日本薬理学雑誌
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145 巻, 1 号
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Gタンパク質共役型受容体の活性制御にかかわる分子群の新展開
  • 寺田 晃士, 堀之内 孝広, 東 恒仁, Nepal Prabha, 三輪 聡一
    2015 年 145 巻 1 号 p. 4-9
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/01/10
    ジャーナル フリー
    エンドセリン-1(ET-1)の受容体(ETR)はA型(ETAR)とB型(ETBR)の2種類が存在する.両受容体は相同性が高いにも関わらず,ET-1による刺激後の運命が大きく異なる.すなわち,両受容体とも細胞膜上でET-1により刺激されると細胞内移行するが,その後ETARは細胞膜にリサイクルされるのに対し,ETBRはリソソームに輸送されて分解される.このような,異なるETR運命のメカニズムは明らかにされていないが,今回我々は,受容体のユビキチン化がETR運命の選択に重要な役割を果たすことを見出した.ETBRはET-1の刺激によりユビキチン化されたが,ETARはされなかった.ET-1刺激による細胞内移行および分解の速度は,ETARよりETBRのほうが早かった.C末端領域の5つのリシン残基をアルギニンに置換した変異型ETBR(ETBR 5KR)は,ET-1刺激によるユビキチン化を受けず,細胞内移行および分解の速度が低下してETARとほぼ同様となった.共焦点顕微鏡を用いた解析では,ETARおよびETBR 5KRとリサイクリング小胞のマーカーであるRab11との共局在が観察され,ETBRは後期エンドソーム/リソソームのマーカーであるRab7との共局在が観察された.ET-1による刺激の後にET-1を含まない培地に交換後しばらく後のET-1による刺激(ET-1の繰り返し刺激)では,ETBR 5KRによるERKのリン酸化レベルや細胞内Ca2+濃度の上昇の程度が,野生型ETBRのそれらよりも大きかった.これらのことより,ユビキチン化はETBRの細胞内トラフィッキング経路(リサイクリングか分解か)を制御し,その結果ETBRによる細胞内シグナルに影響を与えることが示された.
  • 飯利 太朗, 槙田 紀子
    2015 年 145 巻 1 号 p. 10-13
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/01/10
    ジャーナル フリー
    GPCRの脱感作機構の制御は治療戦略上の重要なターゲットとなり得る.Gタンパク質共役受容体キナーゼ2(GRK2)は潜在的な治療標的分子である.なぜなら,GRK2は,βアドレナリン受容体(β-AR)の脱感作に深く関与し,この脱感作は心不全などの病態やβ受容体アゴニストの治療抵抗性の原因となっているからである.事実,遺伝子操作によってGRK2を抑制すると,動物モデルにおいて心不全抑制効果を示すことが明らかとなっている.GRK2のニトロシル化という化学修飾がGRK2の活性を抑制することが報告された.しかし,過去の検討の潜在的な問題は,ニトロシル化を作動させる化合物が,同時にNOガスを産生することである.NOガスはそれ自身心血管保護作用を有することが確立している.共同研究者の東京大学薬学部大和田教授グループのもとで理論的に合成開発された化合物の中に,ニトロシル化を生じるがNOガスを産生しない新規化合物が同定された.本化合物は,GRK2をインビトロでも細胞実験でもニトロシル化し,GRK2の活性を抑制して,β受容体の脱感作を抑制することが明らかとなった.本化合物は,ニトロシル化の意義を検証するツールとして有用であるとともに,ニトロシル化によるタンパク質の機能調節をめざす将来の治療戦略開発のプロトタイプとなる可能性が期待される.
  • 仲矢 道雄, 黒瀬 等
    2015 年 145 巻 1 号 p. 14-20
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/01/10
    ジャーナル フリー
    個体発生時や免疫反応時等においては数多くの有害な細胞,不要になった細胞はアポトーシス(細胞死)を起こす.アポトーシスを起こした細胞は,細胞表面上に自身の貪食を促進するようないわゆる‘eat me’シグナルを提示する.このシグナルをマクロファージや樹状細胞等の貪食細胞が受容体を介して認識し,アポトーシス細胞を貪食する.貪食細胞が‘eat me’シグナルを認識すると,受容体からシグナル伝達がおこり,低分子量Gタンパク質Rac1の活性化を通じて貪食細胞の細胞骨格の再編が起こる.しかし,この受容体からRac1を活性化するまでの細胞内シグナル伝達経路については未だ不明な点が多い.我々は,Gタンパク質共役型受容体をリン酸化するキナーゼとして同定された,G-protein coupled receptor kinase 6(GRK6)がアポトーシス細胞の貪食に関与することを見出した.GRK6は,これまで知られている主な貪食細胞内のシグナル伝達経路,DOCK180/ELMO/Rac1,あるいはGULP1/Rac1とは別の経路で,GIT1と協調してRac1を活性化し,貪食を促進した.GRK6ノックアウト(KO)マウスのマクロファージは貪食能が有意に低下しており,アポトーシス細胞が貪食されずに体内に残存していた.その結果,残存したアポトーシス細胞が二次的ネクローシスをおこして,その内容物が流出し,血中の抗二重鎖DNA抗体量が上昇する等,自己免疫疾患の一つである全身性エリトマトーデス(SLE)様の症状を呈した.また,赤血球のリサイクリングに関与する脾臓の赤脾髄マクロファージの貪食能もGRK6KOマウスでは有意に低下しており,その結果,老廃赤血球の貪食が効率よく起こらず,鉄の過剰な蓄積が観察された.以上の結果は,これまでGタンパク質共役型受容体をリン酸化するキナーゼとして注目されてきたGRK6の新たな生理的機能を示すものである.
総説
  • 粕谷 善俊
    2015 年 145 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/01/10
    ジャーナル フリー
    p38は,細胞外の刺激を核内の転写制御機構へとつなぐシグナル分子,MAPK(mitogen-activated protein kinase)ファミリーの1つであり,特に,ストレスや炎症性サイトカインにより活性化されることから,JNK(c-Jun N-terminal kinase)やERK5とともにストレス活性化プロテインキナーゼ(stress-activated protein kinase:SAPK)とも呼ばれている.p38の発見から20年が経過し,その多岐にわたる生理的・病態生理的機能が明らかになっているとともに,関節リウマチを始めとする炎症性疾患の創薬ターゲットとして着目され,近年,p38阻害薬の開発が精力的に行われてきた.本稿では,p38の機能を解説するとともに,p38阻害薬の治療応用の可能性も含めて,その動向についてふれたい.
新薬紹介総説
  • 丸山 和容, 腰原 なおみ
    2015 年 145 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/01/10
    ジャーナル フリー
    デクスラゾキサン(サビーン®点滴静注用500 mg)は,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出時の唯一の治療薬として,海外30ヵ国以上で承認され臨床使用されている.本邦においては「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において,医療上の必要性が高い薬剤であると評価され,キッセイ薬品工業株式会社がその開発に着手した.非臨床薬理試験においてはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出による組織障害モデルとして,ダウノルビシンまたはドキソルビシンの皮下投与により誘発されるマウス皮膚潰瘍モデルを作製し,本薬の抗潰瘍作用を評価した.ダウノルビシン誘発皮膚潰瘍モデルにおいて,デクスラゾキサンの腹腔内単回投与は潰瘍発現率を用量依存的に低下させ,潰瘍面積AUCを有意に減少させた.また,本薬は1日1回3日間の腹腔内反復投与においても潰瘍発現率を低下させ,潰瘍面積AUCを著しく減少させた.同モデルにおいて,デクスラゾキサンはダウノルビシン処置後3時間までの腹腔内投与により明らかな潰瘍抑制作用を示し,ダウノルビシン処置後6時間の投与においても潰瘍面積AUCにおいて減少傾向が認められた.静脈内および腹腔内投与による本薬の抗潰瘍作用を比較検討した結果,投与経路の違いによる明らかな差は認められなかった.アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の作用は,主に二本鎖DNAを切断する酵素であるトポイソメラーゼⅡへの阻害活性によるものと考えられており,DNAが切断された状態でDNA-トポイソメラーゼ複合体を安定化させることにより細胞障害を発現する.デクスラゾキサンはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬とは異なる部位でトポイソメラーゼⅡに結合し,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬によるDNA-トポイソメラーゼ複合体の安定化を阻害することにより,血管外漏出による組織障害を改善するものと推察される.臨床試験においては,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出患者を対象に,有効性の主要評価項目として血管外漏出に対する外科的処置率を評価した結果,海外臨床試験において本薬投与後に外科的処置が実施された患者は54例中1例のみであり,他に外科的処置が行われた患者および血管外漏出による壊死が確認された患者はなく,本薬の有効性が確認された.また,国内臨床試験においても外科的処置が行われた患者はなく,本薬の有効性が示唆された.安全性について,副作用の多くはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の副作用として一般的に知られている事象であり回復が認められた.
  • 高須 俊行, 高倉 昭治, 加来 聖司
    2015 年 145 巻 1 号 p. 36-42
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/01/10
    ジャーナル フリー
    イプラグリフロジンL-プロリン(以下イプラグリフロジン,商品名:スーグラ®錠)は,選択的sodium/glucose co-transporter(Na+/グルコース共輸送体:SGLT)2阻害薬として2014年1月に国内で初めて承認された新しい糖尿病治療薬である.腎近位尿細管においてグルコースの再吸収を担う糖輸送体であるSGLT2を阻害し,血液中の過剰なグルコースを尿糖として体外に排泄することによって高血糖を是正する.イプラグリフロジンはヒトSGLT2強制発現細胞を用いた実験において,SGLT2に選択的な阻害作用を示すことが確認された.マウスおよびラットへ単回経口投与したところ用量依存的に尿糖排泄促進作用を示し,また2型糖尿病モデルマウスへ4週間反復経口投与したところ尿糖排泄促進作用に加え,血糖値およびヘモグロビンA1c(HbA1c)低下作用を示した.さらにメトホルミンまたはピオグリタゾンとの反復併用投与により各々の単独投与よりも強いHbA1c改善作用を示した.高脂肪食を負荷して惹起した肥満モデルラットにおいてイプラグリフロジンは体重増加抑制作用および脂肪量減少作用を示した.2型糖尿病患者を対象とした国内第Ⅲ相臨床試験において,イプラグリフロジンは2型糖尿病患者のHbA1cおよび空腹時血糖値を改善し,優れた有効性および安全性を示した.低血糖の発現率は,イプラグリフロジン群とプラセボ群で同程度であった.以上,非臨床薬理試験および臨床試験の結果から,イプラグリフロジンはSGLT2阻害というインスリン作用とは異なる作用機序により血糖降下作用を発現し,2型糖尿病に対して治療効果を示す薬剤であることが示された.選択的SGLT2阻害薬イプラグリフロジンは2型糖尿病患者におけるより質の高い血糖管理の実現に貢献できるものと期待される.
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