日本薬理学雑誌
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137 巻, 5 号
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特集 疾患と創薬の標的としての細胞内小器官イオン動態
  • 馬場 義裕
    2011 年 137 巻 5 号 p. 202-206
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/10
    ジャーナル フリー
    カルシウムイオン(Ca2+)は細胞内シグナル伝達における主要なセカンドメッセンジャーであり,様々な免疫細胞の生理機能に重要な役割を果たす.細胞質内Ca2+濃度は厳密に制御され低濃度に維持されているが,外来抗原刺激により細胞質内Ca2+濃度の上昇が引き起こされる.このCa2+レベルの上昇は主に2つの経路から供給され,1つは細胞内Ca2+貯蔵庫である小胞体からの放出,もう1つは,細胞外からのCa2+流入である.免疫細胞の場合,Ca2+流入は小胞体ストアのCa2+レベルの減弱が引き金となって誘導されるストア作動性カルシウム流入(store-operated calcium entry: SOCE)機構によってなされる.SOCEの活性化メカニズムは長らく謎であったが,近年の小胞体Ca2+センサーSTIM1およびCa2+チャネルOrai1の同定により,SOCEの分子基盤ならびに生理機能に関する研究は飛躍的に進展した.STIM1は小胞体内Ca2+減少を感知すると,小胞体と細胞膜の近接領域でクラスターを形成し,Orai1を活性化することによりSOCEを発動させる.筆者らはSOCEの肥満細胞における生理的役割を明らかにするために,STIM1欠損マウスを樹立し,肥満細胞の機能を検証した.その結果,STIM1欠損肥満細胞は抗原刺激によるSOCEの障害がみられ,これに起因する脱顆粒ならびにサイトカイン産生の抑制が認められた.さらに個体レベルでのアナフィラキシー反応もSTIM1依存的であることが明らかになった.さらに,筆者らはB細胞特異的STIM1/STIM2欠損マウスを作製し,未だ不明であったB細胞のカルシウム流入の生理的意義の解明にアプローチした.本稿では,我々が明らかにしたSOCE活性化メカニズムと肥満細胞およびB細胞における生理的役割に関する知見を紹介する.
  • 山本 伸一郎, 森 泰生
    2011 年 137 巻 5 号 p. 207-211
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/10
    ジャーナル フリー
    Transient receptor potential(TRP)チャネルのmelastatin(M)ファミリーに属するTRPM2はカルシウムイオン(Ca2+)透過性のカチオンチャネルであり,単球/マクロファージや好中球などといった免疫系細胞や膵臓のβ細胞において豊富な発現が認められている.TRPM2は過酸化水素などの酸化的ストレスによって活性化される特徴を有しており,筆者らはこれまで酸化的ストレスによるTRPM2を介したCa2+流入が細胞死やサイトカイン産生を引き起こすことを明らかにしてきた.また,酸化ストレスと同様にTRPM2を活性化するADP-riboseは細胞内・外の両方で産生される.細胞内におけるADP-riboseは形質膜上に発現するTRPM2を活性化しCa2+流入を惹起するが,それ以外にどのようなCa2+シグナリングを引き起こしうるかについては未踏の領域であった.一方,細胞外におけるADP-riboseはホスホリパーゼCの活性化を介して小胞体からのCa2+放出を引き起こすことが明らかにされているが,その詳細については明らかにされていなかった.近年,筆者らの研究グループはTRPM2の発現が確認されている膵臓のβ細胞を用いて細胞内・外におけるADP-riboseによるCa2+シグナリングの詳細について検討を行った.細胞外においてADP-riboseはP2Y purinergic受容体の活性化を介して小胞体からのCa2+放出を引き起こすことが明らかになった.またβ細胞においてTRPM2が細胞内小器官であるライソソームにも発現しており,形質膜上のCa2+流入チャネルとしてだけではなくCa2+放出チャネルとしても機能していることが明らかになった.本稿では細胞内小器官イオン動態として,膵臓のβ細胞におけるADP-riboseによるCa2+シグナリングおよびCa2+放出チャネルとしてのTRPM2の機能の詳細を述べ,膵臓のβ細胞の疾患として糖尿病とTRPM2の関与について考察したい.
  • 前田 裕輔
    2011 年 137 巻 5 号 p. 212-216
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/10
    ジャーナル フリー
    細胞質や細胞内小器官(オルガネラ)は脂質二重膜によってお互いに隔離されているコンパートメントであり,固有の環境やタンパク質・脂質成分を保持することで異なった生合成代謝やシグナル応答を効率よく制御している.すなわちオルガネラの環境を調節維持することはその機能にとって非常に重要であり,それ故,厳密に調節されている.そういった環境因子の1つがpHである.分泌経路のゴルジ装置,分泌小胞,分泌顆粒や,エンドサイトーシス経路のエンドソーム,リソソームなどのオルガネラの内腔はそれぞれ固有の酸性pHに保たれていて,その異常で様々な疾患が発症することからオルガネラや細胞・個体にとって,pH調節は重要なホメオスタシスの1つであると言える.酸性オルガネラのpHは液胞型プロトンポンプ,カウンターイオンチャネル(コンダクタンス),プロトンリークの3者のバランスで調節されていると考えられているが,液胞型プロトンポンプを除いて分子レベルではほとんど理解されていない.最近,我々はゴルジ装置に発現する新規タンパク質GPHR(Golgi pH Regulator)を同定し,その機能がアニオンチャネルであり,ゴルジ装置で初めて同定されたカウンターコンダクタンスとしてpH調節に必須であることを示した.さらにその変異細胞の解析からGPHR欠損がゴルジ装置のpH上昇をプライマリーな原因とするタンパク質輸送障害,糖鎖修飾不全,ゴルジ装置形態異常をもたらすことを明らかにした.GPHRの発見を契機として酸性オルガネラのpH調節機構への理解をより深め,pH異常が病因である疾患に対する新たな創薬の開発への突破口となることを期待している.
創薬シリーズ(5)トランスレーショナルリサーチ(19)
  • 橋本 康弘
    2011 年 137 巻 5 号 p. 217-219
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/10
    ジャーナル フリー
    「生体反応や病的進行,あるいは治療に対する薬理学的な反応の指標として,客観的に測定・評価される項目(NIHの考え方)」であるバイオマーカーは,今日の臨床開発では必須の手段になって来ている.バイオマーカーとしては,オミックスデータが最も頻繁に利用されており,最近では,さらに画像解析データが普及してきている.一方で,バイオマーカーを発見してから臨床試験に利用できるようになるまでには,莫大な時間と費用をかけた研究が必要である.そのため,新規バイオマーカーのバリデーションには,さまざまな領域での専門性の高い研究者の,国際的あるいは学際的な協力が必要である.海外では,バイオマーカー探索コンソーシアムなどの組織化が進んでおり,大組織を挙げて新規バイオマーカーの探索が進められている.国内でも近年急速に臨床開発でのバイオマーカーの活用が行われてきている.
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