日本薬理学雑誌
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特集 脳内炎症の制御を基盤とした脳血管疾患の新規治療戦略
『免疫系細胞の異常活性化による 脳虚血傷害の病態進展』 ミクログリア/マクロファージのiNOS発現におけるTRPM2 の役割
白川 久志崎元 伸哉中川 貴之金子 周司
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2014 年 144 巻 3 号 p. 104-109

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抄録

脳虚血再灌流後に神経細胞が変性する過程では,グリア細胞が異常活性化し,血液脳関門が破綻することで末梢血由来免疫細胞が浸潤し,炎症性サイトカインや細胞傷害性因子の産生を介した過剰な炎症応答が惹起され,脳組織傷害が増悪されることが示されつつあるが,その治療標的に関する知見は非常に乏しいのが現状である.Transient receptor potential melastatin 2(TRPM2)は脳や免疫系細胞に広く分布する活性酸素感受性Ca2+透過型陽イオンチャネルであり,免疫系細胞におけるTRPM2 を介したCa2+流入が特定の免疫/炎症応答に重要な役割を果たすことが近年明らかとなってきた.我々は以前,炎症性疼痛や神経障害性疼痛モデルマウスにおいて,ミクログリアやマクロファージに発現するTRPM2 が特定のサイトカイン産生に関与することを明らかとしてきた.そこでTRPM2 遺伝子欠損マウスを用いて脳虚血傷害の形成におけるTRPM2 の関与について研究を行った結果,TRPM2 遺伝子欠損により神経症状や梗塞巣体積は脳虚血24 時間後の急性期では変化がないのに対して, 48 時間および72 時間後では顕著に改善されることを見出した.ミクログリア/マクロファージの活性化抑制薬ミノサイクリンやiNOS選択的阻害薬1400Wを用いた薬理学的および組織学的検討より,ミクログリア/マクロファージに発現するTRPM2 を介したiNOS の過剰発現によるNO の過剰産生が,脳虚血傷害の病態進展に関与することを明らかとした.本研究の成果は,TRPM2 がミクログリア/マクロファージによる過剰な炎症応答に重要な役割を果たすことを示唆するものであり,脳虚血傷害に伴う遅発性神経傷害の新たな治療薬の開発のみならず,過剰な脳内の炎症応答が関与する他の中枢性疾患創薬研究への足がかりになる ことも期待される.

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