日本薬理学雑誌
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X-連鎖知的障害の分子病態解明への挑戦
ATR-X症候群におけるシナプス病態分子機構
塩田 倫史福永 浩司
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2015 年 145 巻 4 号 p. 174-177

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抄録

知的障害は,子供や若い成人の約2~3%に見られ,その発症は環境要因等の非遺伝的要因と遺伝的要因に起因すると考えられている.単一の遺伝子の変異に起因する知的障害にX-連鎖知的障害がある.X-連鎖知的障害は,X染色体上の単一の遺伝子の変異に関連付けられている知的障害であり,遺伝性の知的障害の中でもX染色体上に原因遺伝子が同定される頻度は極めて高い.X-連鎖知的障害原因遺伝子の中にエピジェネティックな遺伝子発現調節に関与する分子群が同定されており,ATRXが挙げられるが,なぜATRX遺伝子の異常が知的障害を引き起こすのか,詳しいメカニズムは明らかとされていない.これまでヒトにおいて,ATRXのexon2における変異(R37X)が報告されており,軽度の知的障害を示すことが知られている.そこで私達はAtrxのexon2を欠損させたマウス(ATRXΔE2マウス)を用いて解析を行った.実際にATRXΔE2マウスでは認知機能の障害がみられた.興味深いことに,ATRXΔE2マウスは内側前頭前野において,長く細いフィロポディア様スパインの数が有意に増加していた.また,ATRXΔE2マウスではCaMKIIの過剰な活性上昇,続いてRac1-GEF/PAKシグナルの亢進によりスパイン形態異常をひき起こすことが明らかとなった.これらの結果は,CaMKII活性制御が知的障害の治療に役立つ可能性を示している.

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