日本薬理学雑誌
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143 巻 , 3 号
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特集 漢方薬の臨床効果に関する薬理学的エビデンス
  • 窪田 香織, 野上 愛, 高崎 浩太郎, 桂林 秀太郎, 三島 健一, 藤原 道弘, 岩崎 克典
    2014 年 143 巻 3 号 p. 110-114
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/10
    ジャーナル フリー
    我が国は超高齢社会を迎え,認知症患者数の増加は深刻な問題である.しかし認知症の根治的治療法は確立しておらず,患者の日常生活動作(activity of daily living:ADL)を低下させない新しい認知症治療薬が求められている.その中で,ADLを低下させずに認知症の症状を改善する漢方薬・抑肝散が脚光を浴び,主に幻覚,妄想,抑うつ,攻撃行動,徘徊などの行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)に使われている.しかし,その作用機序はよく分かっていない.そこで漢方薬である抑肝散の認知症治療薬としての科学的背景を明らかにすることが必要となった.我々は,抑肝散がメタンフェタミン投与による興奮モデル動物において自発運動の異常増加を抑制すること,単独隔離ストレスによる攻撃行動,幻覚モデルとしてのDOI投与による首振り運動,不安様行動,ペントバルビタール誘発睡眠の短縮や夜間徘徊モデルの明期の行動量増加のようなBPSD様の異常行動を有意に抑制することを明らかにした.また,8方向放射状迷路課題において,認知症モデル動物の空間記憶障害を改善することを見出した.記憶保持に重要な海馬において神経細胞死の抑制やアセチルコリン遊離作用が認められ,これらの作用によって抑肝散の中核症状に対する改善効果も期待できることが示唆された.さらに,中核症状,BPSDいずれにもNGFやBDNFなどの神経栄養因子の関与が注目されているが,抑肝散には神経栄養因子様作用や神経栄養因子増加作用があることが分かり,この作用も中核症状・BPSDの改善効果に寄与するものと考えられる.以上のことから,抑肝散は,認知症患者のBPSDならびに中核症状にも有効で,さらに他の神経変性疾患や精神神経疾患の治療薬としても応用が期待できることが示唆された.
  • 礒濱 洋一郎
    2014 年 143 巻 3 号 p. 115-119
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/10
    ジャーナル フリー
    アクアポリン3(AQP3)は主に皮膚のケラチノサイトに存在する水チャネルであり,皮膚の保湿のみならずケラチノサイトの遊走にも関わることが示されている.従って,AQP3の発現を促進する薬物は皮膚疾患時の乾燥症状や外傷の治療薬としての応用が期待できる.我々は,種々の生薬についての検討から荊芥(ケイガイ)に著明なAQP3発現亢進作用を見出した.ケイガイエキスはこの本作用を通じて,in vitroでのケラチノサイト遊走能を促進するとともに,in vivoでも実験的に形成したマウスの創傷治癒を促進することが分かった.これらの作用は皮膚科領域で用いられる漢方方剤にケイガイが含まれる薬理学的意義を示唆するとともに,これらの漢方薬の作用を応用した新たな治療薬の開発の可能性を示している.
  • 佐藤 雄己
    2014 年 143 巻 3 号 p. 120-125
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/10
    ジャーナル フリー
    大建中湯は消化管術後イレウスや過敏性腸症候群に対して臨床的有用性の高い漢方方剤として知られている.動物を用いた基礎的検討により,本剤はモルヒネ誘発性の消化管障害に対して改善効果を示すことが報告されている.また大建中湯の主要な薬理作用は消化管運動亢進作用と腸管粘膜血流増加作用であり,その作用機序として消化管ペプチドの関与が報告されている.しかしながら現在まで担がん患者のモルヒネ誘発性便秘に対する大建中湯の臨床効果と消化管ペプチドとの関連については不明なままである.本研究では,モルヒネ誘発性便秘を有する担がん患者を対象として大建中湯の効果および消化管機能を反映する5種の消化管ペプチドの血漿中濃度に与える効果について検討した.対象はがん性疼痛に対してモルヒネ治療後に便秘を生じた7名の担がん患者で,大建中湯投与前後における各消化管ペプチドの血漿中濃度を高感度酵素免疫測定法により測定した.また,消化器症状への効果については大建中湯投与前後のGastrointestinal Symptom Rating Scale(GSRS)質問表により検討した.モルヒネ誘発性便秘に対する大建中湯の効果について検討した結果では,大建中湯の投与によりGSRSの便秘サブスコアは7例中4例で有意に低下した.次にGSRS便秘サブスコアが改善した有効群と,変化がなかった無効群で血漿中消化管ペプチド濃度を比較した.その結果,両群ともに健常人と比較して血漿中モチリン濃度は有意に低値であったが,大建中湯投与後,有効群では健常人と同程度の濃度まで上昇し,無効群と比較して有意な上昇が認められた.一方,血漿中calcitonin gene-related peptide(CGRP)濃度も有効群で上昇傾向が認められた.以上の結果から,大建中湯のモルヒネ誘発性便秘への作用は,発現時間および臨床症状ともに血漿中モチリンの変動によってよく説明されるものであり,大建中湯の臨床効果との関連が示唆された.
  • 牛尾 聡一郎, 川尻 雄大, 江頭 伸昭
    2014 年 143 巻 3 号 p. 126-130
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/10
    ジャーナル フリー
    大腸がん治療に汎用されるオキサリプラチンは,末梢神経障害を高頻度で発現し,その進行が治療の変更や中止に繋がることから,臨床上問題となっている.しかしながら有効な予防・治療法は確立されていない.牛車腎気丸は,腰痛,しびれなどの症状に用いられる漢方薬であり,近年オキサリプラチンによる末梢神経障害に有効であることが臨床研究において報告されている.しかし,その効果や作用メカニズム,オキサリプラチンの抗腫瘍効果への影響などの基礎研究はほとんど行われていなかった.そこで,著者らはオキサリプラチン誘発末梢神経障害に対する牛車腎気丸の作用について検討を行い,牛車腎気丸がオキサリプラチンによる急性の冷感過敏に対して予防や改善効果を,遅発性の機械的アロディニアに対して症状緩和作用を有することを見出した.さらに,牛車腎気丸の効果には,血管内皮細胞のnitric oxide synthase(NOS)活性の増加による血流量の増加とそれに伴う皮膚温の上昇が関与することも示唆された.また,牛車腎気丸はオキサリプラチンの抗腫瘍効果に対して影響しなかったことから,基礎研究においてもオキサリプラチンによる末梢神経障害に有用である可能性が示唆された.しかしながら,効果を得るためには高用量が必要であることや慢性神経障害である機械的アロディニアの発現に対して予防効果がみられなかったことから,今後さらに基礎研究や臨床試験を推進し,確かなエビデンスを構築することが重要である.
総説
  • 白井 康仁
    2014 年 143 巻 3 号 p. 131-136
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/10
    ジャーナル フリー
    ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)はジアシルグリセロール(DG)をリン酸化し,ホスファチジン酸(PA)に変換する脂質キナーゼであり,これまでに10種のサブタイプが報告されている.周知のようにDGはPKCの活性化因子であり,産生されるPAも様々な酵素の活性を調節することから,DGKはPKCの抑制やPAの産生を介して生体内において重要な働きをしていると考えられている.しかし,神経系に多く存在するβサブタイプの機能は長い間不明であった.そこで,我々はDGKβのノックアウト(KO)マウスを作製し,その神経系における機能を調べた.その結果,DGKβKOマウスは,記憶障害と感情障害を示した.また,この感情障害は10日間のリチウム処理で改善した.一方,DGKβKOマウスから調製した海馬および大脳皮質初代培養細胞は,突起の分岐の数およびスパイン数が有意に減少していたが,DGKβを過剰発現させることで形態異常は回復した.さらに, DGKβKOマウスの海馬および大脳皮質において,スパイン密度が減少していることを確認した.これらのことから,DGKβは神経細胞の形態を調節・維持することにより神経ネットワークの形成,ひいては記憶や感情などの脳高次機能において重要な働きをしていることが明らかになった.本総説では,このDGKβKOマウスから得られた知見を中心に,神経系におけるDGKβについて概説するとともに,DGKβの記憶障害や感情障害の予防薬および改善薬のターゲットとしての可能性と問題点について論ずる.
実験技術
  • 中川 慎介, 丹羽 正美
    2014 年 143 巻 3 号 p. 137-143
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/10
    ジャーナル フリー
    末梢と中枢を隔てる血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)は,単に物質の移動を制限する関門として機能しているだけではなく,機能的なneurovascular unitを形成し,神経・グリア系と相互作用を行っていることが指摘され,脳血管障害だけでなく中枢性疾患におけるBBBの役割も注目されている.また,BBBは中枢神経作用薬にとっては,越えなければいけない障壁であり,薬物の脳内移行性を決定する重要な関所である.薬物の脳内移行性検定やBBBに関する基礎研究のために,培養細胞を用いたin vitro実験が広く行われている.不死化脳毛細血管内皮細胞株はその均一性や簡便性から,BBB研究に広く用いられているが,生体内における細胞の機能を比較的保持する初代培養脳毛細血管内皮細胞を用いた研究も重要である.BBBは脳毛細血管内皮細胞だけで構成されるのではなく,周囲のペリサイトやアストロサイトがBBB機能維持に関与している.本稿では,これら3種類のBBB構成細胞の初代培養方法と,インサート膜を用いた共培養方法を紹介する.作製したBBBモデルは薬物の脳内移行性やBBBに関する基礎研究などに活用できる.
新薬紹介総説
  • 町田 幸一, 川上 大輔, 三木 益生
    2014 年 143 巻 3 号 p. 144-151
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/10
    ジャーナル フリー
    テトラベナジン(TBZ)はモノアミン小胞トランスポーター(VMAT)のタイプ2(VMAT2)選択的阻害薬であり,中枢神経のVMAT2を強力に阻害し,モノアミン(ドパミン(DA),ノルアドレナリン(NA),セロトニン(5-HT))性神経伝達を減弱する.TBZは生体に投与された後,初回通過効果により,α-およびβ-ジヒドロテトラベナジン(HTBZ)の2種類の異性体に代謝されるが,TBZ,α-およびβ-HTBZは同等のVMAT2阻害活性を有することから,未変化体または代謝物の形で効力を発揮すると考えられる.TBZは,ラット脳内(線条体等)のモノアミン量を速やかに減少させ,その作用にはDA選択性が認められた.この作用は投与後15分で最大となり,2時間持続した.また,TBZのモノアミン涸渇作用には耐薬性が生じ難かった.ハンチントン病(Huntington’s disease:HD)患者の初期症状の一つである舞踏運動等の不随意運動は,大脳基底核の「直接路優位」(ドパミンD1(D1)受容体機能亢進)により誘発されると推察され,TBZはD1受容体機能の抑制により,効力を発現すると考えられる.TBZはHDモデル動物においても有効性を示した.TBZはヒト肝臓でα-およびβ-HTBZに代謝され,その後9-および10-デスメチルα-HTBZ,9-および10-デスメチルβ-HTBZへ代謝されると推定された.健康成人にTBZを単回経口投与した場合,活性代謝物であるα-HTBZおよびβ-HTBZ並びに主要代謝物である9-デスメチルβ-HTBZの血漿中濃度は,投与後2時間以内に最高血漿中濃度(Cmax)に達し,曝露量には用量直線性が認められた.一方,TBZの血漿中濃度は低く推移し,投与後4時間以降はほとんど血漿中からは検出されなかった.国内外でHD患者を対象として実施された第III相臨床試験では,TBZ投与により舞踏運動合計スコア(TCS)の有意な改善が認められ,長期投与においてその改善効果は維持された.以上のように,これまで国内においてはHDを適応とする治療薬はなかったが,TBZはHDに伴う舞踏運動の適応症を有する国内で唯一の治療薬としてHD患者の生活の質(quality of life:QOL)改善に役立つことが期待される.
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