日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集 漢方薬の臨床効果に関する薬理学的エビデンス
『漢方薬と抗がん剤誘発神経障害』 オキサリプラチンによる末梢神経障害に対する牛車腎気丸の効果に関する基礎的エビデンス
牛尾 聡一郎川尻 雄大江頭 伸昭
著者情報
ジャーナル フリー

2014 年 143 巻 3 号 p. 126-130

詳細
抄録

大腸がん治療に汎用されるオキサリプラチンは,末梢神経障害を高頻度で発現し,その進行が治療の変更や中止に繋がることから,臨床上問題となっている.しかしながら有効な予防・治療法は確立されていない.牛車腎気丸は,腰痛,しびれなどの症状に用いられる漢方薬であり,近年オキサリプラチンによる末梢神経障害に有効であることが臨床研究において報告されている.しかし,その効果や作用メカニズム,オキサリプラチンの抗腫瘍効果への影響などの基礎研究はほとんど行われていなかった.そこで,著者らはオキサリプラチン誘発末梢神経障害に対する牛車腎気丸の作用について検討を行い,牛車腎気丸がオキサリプラチンによる急性の冷感過敏に対して予防や改善効果を,遅発性の機械的アロディニアに対して症状緩和作用を有することを見出した.さらに,牛車腎気丸の効果には,血管内皮細胞のnitric oxide synthase(NOS)活性の増加による血流量の増加とそれに伴う皮膚温の上昇が関与することも示唆された.また,牛車腎気丸はオキサリプラチンの抗腫瘍効果に対して影響しなかったことから,基礎研究においてもオキサリプラチンによる末梢神経障害に有用である可能性が示唆された.しかしながら,効果を得るためには高用量が必要であることや慢性神経障害である機械的アロディニアの発現に対して予防効果がみられなかったことから,今後さらに基礎研究や臨床試験を推進し,確かなエビデンスを構築することが重要である.

著者関連情報
© 2014 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top