日本薬理学雑誌
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Gタンパク質共役型受容体の活性制御にかかわる分子群の新展開
『生体内で死んだ細胞の除去を促進する新たな分子の同定』 アポトーシス細胞の貪食におけるGRK6の役割
仲矢 道雄黒瀬 等
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2015 年 145 巻 1 号 p. 14-20

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抄録

個体発生時や免疫反応時等においては数多くの有害な細胞,不要になった細胞はアポトーシス(細胞死)を起こす.アポトーシスを起こした細胞は,細胞表面上に自身の貪食を促進するようないわゆる‘eat me’シグナルを提示する.このシグナルをマクロファージや樹状細胞等の貪食細胞が受容体を介して認識し,アポトーシス細胞を貪食する.貪食細胞が‘eat me’シグナルを認識すると,受容体からシグナル伝達がおこり,低分子量Gタンパク質Rac1の活性化を通じて貪食細胞の細胞骨格の再編が起こる.しかし,この受容体からRac1を活性化するまでの細胞内シグナル伝達経路については未だ不明な点が多い.我々は,Gタンパク質共役型受容体をリン酸化するキナーゼとして同定された,G-protein coupled receptor kinase 6(GRK6)がアポトーシス細胞の貪食に関与することを見出した.GRK6は,これまで知られている主な貪食細胞内のシグナル伝達経路,DOCK180/ELMO/Rac1,あるいはGULP1/Rac1とは別の経路で,GIT1と協調してRac1を活性化し,貪食を促進した.GRK6ノックアウト(KO)マウスのマクロファージは貪食能が有意に低下しており,アポトーシス細胞が貪食されずに体内に残存していた.その結果,残存したアポトーシス細胞が二次的ネクローシスをおこして,その内容物が流出し,血中の抗二重鎖DNA抗体量が上昇する等,自己免疫疾患の一つである全身性エリトマトーデス(SLE)様の症状を呈した.また,赤血球のリサイクリングに関与する脾臓の赤脾髄マクロファージの貪食能もGRK6KOマウスでは有意に低下しており,その結果,老廃赤血球の貪食が効率よく起こらず,鉄の過剰な蓄積が観察された.以上の結果は,これまでGタンパク質共役型受容体をリン酸化するキナーゼとして注目されてきたGRK6の新たな生理的機能を示すものである.

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