日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
唾液を用いた検査法の問題点と血中薬物動態測定代替法の展望
『放射線防護薬としてのD体アミノ酸の可能性』 放射線ストレスと粘膜上皮傷害 唾液腺研究応用への可能性
吉川 正信
著者情報
ジャーナル フリー

2013 年 141 巻 6 号 p. 310-313

詳細
抄録

頭頸部には,聴覚,嗅覚,味覚などの感覚器や口腔粘膜が含まれており,放射線照射による感覚器障害,粘膜炎,潰瘍,唾液腺障害などが頭頸部がん患者に苦痛を与えている.中でも唾液腺障害は,照射期間中から発症し,照射終了後も回復しないケースが多く,患者のQOL低下の一因に挙げられている.半世紀以上前にチオール基を有する含硫アミノ酸のシステインが高い放射線防護作用を示すことが発見されて以来,アミノ酸を放射線防護薬とする研究は長い歴史を持つ.しかし,アミフォスチンを代表とする放射線防護薬は,毒性,腫瘍に対する防護効果などの問題があり臨床で使われることが難しい.これまでに放射線防護薬として研究されてきたアミノ酸はすべてl-アミノ酸であった.d-メチオニンは硫黄を含む求核剤であり,明白な副作用を伴うことなく,白金含有抗がん薬治療を受けている患者に対して,抗腫瘍効果を損なわず粘膜炎,聴器毒性,腎毒性などに対して予防または軽減効果を示すことが報告されている.我々のグループはd-メチオニンが低LET放射線であるX線照射のみならず重粒子線である炭素イオン線照射後の舌粘膜上皮細胞の菲薄化および唾液腺機能障害に対して防護効果を示すことを明らかにした.d-メチオニンによる放射線照射マウスの唾液量および生存率に対する改善効果は臨床的有用性を示唆するものであった.

著者関連情報
© 2013 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top