 207-211

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抄録
Transient receptor potential(TRP)チャネルのmelastatin(M)ファミリーに属するTRPM2はカルシウムイオン(Ca2+)透過性のカチオンチャネルであり,単球/マクロファージや好中球などといった免疫系細胞や膵臓のβ細胞において豊富な発現が認められている.TRPM2は過酸化水素などの酸化的ストレスによって活性化される特徴を有しており,筆者らはこれまで酸化的ストレスによるTRPM2を介したCa2+流入が細胞死やサイトカイン産生を引き起こすことを明らかにしてきた.また,酸化ストレスと同様にTRPM2を活性化するADP-riboseは細胞内・外の両方で産生される.細胞内におけるADP-riboseは形質膜上に発現するTRPM2を活性化しCa2+流入を惹起するが,それ以外にどのようなCa2+シグナリングを引き起こしうるかについては未踏の領域であった.一方,細胞外におけるADP-riboseはホスホリパーゼCの活性化を介して小胞体からのCa2+放出を引き起こすことが明らかにされているが,その詳細については明らかにされていなかった.近年,筆者らの研究グループはTRPM2の発現が確認されている膵臓のβ細胞を用いて細胞内・外におけるADP-riboseによるCa2+シグナリングの詳細について検討を行った.細胞外においてADP-riboseはP2Y purinergic受容体の活性化を介して小胞体からのCa2+放出を引き起こすことが明らかになった.またβ細胞においてTRPM2が細胞内小器官であるライソソームにも発現しており,形質膜上のCa2+流入チャネルとしてだけではなくCa2+放出チャネルとしても機能していることが明らかになった.本稿では細胞内小器官イオン動態として,膵臓のβ細胞におけるADP-riboseによるCa2+シグナリングおよびCa2+放出チャネルとしてのTRPM2の機能の詳細を述べ,膵臓のβ細胞の疾患として糖尿病とTRPM2の関与について考察したい.
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© 2011 公益社団法人 日本薬理学会
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