日本薬理学雑誌
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144 巻 , 3 号
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特集 脳内炎症の制御を基盤とした脳血管疾患の新規治療戦略
  • 白川 久志, 崎元 伸哉, 中川 貴之, 金子 周司
    2014 年 144 巻 3 号 p. 104-109
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/10
    ジャーナル フリー
    脳虚血再灌流後に神経細胞が変性する過程では,グリア細胞が異常活性化し,血液脳関門が破綻することで末梢血由来免疫細胞が浸潤し,炎症性サイトカインや細胞傷害性因子の産生を介した過剰な炎症応答が惹起され,脳組織傷害が増悪されることが示されつつあるが,その治療標的に関する知見は非常に乏しいのが現状である.Transient receptor potential melastatin 2(TRPM2)は脳や免疫系細胞に広く分布する活性酸素感受性Ca2+透過型陽イオンチャネルであり,免疫系細胞におけるTRPM2 を介したCa2+流入が特定の免疫/炎症応答に重要な役割を果たすことが近年明らかとなってきた.我々は以前,炎症性疼痛や神経障害性疼痛モデルマウスにおいて,ミクログリアやマクロファージに発現するTRPM2 が特定のサイトカイン産生に関与することを明らかとしてきた.そこでTRPM2 遺伝子欠損マウスを用いて脳虚血傷害の形成におけるTRPM2 の関与について研究を行った結果,TRPM2 遺伝子欠損により神経症状や梗塞巣体積は脳虚血24 時間後の急性期では変化がないのに対して, 48 時間および72 時間後では顕著に改善されることを見出した.ミクログリア/マクロファージの活性化抑制薬ミノサイクリンやiNOS選択的阻害薬1400Wを用いた薬理学的および組織学的検討より,ミクログリア/マクロファージに発現するTRPM2 を介したiNOS の過剰発現によるNO の過剰産生が,脳虚血傷害の病態進展に関与することを明らかとした.本研究の成果は,TRPM2 がミクログリア/マクロファージによる過剰な炎症応答に重要な役割を果たすことを示唆するものであり,脳虚血傷害に伴う遅発性神経傷害の新たな治療薬の開発のみならず,過剰な脳内の炎症応答が関与する他の中枢性疾患創薬研究への足がかりになる ことも期待される.
  • 松尾 由理
    2014 年 144 巻 3 号 p. 110-114
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/10
    ジャーナル フリー
    脳虚血後に脳梗塞部位にてプロスタグランジンE2(PGE2)の産生が増加することが知られているが,その役割については毒性的あるいは保護的と相反する報告があり不明な点が多かった.これは,それまでの研究がPGE2 合成の律速酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)の関与,あるいは,各種受容体の関与に焦点を当てたものであったためと考えられた.そこで我々は,脳梗塞におけるPGE2 の役割を明らかにする目的で,PGE2 合成の最終酵素であるPGE2 合成酵素(PGES)の役割を検討した.齧歯類の中大脳動脈閉塞モデルにおいて,脳虚血再灌流後に膜結合型PGES-1(mPGES-1)が発現誘導することを見出した.mPGES-1 欠損型マウスでは脳梗塞後のPGE2 産生が消失しただけでなく,野生型マウスに比べ脳梗塞障害が軽度であり,PGE2 を投与して補うことで野生型マウスと同程度の脳梗塞障害悪化が認められた.従って,脳梗塞後に発現誘導するmPGES-1 は,PGE2 産生を介して脳梗塞障害を悪化させることが明らかとなった.さらに上流酵素であるCOX,下流効果器であるEP 受容体についても検討を加え,COX-2 とmPGES-1 が共誘導されることで効率的に多量のPGE2 が産生され,これがEP3 受容体に作用することで障害悪化に寄与することが示された.mPGES-1 はPGE2 合成の最終酵素であり,かつ,誘導型酵素であるため,mPGES-1阻害薬は他のプロスタノイドや恒常的に産生されるPGE2の生理作用には影響を与えにくいと予想され,副作用の少ない,発症後でも有効な新たな脳梗塞治療薬となる可能性が期待できる.
  • 小山 豊, 道永 昌太郎
    2014 年 144 巻 3 号 p. 115-119
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/10
    ジャーナル フリー
    くも膜下出血や脳血栓などの脳卒中の急性期には,脳浮腫が生じる.脳浮腫は致死的な病態であるが,効果的な薬物治療は開発されていない.脳浮腫の発生にはアストログリアの産生する血管透過性亢進因子が関わる.そのため,脳損傷時のアストログリアの機能をコントロールし浮腫の発生を抑制しようとする創薬ストラテジーが提唱されている.我々はこのストラテジーの有効性を,アストログリアに高く発現しているエンドセリン(ET)受容体を,薬物標的として検討した.マウス大脳の凍結傷害は,損傷部位での血液脳関門の破綻と脳組織水分含量の増加(脳浮腫)を引き起こした.凍結傷害により惹起された脳浮腫は,傷害前でのETB アンタゴニストBQ788 の投与により抑制された.また,BQ788 の傷害前投与は,血中タンパク質のマーカーであるEvans blueおよび内因性アルブミンの漏出を抑制した.一方,凍結傷害による浮腫が形成された後での投与でも,BQ788 は脳浮腫および血中タンパク質の漏出を抑制した.ラット大脳および培養アストログリアでのETB 受容体の刺激は,血管透過性亢進因子であるMMP9 およびVEGF-A の発現を増加させた.また,アストログリアのAQP4 は脳内に蓄積した水の排出経路として働くが,ラット脳および培養アストログリアでのAQP4 発現は,ETB アゴニストにより減少した.凍結傷害は,マウス大脳でのMMP9 およびVEGF-A の発現を増加させたが,これらの増加はBQ788 投与により減少した.また,凍結傷害によるAQP4 発現減少も,BQ788 投与により抑制された.以上の結果は,脳損傷による浮腫発生へのET の関与を示すと共に,ETB 受容体が脳浮腫治療薬の標的分子となり得ることを示唆する.
  • 香月 博志
    2014 年 144 巻 3 号 p. 120-125
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/10
    ジャーナル フリー
    出血性脳卒中の代表的病型である脳出血(脳内出血)は,予後不良となる率の極めて高い疾患であり,病理・病態形成に関わる組織・細胞・分子レベルでの機序の解明とともに,真に有効な治療薬の開発が切望されている.新薬開発のプロセスにおいて適切な病態動物モデルを用いた薬効評価を行うことは,基礎研究の成果を臨床へと還元する上で必須の要件である.我々は,小動物用核磁気共鳴イメージング装置を用いて,マウス線条体内へのコラゲナーゼ微量投与により誘発した出血の拡大範囲に基づいて脳出血病態モデルマウスを群分けすることで,一定の神経症状を呈する個体を選別し,安定した薬効評価系を構築することを試みた.出血が線条体に近接する内包領域にまで及んだマウス(内包出血マウス)では,内包領域に出血が及んでいないマウスと比較して血腫サイズが同等であるにも拘らず予後(個体生存率および運動機能)が著明に悪化したことなどから,ヒト脳出血患者と同様の特徴がマウス病態モデルでも再現できることが確認さ れた.そこで内包出血マウスを用い,従来の前臨床研究で有効性の報告されている薬物群の効果を再評価したところ,レチノイン酸受容体アゴニストであるAm80 に運動機能障害に対する著明な改善効果を認めた.またAm80 の作用機序について,炎症性サイトカイン・ケモカイン類の発現抑制効果に着目し,運動機能障害改善効果の認められないデキサメタゾンの効果との差異から,ケモカインの一種であるCXCL2 の発現抑制がAm80 の治療効果に寄与する可能性を見出した.このような戦略も含め,動物モデルでの薬効評価系の適正化を図ることにより,臨床効果を発揮しうる薬物や有望な薬物標的分子を高い確度をもって同定することが可能になるものと期待される.
総説
  • 新井 裕幸, 倍味 繁, 田原 俊介, 伊藤 晋介, 中原 夕子, 守本 亘孝, 小林 伸好, 板野 泰弘 , 山口 高史, 丹羽 一夫, ...
    2014 年 144 巻 3 号 p. 126-132
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/10
    ジャーナル フリー
    医薬品の研究開発において,動物試験は新薬候補物質のヒトでの安全性および有効性を予測するために非常に重要なものである.また,3Rs(Replacement,Reduction,Refinement)の観点からも,より効率的に新薬候補物質の評価を行うことが必要である.このような理由から,疾患モデル動物には高い精度,再現性,ヒトへの外挿性を有することが求められている.日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 基礎研究部会では,これまでの医薬品開発に貢献した疾患モデル動物について把握するとともに,今後の疾患モデル動物の開発に資することを目的として,加盟企業を対象にアンケート調査を行った.調査票では,これまでに新薬の開発等で使用した疾患モデル動物,使用によって得られた成果,使用の際に苦労した点および当該疾患モデル動物について改善されるべき点を尋ねた.さらに,今後期待される疾患モデルに関して意見を求めた.アンケートの回答は62 社中31 社から得られた.その結果,これまでに様々な疾患を対象とした医薬品の開発に多様な疾患モデル動物が使用されており,その多くの事例で疾患モデル動物の使用によって目的とする疾患に対する新薬候補物質の有効性が確認されていた.すなわち,新薬開発における疾患モデル動物の有用性と意義が改めて示された.使用の際に苦労した点としては,試験方法の至適条件の設定や疾患モデル動物作製の困難さ等に関する意見が多かった.各疾患モデル動物の改良すべき点としては,動物福祉の観点から動物に与えるストレスレベルのさらなる軽減,ヒトの病態や発症機序への類似性,薬効のヒトへの外挿性,ばらつきの程度,データの精度・再現性,モデル作製に要する手術等の高度な技術を必要としない簡便性が挙げられた.将来的な期待としては,ヒトの病態をより正確に反映した,外挿性の高いモデルの開発を期待するとの意見が多かった.本稿では,これらの調査結果の詳細を報告するとともに,動物試験および疾患モデル動物の役割,ならびに今後の展望について考察を加えた.
新薬紹介総説
  • 原田 拓真, 中村 普幸
    2014 年 144 巻 3 号 p. 133-141
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/10
    ジャーナル フリー
    すでに複数の関節リウマチ(RA)治療薬が承認・販売されているが,メトトレキサートや生物学的製剤でもRA の寛解率は3~5 割程度でしかなく,非経口投与による利便性の低さや連用による抗薬剤抗体の出現が効果を減弱する可能性があるなどの問題点から,RA 治療用の生物学的製剤の問題点を改善し,それ以上のベネフィットを持つ経口投与可能な薬剤の開発が期待されている.トファシチニブクエン酸塩は,米国ファイザー社にて創製された世界初のヤヌスキナーゼ(JAK)阻害作用を有する経口投与が可能な低分子の分子標的治療薬で,本邦では「既存治療で効果不十分な関節リウマチ」を効能・効果として2013 年3 月に承認された.トファシチニブは薬効薬理試験でJAKファミリーのすべてのキナーゼに対して強い阻害活性を示し,細胞を用いた試験ではJAK1 およびJAK3 依存的シグナル伝達をJAK2 依存的シグナル伝達よりも強く阻害した.トファシチニブのRA に対する効果は,マウスコラーゲン誘発関節炎およびラットアジュバント誘発関節炎における症状観察および組織学的検査によって確認された.また,薬効がみられた用量では炎症性タンパク質および遺伝子発現の有意な減少も認められた.さらに,臨床試験ではトファシチニブは単剤投与または既存の疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)との併用投与のいずれによってもRA 治療に有効であり,既存のDMARD で効果が不十分であるRA 患者にも有効であることが示された.また,安全性に関しては,生物学的製剤と同様に重篤な感染症が認められた.リンパ腫を含む悪性腫瘍,消化管穿孔,心血管系事象および間質性肺疾患はRA の重篤な合併症で,RA治療薬による増悪も報告されていることから,これらの患者に対しては,添付文書の注意事項を遵守して使用することが重要である.
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