日本薬理学雑誌
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特集 循環器疾患治療薬の研究戦略
肺高血圧症治療薬としてのRhoキナーゼ阻害薬
瀬戸 実
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2012 年 139 巻 6 号 p. 251-255

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抄録

肺高血圧症は肺動脈圧および肺血管抵抗が進行性に上昇し右心肥大,右心不全に至る疾患である.発症頻度は国内において年間100万人に1~2人であり,治療薬としてはエンドセリン受容体拮抗薬,プロスタサイクリン(PGI2)およびその誘導体,フォスホジエステレース5(PDE5)阻害薬などが使用される.しかしながらその予後はいまだ極めて不良であり,5年生存率は約55%である.既存治療薬では効果が不充分であり,新規メカニズムであり治療効果の高い薬剤が求められている.肺高血圧症の成因として,肺動脈の病変形成,肺動脈の持続的収縮,炎症細胞の浸潤,内皮細胞機能の障害などが示唆され,これらにRhoキナーゼの異常な活性化が関与していることが明らかになってきた.Rhoキナーゼは1995~1996年に,低分子量GTP結合タンパク質RhoAの標的タンパク質として同定されたセリン・スレオニンタンパク質リン酸化酵素である.これまでの研究により,Rhoキナーゼは収縮,増殖,遊走,アポトーシス,遺伝子発現誘導など細胞の重要な生理機能に関与していることが明らかになっている.また各種病態動物モデルを使用した解析より,Rhoキナーゼの活性亢進が数々の病態を引き起こす原因となっていることが示され,創薬のターゲットとして注目されている.本総説においては,肺高血圧症治療薬としてのRhoキナーゼ阻害薬の可能性について述べたい.

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