日本薬理学雑誌
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特集 疾患と創薬の標的としての細胞内小器官イオン動態
新規アニオンチャネルGPHRによるゴルジ装置pHホメオスタシス
前田 裕輔
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2011 年 137 巻 5 号 p. 212-216

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抄録
細胞質や細胞内小器官(オルガネラ)は脂質二重膜によってお互いに隔離されているコンパートメントであり,固有の環境やタンパク質・脂質成分を保持することで異なった生合成代謝やシグナル応答を効率よく制御している.すなわちオルガネラの環境を調節維持することはその機能にとって非常に重要であり,それ故,厳密に調節されている.そういった環境因子の1つがpHである.分泌経路のゴルジ装置,分泌小胞,分泌顆粒や,エンドサイトーシス経路のエンドソーム,リソソームなどのオルガネラの内腔はそれぞれ固有の酸性pHに保たれていて,その異常で様々な疾患が発症することからオルガネラや細胞・個体にとって,pH調節は重要なホメオスタシスの1つであると言える.酸性オルガネラのpHは液胞型プロトンポンプ,カウンターイオンチャネル(コンダクタンス),プロトンリークの3者のバランスで調節されていると考えられているが,液胞型プロトンポンプを除いて分子レベルではほとんど理解されていない.最近,我々はゴルジ装置に発現する新規タンパク質GPHR(Golgi pH Regulator)を同定し,その機能がアニオンチャネルであり,ゴルジ装置で初めて同定されたカウンターコンダクタンスとしてpH調節に必須であることを示した.さらにその変異細胞の解析からGPHR欠損がゴルジ装置のpH上昇をプライマリーな原因とするタンパク質輸送障害,糖鎖修飾不全,ゴルジ装置形態異常をもたらすことを明らかにした.GPHRの発見を契機として酸性オルガネラのpH調節機構への理解をより深め,pH異常が病因である疾患に対する新たな創薬の開発への突破口となることを期待している.
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© 2011 公益社団法人 日本薬理学会
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