日本薬理学雑誌
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145 巻, 4 号
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X-連鎖知的障害の分子病態解明への挑戦
  • 塩田 倫史, 福永 浩司
    2015 年 145 巻 4 号 p. 174-177
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/10
    ジャーナル フリー
    知的障害は,子供や若い成人の約2~3%に見られ,その発症は環境要因等の非遺伝的要因と遺伝的要因に起因すると考えられている.単一の遺伝子の変異に起因する知的障害にX-連鎖知的障害がある.X-連鎖知的障害は,X染色体上の単一の遺伝子の変異に関連付けられている知的障害であり,遺伝性の知的障害の中でもX染色体上に原因遺伝子が同定される頻度は極めて高い.X-連鎖知的障害原因遺伝子の中にエピジェネティックな遺伝子発現調節に関与する分子群が同定されており,ATRXが挙げられるが,なぜATRX遺伝子の異常が知的障害を引き起こすのか,詳しいメカニズムは明らかとされていない.これまでヒトにおいて,ATRXのexon2における変異(R37X)が報告されており,軽度の知的障害を示すことが知られている.そこで私達はAtrxのexon2を欠損させたマウス(ATRXΔE2マウス)を用いて解析を行った.実際にATRXΔE2マウスでは認知機能の障害がみられた.興味深いことに,ATRXΔE2マウスは内側前頭前野において,長く細いフィロポディア様スパインの数が有意に増加していた.また,ATRXΔE2マウスではCaMKIIの過剰な活性上昇,続いてRac1-GEF/PAKシグナルの亢進によりスパイン形態異常をひき起こすことが明らかとなった.これらの結果は,CaMKII活性制御が知的障害の治療に役立つ可能性を示している.
  • 三宅 邦夫, 久保田 健夫
    2015 年 145 巻 4 号 p. 178-182
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/10
    ジャーナル フリー
    レット症候群は女児1万~1万5千人に1人の割合で発症する進行性の精神・神経発達疾患である.原因遺伝子産物であるMeCP2はエピジェネティックな遺伝子発現調節機構における中心分子である.これまでMeCP2はメチル化DNAに結合し,遺伝子の発現抑制に働くと考えられてきたが,遺伝子の発現促進にも働くこと,クロマチンループ構造の形成やクロマチンの凝集に関与することもわかってきた.さらにMeCP2はメチル化DNAだけでなくハイドロキシメチル化DNAにも結合すること,多数の標的遺伝子だけでなくマイクロRNAの発現調節に関与することからMeCP2は多機能であり,遺伝子発現調節機構はまだ不明な点も多い.これまでレット症候群の神経病態は,神経細胞における機能異常に起因すると考えられてきたが,近年MeCP2は神経細胞だけでなく,グリア細胞でも発現していること,グリア細胞におけるMeCP2機能不全が神経細胞の突起やシナプス形成異常を引き起こすことがわかり,レット症候群の病態にグリア細胞が大きく関与していることが考えられる.グリア細胞の機能改善が新たなレット症候群の治療標的になるかもしれない.近年,レット症候群患者からiPS細胞が作製され,従来行われてきたモデルマウスや患者の死後脳を用いた神経病理学的な所見と同様に,レット症候群iPS細胞から分化誘導した神経細胞は神経細胞体や突起数の減少,神経細胞の成熟異常が確認された.今後,レット症候群患者iPS細胞を用いた研究は,神経病態の解明を目的とするだけでなく,治療薬の開発に発展することが期待される.
  • 奥田 耕助, 田中 輝幸
    2015 年 145 巻 4 号 p. 183-186
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/10
    ジャーナル フリー
    Cyclin-dependent kinase-like 5CDKL5)遺伝子はXp22領域に位置し,mitogen-activated kinases(MAPKs)およびcyclin-dependent kinases(CDKs)と相同性のあるリン酸化酵素CDKL5をコードする.2003年以降,早期発症難治性てんかんを伴う重度発達障害である「X連鎖性ウエスト症候群」および「非典型レット症候群」の患児においてCDKL5遺伝子変異の報告が相次ぎ,CDKL5はてんかん・発達障害の原因遺伝子として注目を集めている.CDKL5遺伝子の主な病因変異は,リン酸化酵素活性の阻害かタンパク質自体の喪失を来すloss-of-function変異である.CDKL5タンパク質は神経細胞の核と細胞質に分布し,細胞質では成長円錐,樹状突起,樹状突起スパイン,興奮性シナプスに局在する.これまでにCDKL5は,Rho-GTPase Rac1と相互作用し,BDNF-Rac1シグナリングを介して神経細胞樹状突起の形態形成を制御すること,興奮性シナプス後部においてNGL-1をリン酸化し,NGL-1とPSD-95の結合を強化し,スパイン形態とシナプス活動を安定化すること,さらにパルミトイル化PSD-95と結合し,その結合がCDKL5のシナプス標的と樹状突起スパイン形成を制御することなどが明らかにされた.また2つの研究室からCdkl5ノックアウトマウスの作製・解析が報告され,活動性変化,運動障害,不安様行動の減少,自閉症様の障害,恐怖記憶の障害,事象関連電位の変化,複数のシグナル伝達経路の障害,けいれん誘発薬に対する脳波反応の異常,樹状突起の分枝異常,歯状回神経新生の変化などが同定された.以上の結果と我々独自のデータから,CDKL5は興奮性シナプス伝達を調節し,ヒトのCDKL5変異に伴う病態がシナプス機能異常であることが示唆される.
  • 安村 美里, 吉田 知之, 三品 昌美
    2015 年 145 巻 4 号 p. 187-192
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/10
    ジャーナル フリー
    Interleukin-1 receptor accessory protein-like 1(IL1RAPL1)は非症候性のX染色体連鎖型知的障害の原因遺伝子の1つであり,自閉症の発症にも関連している.最近我々は,後シナプス膜に発現するIL1RAPL1が前シナプス膜に発現する受容体型チロシン脱リン酸化酵素PTPδと結合することで,興奮性シナプスの形成を制御していることを明らかにした.このことから,IL1RAPL1に遺伝子変異を持つ患者では,シナプス形成不全が知的障害や自閉症の発症の引き金になっていると考えられる.今回,我々はIL1RAPL1の欠損が脳機能に及ぼす影響について,網羅的行動テストバッテリーを用いて検証した.IL1RAPL1欠損マウスは空間の参照記憶や作業記憶,恐怖記憶の遠隔記憶が障害され,行動の柔軟性も野生型マウスに比べると減少していることが明らかになった.したがって,IL1RAPL1欠損マウスは知的障害のモデルマウスとなると思われる.さらにIL1RAPL1欠損マウスは自発的活動が亢進し,広い空間や高さに対する不安が軽減していることも明らかになった.これらの結果は脳の興奮性シナプス形成を制御するIL1RAPL1の欠損が興奮−抑制のバランスを崩し,様々な脳機能に影響を及ぼしていることを示唆している.
総説
  • 古田島(村上) 浩子, 佐藤 敦志, 池田 和隆
    2015 年 145 巻 4 号 p. 193-200
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/10
    ジャーナル フリー
    自閉症スペクトラム障害(以下,自閉症)は,対人相互関係やコミュニケーションの障害を主な特徴とする発達障害である.自閉症の病態解明や治療薬開発のために,現在まで様々な自閉症モデル動物が作製され,解析されてきた.本稿では自閉症の発症に関わる分子の中でも特にmammalian/mechanistic target of rapamycin(mTOR)シグナル系の分子を中心に紹介しながらこれまでの主な自閉症モデル動物を示し,さらに薬物投与によって改善が見られた自閉症モデル動物の研究をあげ,今後のヒトへの応用と治療薬開発に向けた考察を行う.
  • 溝上 顕子, 川久保(安河内) 友世, 竹内 弘, 平田 雅人
    2015 年 145 巻 4 号 p. 201-205
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/10
    ジャーナル フリー
    骨は能動的な内分泌器官であることが明らかとなった.中でも,骨基質タンパクであるオステオカルシンは,糖・エネルギー代謝をはじめ雄の生殖機能調節,脳の発育・発達の調節等に重要な役割を果たしていることが最近の研究で明らかにされた.このような骨による生体恒常性維持の様々な局面が明らかになりつつある.オステオカルシン作用の個々のシグナリング経路は十分に解明されていないが,エネルギー代謝に限定すると,受容体として機能する分子の1つとして同定されたGPRC6Aを介して膵臓β細胞に作用して,あるいは消化管に作用してインクレチンの分泌を促し,次いでインスリンの分泌を促す.そのインスリンは骨にも作用して骨代謝を活性化し,さらなるオステオカルシンの分泌を促すというポジティブサイクルが明らかにされている.極論すると,骨代謝が活発になるとインスリン分泌・糖代謝が亢進する.さらに骨代謝が活発化して丈夫な骨になり,かつ肥満・糖尿病になり難いという魅力的なストーリーである.一方で,オステオカルシンが及ぼす効果には性差があることが示唆されている.本稿では,オステオカルシンの特に糖・エネルギー代謝を調節するホルモンとしての役割について,最近の知見を踏まえて紹介する.
実験技術
  • 関 貴弘
    2015 年 145 巻 4 号 p. 206-210
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/10
    ジャーナル フリー
    細胞内タンパク質分解系の一つであるオートファジー・リソソーム系にはリソソームに基質を運ぶ経路の違いにより,マクロオートファジー(MA),ミクロオートファジー(mA)およびシャペロン介在性オートファジー(CMA)の3種類が存在している.これら3種類のうち,MAは特異的活性マーカーであるLC3-IIの発見を契機に,研究が爆発的に進展し,生理機能や疾患発症への関与が次々と明らかになっている.一方で,mAは酵母では研究が進んでいるものの,哺乳細胞におけるmAの実態は不明なままである.CMAについてはHsc70やLAMP2Aといった関連する分子は解明されたが,有用な活性マーカーがなく,簡便な活性評価法も存在しないため,MAに比べて研究が遅れを取っている.しかし,CMAは①細胞質タンパク質の30%が基質となる,②他の分解系と異なり哺乳細胞しか存在しない,という特徴を持っておりCMAは哺乳細胞の機能維持に不可欠であり,CMAの破綻が様々な疾患発症に繋がる可能性は高い.我々はCMAの基質として知られているGAPDHに多機能ラベリングシステムであるHaloTagを融合したものをCMAマーカーとし,蛍光顕微鏡で簡便にかつ一細胞レベルで詳細にCMA活性を評価することが可能な新規活性評価法を開発した.この新規CMA活性評価法はCMAの生理機能や疾患発症への関与解明に大きく寄与することが期待される.本稿はこの新規CMA活性評価法の詳細とこれを応用した神経変性疾患モデルにおけるCMA活性評価を行った結果を紹介する.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(20)
  • 長村 文孝
    2015 年 145 巻 4 号 p. 211-215
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/10
    ジャーナル フリー
    自社内のみで開発から市販までを完結するクローズドイノベーションは,特に創薬に関しては世界的に行き詰まりをみせ,外部機関と広く連携を行うオープンイノベーションが推進されている.一方,アカデミアの基礎研究力を活かした新規治療法の開発が着目され,政府の支援も拡大している.アカデミアも従来の自機関内での開発では非効率的であるだけではなく,必要なインフラの整備あるいは開発に必要な専門家の確保等の問題により,広く連携を行うことが不可欠となってきている.アカデミア間の連携促進のために国からの競争的資金も導入されるようになり,また,他施設との共同利用型の設備あるいは体制整備も進んでいる.本章では,このようなアカデミアでの連携,すなわち,オープンイノベーションの推進の現状,そしてそれと密接に関連したアカデミアでのシーズ開発についてまとめる.
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