ATP感受性K
+(K
ATP)チャネル開口薬によるチャネルの活性化は,心臓の薬理学的虚血プレコンディショニングにおいて重要な役割を担っており,虚血心筋に対する保護効果が証明されている.しかしながら,虚血心筋で誘発される心筋の電気生理学的リモデリングや心臓不整脈に対するK
ATPチャネルの活性化による保護効果については,未だ確立した見解が得られていない.実際,これまでの研究では,K
ATPチャネルの活性化は,虚血誘発心室性頻脈性不整脈の頻度を低下させるとの報告がある一方で,このチャネルの活性化は,虚血誘発頻脈性不整脈の基質である心筋の活動電位幅の短縮を増強させることが知られている.また,K
ATPチャネル活性化の抑制は,虚血時の心筋活動電位幅の短縮を改善して虚血誘発心室性頻脈性不整脈の頻度を低下させるとの報告もある.最近我々は,膜電位感受性色素を利用した光学マッピング法を用いて,心臓の電気的リモデリングや心臓不整脈に対するK
ATPチャネルの活性化による保護効果について検討を行った.結果,K
ATPチャネルの開口薬であるニコランジルは,虚血心室筋においてミトコンドリアK
ATPチャネルを介した心筋の電気的リモデリングの改善(興奮波伝導速度低下の改善)と細胞膜K
ATPチャネルを介した心外膜側心筋の興奮性の低下効果によって,虚血誘発頻脈性不整脈の発生を抑制することが証明された.また,虚血誘発心房細動に対してニコランジルのK
ATPチャネルの活性化は,細胞膜およびミトコンドリアの両K
ATPチャネルに作用して,心房の興奮波伝導速度の低下とそのばらつきの増大を改善し,心房細動の発生を抑制することを示唆される結果を得た.これらの結果は,K
ATPチャネルを標的とした有用な疾患治療戦略として,虚血で誘発される心房性および心室性頻脈性不整脈があることを示唆させる.
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