抄録
肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)の重症・難治例では叢状病変の形成や著明な内膜・中膜の肥厚などにより激しい肺血管リモデリングが生じている.肺動脈の内皮細胞や平滑筋細胞などの異常増殖とアポトーシス抵抗性がその本態と考えられている.近年基礎ならびに病理学的検討によって,PAHにおいて肺動脈平滑筋細胞が血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor:PDGF)刺激にて過剰に増殖しており,それを抑制することが血管リモデリングの解除につながると考えられるようになった.イマチニブ(imatinib)はPDGF受容体(受容体型チロシンキナーゼ)のリン酸化を抑制するPDGF受容体アンタゴニストであるが,PAH患者の肺動脈平滑筋細胞においてPDGF刺激による増殖を抑制する.さらに,PDGFで刺激された状態ではアポトーシスを誘導する.動物PAHモデルにてreverse remodeling作用が証明され,症例報告にて有効例が報告された.2013年臨床試験の結果が発表され,6分間歩行距離(primary endpoint)や血行動態の改善をみとめたものの,臨床上の悪化までの時間はプラセボと差がなかった.残念ながら重篤な副作用発現や治療継続困難な例をみとめ,今後の臨床応用は困難となっているが,細胞の過剰増殖・腫瘍性増殖による血管リモデリング(cancer paradigm)に対する最初の試みとなった治療法として,先駆的な意義をもつ.