2015 年 146 巻 1 号 p. 16-20
タンパク質の天然構造が壊れたり,間違った状態で折りたたまれたりすることをミスフォールディングと呼ぶ.このミスフォールディングタンパク質は神経筋疾患や白内障等に深く関わっていることが報告され,これらの疾患の治療法を考えるうえで非常に注目されている.また,ミスフォールディングタンパク質による細胞障害の機序として,ミトコンドリアが深く関与していることも報告されている.しかし,その一方でミスフォールディングタンパク質,あるいはミスフォールディングタンパク質が凝集して形成されると考えられているアミロイド沈着とミトコンドリア障害およびその結果起こるとされている細胞死との間には未だに不明な点が多い.アルツハイマー病などで細胞障害因子とされているアミロイドβペプチドおよび心筋症の原因となる点変異(Arg120Gly)α-B-クリスタリンは,ミトコンドリア障害を引き起こし,ミトコンドリアを膨張させ,関連して発生するアポトーシスあるいはネクローシスを誘発すると考えられる.また,この機序には,ミトコンドリアのアポトーシス阻害因子BCL2の減少が関わっている.狭心症治療薬であるニコランジルは,細胞膜のATP感受性K+チャネルを開口させるだけでなく,ミトコンドリアに存在するとされているATP感受性K+チャネルを比較的強力に開口させることが報告されている.ニコランジルはミトコンドリアATP感受性K+チャネル開口作用を介して,アミロイドβペプチドおよび点変異(Arg120Gly)α-B-クリスタリンなどのミスフォールディングタンパク質によるミトコンドリア障害を抑制し,細胞保護作用を示す.これらの結果は,ミトコンドリアのATP感受性K+チャネル開口を介するミトコンドリア保護作用がミスフォールディングタンパク質に関連する疾患の新規治療法となる可能性を示唆する.