日本薬理学雑誌
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146 巻 , 1 号
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ATP感受性Kチャネルを標的とした有用な疾患治療戦略の発展
  • 松下 尚子, 弘瀬 雅教
    2015 年 146 巻 1 号 p. 5-9
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/10
    ジャーナル フリー
    ATP感受性K(KATP)チャネル開口薬によるチャネルの活性化は,心臓の薬理学的虚血プレコンディショニングにおいて重要な役割を担っており,虚血心筋に対する保護効果が証明されている.しかしながら,虚血心筋で誘発される心筋の電気生理学的リモデリングや心臓不整脈に対するKATPチャネルの活性化による保護効果については,未だ確立した見解が得られていない.実際,これまでの研究では,KATPチャネルの活性化は,虚血誘発心室性頻脈性不整脈の頻度を低下させるとの報告がある一方で,このチャネルの活性化は,虚血誘発頻脈性不整脈の基質である心筋の活動電位幅の短縮を増強させることが知られている.また,KATPチャネル活性化の抑制は,虚血時の心筋活動電位幅の短縮を改善して虚血誘発心室性頻脈性不整脈の頻度を低下させるとの報告もある.最近我々は,膜電位感受性色素を利用した光学マッピング法を用いて,心臓の電気的リモデリングや心臓不整脈に対するKATPチャネルの活性化による保護効果について検討を行った.結果,KATPチャネルの開口薬であるニコランジルは,虚血心室筋においてミトコンドリアKATPチャネルを介した心筋の電気的リモデリングの改善(興奮波伝導速度低下の改善)と細胞膜KATPチャネルを介した心外膜側心筋の興奮性の低下効果によって,虚血誘発頻脈性不整脈の発生を抑制することが証明された.また,虚血誘発心房細動に対してニコランジルのKATPチャネルの活性化は,細胞膜およびミトコンドリアの両KATPチャネルに作用して,心房の興奮波伝導速度の低下とそのばらつきの増大を改善し,心房細動の発生を抑制することを示唆される結果を得た.これらの結果は,KATPチャネルを標的とした有用な疾患治療戦略として,虚血で誘発される心房性および心室性頻脈性不整脈があることを示唆させる.
  • 河野 崇
    2015 年 146 巻 1 号 p. 10-15
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/10
    ジャーナル フリー
    ATP感受性K(KATP)チャネルは,1983年に心筋細胞で最初に発見されて以来,多くの代謝活性の高い組織でその発現が確認されてきた.また,1990年代には,それらの分子構造が相次いで明らかとなっている.KATPチャネルは,細胞内ATPにより抑制され,ADP/ATP比の上昇によって活性化することから,細胞の代謝状態と細胞の電気的興奮を関連させる“metabolic sensor”としての生理的役割を果たす.多くの組織において,代謝ストレス時のKATPチャネルの活性は,細胞膜を過分極側に誘導し,細胞の電気的興奮を抑え,臓器保護的に働く.また,KATPチャネルは,スルフォニル尿素薬(SU剤)により特異的に抑制され,ニコランジルなどのKチャネル開口薬で活性化される.近年,われわれは,神経系KATPチャネルが中枢神経系だけでなく一次知覚ニューロンにも発現し,神経の興奮および神経伝達物質の放出に関与していることを明らかとした.また,後根神経節には神経細胞膜以外にも細胞質内,核膜,軸索,および衛星細胞にもKATPチャネルの発現が認められる.さらに,神経障害性痛モデル動物を用いた検討から,神経障害後に生じる一次知覚ニューロンのKATPチャネルの発現・活性変化は,痛覚過敏様行動の発生と相関することも明らかとした.これらの結果は,神経KATPチャネルが疼痛治療の標的となる可能性を示唆する.ここでは,感覚神経に発現するKATPチャネルに焦点を当て,慢性痛の病態における役割について概説したい.
  • 三部 篤
    2015 年 146 巻 1 号 p. 16-20
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/10
    ジャーナル フリー
    タンパク質の天然構造が壊れたり,間違った状態で折りたたまれたりすることをミスフォールディングと呼ぶ.このミスフォールディングタンパク質は神経筋疾患や白内障等に深く関わっていることが報告され,これらの疾患の治療法を考えるうえで非常に注目されている.また,ミスフォールディングタンパク質による細胞障害の機序として,ミトコンドリアが深く関与していることも報告されている.しかし,その一方でミスフォールディングタンパク質,あるいはミスフォールディングタンパク質が凝集して形成されると考えられているアミロイド沈着とミトコンドリア障害およびその結果起こるとされている細胞死との間には未だに不明な点が多い.アルツハイマー病などで細胞障害因子とされているアミロイドβペプチドおよび心筋症の原因となる点変異(Arg120Gly)α-B-クリスタリンは,ミトコンドリア障害を引き起こし,ミトコンドリアを膨張させ,関連して発生するアポトーシスあるいはネクローシスを誘発すると考えられる.また,この機序には,ミトコンドリアのアポトーシス阻害因子BCL2の減少が関わっている.狭心症治療薬であるニコランジルは,細胞膜のATP感受性Kチャネルを開口させるだけでなく,ミトコンドリアに存在するとされているATP感受性Kチャネルを比較的強力に開口させることが報告されている.ニコランジルはミトコンドリアATP感受性Kチャネル開口作用を介して,アミロイドβペプチドおよび点変異(Arg120Gly)α-B-クリスタリンなどのミスフォールディングタンパク質によるミトコンドリア障害を抑制し,細胞保護作用を示す.これらの結果は,ミトコンドリアのATP感受性Kチャネル開口を介するミトコンドリア保護作用がミスフォールディングタンパク質に関連する疾患の新規治療法となる可能性を示唆する.
  • 清水 翔吾, 清水 孝洋, 東 洋一郎, 齊藤 源顕
    2015 年 146 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/10
    ジャーナル フリー
    下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)の従来の治療戦略は,膀胱平滑筋収縮や前立腺増殖,肥大といった下部尿路臓器そのものに対して注目されていたが,最近の疫学調査から動脈硬化の危険因子(高血圧,脂質異常,喫煙,糖尿病)とLUTSの関連性が報告され,下部尿路臓器だけでなく血流という観点から全身を治療標的とする概念が提唱されている.基礎研究においても,加齢による血管内皮機能の低下および生活習慣病等による動脈硬化から,膀胱および前立腺への血流が低下し,過活動膀胱および前立腺肥大が惹起されることが,動物モデルにて報告されている.著者らは下部尿路臓器での慢性虚血(血流低下)を改善することで,LUTS(過活動膀胱および前立腺肥大症)への改善効果が期待できるとの仮説をたてた.前立腺肥大等により誘発される急性尿閉は,尿閉および尿閉解除時に虚血再灌流障害を発生させ,膀胱機能障害を惹起する.著者らは,ATP感受性カリウム(ATP sensitive potassium:KATP)チャネル開口薬ニコランジルをラット急性尿閉モデルに腹腔内投与した.その結果,尿閉解除時に再開する血流が,ニコランジル投与群では急性尿閉群と比べて,増加していた.また,急性尿閉群ではコントロール群に比べて,膀胱収縮力の低下および膀胱上皮でのアポトーシスの指標となるTUNEL陽性細胞の増加がみられたが,ニコランジル投与により,これらの変化をコントロールレベルまで抑制した.また,過活動膀胱モデルとされる自然発症高血圧ラット(spontaneously hypertensive rat:SHR)にニコランジルを慢性投与することで,膀胱血流増加と同時に頻尿の改善効果が得られた.さらに,SHR前立腺においては,ニコランジル慢性投与により,前立腺血流増加,酸化ストレスの減少および前立腺過形成抑制効果が観察された.以上より,ニコランジルは従来報告されていた膀胱,前立腺平滑筋への弛緩作用に加えて,下部尿路臓器の血管平滑筋弛緩作用によって大幅な血流増加を促したことで下部尿路症状が改善したことが推測される.2014年4月にホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬(タダラフィル)が本邦で初めての前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬として発売された.PDE5阻害による一酸化窒素(nitric oxide:NO)の作用増強によって,PDE5阻害薬は,血管平滑筋弛緩による血流改善作用,膀胱頚部・前立腺・尿道の平滑筋弛緩作用および求心性神経活動の抑制作用を有すると考えられている.以上から,KATPチャネル開口作用とNOドナー作用を有するニコランジルも同様に,前立腺肥大に伴う下部尿路症状を改善することが期待される.本稿では,骨盤内血流低下および下部尿路症状を呈する動物モデルに対するニコランジルの効果について,著者らの最近の知見を中心に紹介する.
総説
  • 岡﨑 正晃, 及川 剛, 菅谷 健
    2015 年 146 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/10
    ジャーナル フリー
    慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の予後推定,モニタリング,早期治療を実現する新しいバイオマーカーとして尿細管間質障害の程度を反映する尿中L-FABPに期待が寄せられている.L-FABPは腎機能障害の破綻の結果を反映するものではなく,虚血・酸化ストレスにより尿中に漏出されるため,これまでの腎機能マーカーとは異なる機序により腎機能障害を検出する新しいバイオマーカーといえる.本稿では尿細管虚血ストレスマーカーL-FABPに焦点をあて,分子機構について概説するとともに腎疾患マーカーとしての有用性とその臨床的意義について紹介したい.
  • 稗田 蛍火舞, 砂川 陽一, 刀坂 泰史, 長谷川 浩二, 森本 達也
    2015 年 146 巻 1 号 p. 33-39
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/10
    ジャーナル フリー
    高血圧は心血管疾患,脳卒中などの疾患の発症につながる動脈硬化の主要危険因子の一つである.多くの臨床研究から血圧を管理することは,これらの罹患率,死亡率の減少につながることが明らかになっている.しかしこれらの合併症に対する予防効果は降圧薬を用いた治療をもってしても50%未満である.近年,健康的な食事が生活習慣病を予防するだけでなく,治療につながるのではと考え,食品の持つ効果について注目が集まっている.塩分制限,適度なアルコール摂取,およびカロリー制限などの食生活の改善が高血圧の予防のために重要である.また,古くから日本と中国で日常的に飲まれてきた緑茶は降圧効果を有すること,さらにはその有効成分はカテキンであることが明らかとなった.このように降圧効果を持つ食品に関して多くの研究が行われ,これらの機能性食品がレニン・アンジオテンシン系抑制や抗酸化作用,利尿作用,交感神経抑制作用,および血管拡張作用を有する一酸化窒素の合成促進作用などによって降圧効果を示すことが報告されている.今後これらの機能性食品を土台にして,日常の食生活を改善することによって血圧を管理し,健康寿命を延ばすことができると期待される.本総説は動物実験やヒト臨床試験で降圧効果を有することが報告されている機能性食品とその成分についてまとめたものである.
実験技術
  • 住吉 晃, 川島 隆太
    2015 年 146 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/10
    ジャーナル フリー
    東北大学加齢医学研究所脳機能開発研究分野(川島隆太研究室)では,2009年3月に,小動物専用の高磁場核磁気共鳴画像化装置(小動物用7T-MRI装置)を導入した.本MRI装置のマグネットおよび周辺ハードウェアは,実験用動物(おもにラットやマウスの脳が対象)から,高磁場・高感度の環境下で,かつハイスループットにMRI画像が取得できるように設計されている.小動物用7T-MRI装置の導入以来,東北大学内外の研究者と共同研究を精力的に展開しており,2015年2月現在で関連する英文原著論文を15本ほど発表した.本稿では,小動物MRI研究における一般的な利点・限界点を概説したあとに,小動物用7T-MRI装置を用いた当研究室における近年の研究活動について紹介する.特に,ラットにおける脳波(electroencephalography:EEG)と機能的核磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)の同時計測手法の開発とその応用研究,ラットの脳アトラスMRIテンプレートの開発とその応用研究,について紹介する.本稿で紹介する小動物MRIによる実験手法が,日本の脳科学研究,基礎薬理学研究,前臨床研究などの領域において,スダンダードな評価系ツールの一つとして広く認識されることを切に願う.本稿がその一助となれば幸いである.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(23)
  • 下川 宏明
    2015 年 146 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/10
    ジャーナル フリー
    東北大学は,約100年に渡る歴史の中で医療機器開発における大きな足跡を残してきた.それは,医学と工学という領域を超えた連携が実を結んだ数々の実績に現れている.東北大学病院臨床研究推進センターは,この東北大学の伝統を受け継ぎ,医療機器・医薬品開発の拠点として活発な活動を進め,現在150を超える研究シーズの実用化支援を実施している.さらに,文部科学省による「橋渡し研究支援拠点ネットワーク事業」の実施や「知と医療機器創生宮城県エリア」との連携,東北6大学を中心とした「東北トランスレーショナルリサーチ拠点形成ネットワーク(TTN)」の設立,全学16部局横断的にメディカルサイエンス系の研究開発を支援する「東北大学メディカルサイエンス実用化推進委員会」の発足も追い風となり,臨床研究を推進していく環境はますます充実してきている.全学的にも先進医療イノベーションに対する気運が高まるなかで,臨床研究の中心的役割を担うCRIETOの取り組みを紹介する.
新薬紹介総説
  • 田中 基晴, 池田 七, 田原 さやか
    2015 年 146 巻 1 号 p. 54-61
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/10
    ジャーナル フリー
    骨髄線維症(myelofibrosis:MF)は,骨髄の広範囲の線維化,脾腫および随伴する臨床症状を特徴とする造血器腫瘍であるが,選択可能な治療法は極めて限られており,新しい治療法の開発が望まれていた.MFの発生には血液細胞の分化・増殖に関与するJanusキナーゼ(JAK)2の活性化,および消耗性の全身症状には炎症性インターロイキンシグナル伝達に寄与するJAK1が関与することが示唆されている.ルキソリチニブ(ジャカビ錠®)はJAK1およびJAK2に選択性を示す新規のJAK阻害薬である.ピロロピリミジン誘導体(一リン酸塩)である本薬はJAK1およびJAK2に高い選択性(IC50<5 nM)を示し,恒常的活性化型JAK2変異遺伝子(JAK2V617F)発現細胞株のJAK/STATシグナル伝達および増殖を抑制した.また本薬はJAK2V617F変異遺伝子発現細胞を接種したマウスにおいて,脾腫縮小や延命効果,また炎症性サイトカインの血中濃度を低下させるなど,そのJAK阻害効果がin vivoにおいても確認された.本薬のヒトにおけるCmaxおよびAUCは投与量にほぼ比例し半減期は約3時間であった.おもな消失経路は代謝であり,おもにCYP3A4が,またCYP2C9もわずかにその代謝に寄与する.本薬の薬物動態に関し,性別,体重および民族で大きな違いはないと考えられる.海外においてMF患者を対象とした2つの主要な第Ⅲ相臨床試験が実施され,本薬15 mg 1日2回もしくは20 mg 1日2回を開始投与量として投与した場合,対象群と比較し,有意に脾腫縮小効果が認められた.また臨床症状の改善および死亡リスクの減少傾向も示された.おもな有害事象として貧血,血小板減少症が高率に報告された.日本人を含むアジア人を対象とした第Ⅱ相試験でも同様の有効性,忍容性が示されたことから,本邦においても2014年7月にMF治療薬として承認された.
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