日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
143 巻, 4 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
特集 肺高血圧症の薬物治療の最前線
  • 渡邉 裕司
    2014 年 143 巻 4 号 p. 165-172
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/10
    ジャーナル フリー
    肺高血圧症は,肺動脈圧の異常な上昇を認める病態の総称であり,一般には,安静臥位での平均肺動脈圧が25 mmHgを超えるような場合に肺高血圧症と診断される.臨床的には,肺動脈性肺高血圧症,左心疾患に伴う肺高血圧症,肺疾患や低酸素症に伴う肺高血圧症,慢性血栓塞栓性肺高血圧症,その他の肺高血圧症に5分類される.なかでも肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)は慢性進行性の肺血管増殖を特徴とし,極めて不良な予後経過をたどる難治性疾患と考えられてきた.しかし,プロスタサイクリン製剤,エンドセリン受容体拮抗薬,ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬などの登場により,その薬物治療は飛躍的な進歩をとげ,患者の予後は大きく改善している.本稿では,ターニングポイントを迎えたPAH治療の現状を紹介する.
  • 中村 一文, 赤木 達, 更科 俊洋, 小川 愛子, 松原 広己, 伊藤 浩
    2014 年 143 巻 4 号 p. 173-177
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/10
    ジャーナル フリー
    肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)の重症・難治例では叢状病変の形成や著明な内膜・中膜の肥厚などにより激しい肺血管リモデリングが生じている.肺動脈の内皮細胞や平滑筋細胞などの異常増殖とアポトーシス抵抗性がその本態と考えられている.近年基礎ならびに病理学的検討によって,PAHにおいて肺動脈平滑筋細胞が血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor:PDGF)刺激にて過剰に増殖しており,それを抑制することが血管リモデリングの解除につながると考えられるようになった.イマチニブ(imatinib)はPDGF受容体(受容体型チロシンキナーゼ)のリン酸化を抑制するPDGF受容体アンタゴニストであるが,PAH患者の肺動脈平滑筋細胞においてPDGF刺激による増殖を抑制する.さらに,PDGFで刺激された状態ではアポトーシスを誘導する.動物PAHモデルにてreverse remodeling作用が証明され,症例報告にて有効例が報告された.2013年臨床試験の結果が発表され,6分間歩行距離(primary endpoint)や血行動態の改善をみとめたものの,臨床上の悪化までの時間はプラセボと差がなかった.残念ながら重篤な副作用発現や治療継続困難な例をみとめ,今後の臨床応用は困難となっているが,細胞の過剰増殖・腫瘍性増殖による血管リモデリング(cancer paradigm)に対する最初の試みとなった治療法として,先駆的な意義をもつ.
  • 福本 義弘
    2014 年 143 巻 4 号 p. 178-181
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/10
    ジャーナル フリー
    肺動脈性肺高血圧症の成因には器質的肺動脈病変および肺動脈攣縮が大きく関与しており,進行性の肺血管抵抗上昇および肺動脈圧上昇が特徴で,近年様々な薬剤が開発されてきたものの,いまだに予後不良な疾患である.我々はこれまで下川らとともに,肺高血圧症の動物モデルにおいて,Rhoキナーゼ阻害薬であるファスジルの慢性投与が肺動脈圧を低下させ,さらに右室肥大を退縮させること,組織学的にも肺動脈平滑筋増殖,マクロファージ浸潤抑制および肺動脈平滑筋のアポトーシス亢進による形態学的改善効果を有し,生命予後を著明に改善させ,圧負荷モデルにおいてもRhoキナーゼ抑制が右室肥大を退縮させることを明らかにしてきた.また臨床研究においても,ファスジルの点滴静脈内投与や経気道的吸入投与が肺動脈性肺高血圧症患者の肺血行動態を改善させる急性効果を有することを示した.さらに,肺動脈性肺高血圧症患者において,血中レベルでRhoキナーゼ活性が亢進していること,肺組織レベルでもRhoキナーゼ発現および活性の亢進していること,摘出肺動脈血管を用いた検討で,肺動脈性肺高血圧症患者では内皮依存性弛緩反応が有意に障害され,セロトニン誘発性過収縮が有意に亢進しており,これらの異常反応がRhoキナーゼ阻害薬で抑制されることを示した.以上より,Rhoキナーゼは肺動脈性肺高血圧症の治療標的となる可能性が示唆された.これらの知見を基に,肺動脈性肺高血圧症患者に対して,ファスジル経口薬の有効性を検討した.対象は肺動脈性肺高血圧症20名(ファルジル9名,プラセボ11名).3ヵ月間の投薬を行った結果,ファスジル群において,治療前後で心係数が増加した割合が有意に高く,ファスジル経口薬の有効性が示唆された.今後,大規模での臨床試験によりその有効性が示され,新たな治療法として開発されることが期待される.
  • 平野 勝也
    2014 年 143 巻 4 号 p. 182-186
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/10
    ジャーナル フリー
    肺高血圧症の病態形成には,血管収縮,血管リモデリング,血栓形成が重要な役割を果たす.大規模臨床研究により抗凝固療法の予後改善効果が認められており,凝固系の病態形成への関与は明らかである.トロンビンなどの凝固因子は,プロテイナーゼ活性化型受容体を介して,様々な血管作用を引き起こす.一方,肺動脈は,体循環系動脈と異なり,正常であってもトロンビンに対する収縮反応性を示す特性を有し,その収縮にはRhoキナーゼと活性酸素が関わる特殊な収縮機構が関与することが明らかにされている.従って,凝固系-プロテイナーゼ活性化型受容体の経路は,肺高血圧症の病態形成に重要な役割を果たすことが示唆される.現在,トロンビン受容体PAR1を中心に受容体拮抗薬の開発が進められている.プロテイナーゼ活性化型受容体拮抗薬は,従来の薬物治療とは異なる作用機序を有する新たな肺高血圧治療薬として期待される.実用化に向けては,今後,肺高血圧症の病態形成におけるプロテイナーゼ活性化型受容体の役割を明らかにし,受容体拮抗薬の治療効果を検証する必要がある.
総説
  • 平松 正行
    2014 年 143 巻 4 号 p. 187-192
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/10
    ジャーナル フリー
    γ-アミノ酪酸(GABA)は,多くの神経・精神疾患に関与していることが報告されているが,その調節の一端を担うGABAトランスポーターについては,そのサブタイプに対する選択的な阻害薬が少ないことから,生理学的な役割について不明な点が多い.特に,mGAT2(BGT-1)は,脳の正常細胞での発現が少なく,これまであまり研究されて来なかった.最近の報告から,mGAT2(BGT-1)がストレスなどの障害時に発現が増加することから注目が集まってきている.障害時におけるmGAT2(BGT-1)の生理的役割の解明は,種々の疾患の分子メカニズムの解明や,新たな神経・精神疾患の治療戦略になると期待される.
実験技術
  • 田中 謙二
    2014 年 143 巻 4 号 p. 193-197
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/10
    ジャーナル フリー
    チャネルロドプシンを神経細胞に発現させ,光照射のオンオフで神経発火を操作する技術論文が2005年に報告されてから10年近くが経過しようとしている.その技術にはオプトジェネティクスという造語が与えられ,2010年にはNature Methods誌によってMethod of the Yearに選ばれた.先端技術は取り入れるのに多少の困難があったとしても,ひとたび取り入れてしまえば強力に研究をサポートする.光操作可能な遺伝子改変マウスの開発は,先端技術の取り込みを加速させた.というのも,遺伝子改変マウスを入手して,交配するだけで実験動物を準備できるからである.この準備を整えたあとは,興味のある細胞に光を照射するだけであり,データを回収するだけである.オプトジェネティクス導入の現実可能性について本稿の内容から考えてもらえれば幸いである.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(13)
  • 田原 俊介, 小林 伸好, 新井 裕幸, 倍味 繁, 伊藤 晋介, 中原 夕子, 守本 亘孝, 板野 泰弘, 山口 高史, 丹羽 一夫 ...
    2014 年 143 巻 4 号 p. 198-202
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/10
    ジャーナル フリー
    製薬企業が有する創薬シーズ(医薬品候補物質)のみからの新薬創出の限界,新薬創出環境の変化から,製薬企業ではアカデミア・ベンチャーが有する創薬シーズへの期待が高まっている.アカデミア・ベンチャーが有する創薬シーズの活用および製薬企業への橋渡しを目的として,公募型および拠点形成型などの各種オープンイノベーションが活発化している.また,政府は国内アカデミア創薬シーズからの革新的医薬品創出を重要戦略として掲げ,創薬支援ネットワークを設立して支援を開始した.日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 基礎研究部会 薬効薬理・安全性薬理課題対応チームでは,製薬企業の立場から創薬シーズに求める要件を整理し,アカデミア・ベンチャーと共有することが,創薬シーズの製薬企業へのスムーズな橋渡しに有用であると考えた.本稿では,特に非臨床薬理担当者の観点から,創薬シーズの橋渡しをよりスムーズに行うための方策や考え方について提言を行いたい.
新薬紹介総説
  • 檜杖 昌則, 越智 靖夫, 伊村 美紀, 山上 英臣
    2014 年 143 巻 4 号 p. 203-213
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/10
    ジャーナル フリー
    フェソテロジンはムスカリン受容体拮抗作用を作用機序とする新規過活動膀胱治療薬である.経口投与後,速やかに活性代謝物である5-ヒドロキシメチルトルテロジン(5-HMT)に加水分解され,血液中にフェソテロジンは検出されない.5-HMTは,ムスカリン受容体のいずれのサブタイプ(M1~M5)に対しても高い親和性を有し,各サブタイプ発現細胞でのアセチルコリン誘発反応,摘出排尿筋のカルバコール誘発収縮および電気刺激誘発収縮を抑制した.In vivoでは,無麻酔ラット膀胱内圧測定試験で,排尿圧力低下,膀胱容量増加および収縮間隔延長作用を示した.さらに,ヒト排尿筋,膀胱粘膜および耳下腺組織における結合親和性,ならびにアセチルコリン誘発膀胱収縮および電気刺激誘発流涎に対する抑制作用の比較から膀胱組織選択的な抗コリン作用が示唆された.また,中枢移行性が低いことが確認され,フェソテロジン投与による中枢のムスカリン受容体機能への影響は少ないと考えられた.フェソテロジンの臨床投与量は4 mgと8 mgである.臨床薬理試験で血漿中濃度は,2用量間で2層性を示した.臨床試験で,フェソテロジンは,プラセボやトルテロジンより過活動膀胱の症状を有意に改善し,その効果は用量依存的であった.実臨床に近い可変用量のデザインを用いた治療満足度試験では,患者の半数が8 mgへの増量を希望し,その結果8割の患者がフェソテロジンの治療に満足と回答した.この結果より,4 mgで効果に不満足でも忍容性がある場合は,増量により満足に至る可能性が示された.日本人を対象とした長期試験では,遅発性の有害事象は認めず,忍容性は良好であった.フェソテロジンは,患者の状態に合わせ4 mgと8 mgを有効に使い分けることで,患者の治療満足度を向上し,OAB治療で重要な治療継続率の向上に繋がることが期待される.
キーワード解説
最近の話題
feedback
Top