日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
性機能障害および下部尿路機能障害の治療における今後の展望
造精機能障害に対するPDE5阻害薬の効果
清水 翔吾Fotios DimitriadisNikolaos Sofikitis齊藤 源顕
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 147 巻 1 号 p. 35-39

詳細
抄録

ホスホジエステラーゼ(PDE)は細胞内セカンドメッセンジャーであるcyclic guanosine monophosphate(cGMP)およびcyclic adenosine monophosphate(cAMP)を分解し,細胞内シグナルを調整する.PDEファミリーのうち,PDE5はcGMP選択的に作用し,精巣臓器だけでなく生殖器の様々な箇所に発現している.PDE5阻害薬は,男性不妊症の主な原因となる特発性造精機能障害の患者において,精子数,精子運動率および精子正常形態率を改善するという報告が散見される.精細管間質に存在するライディッヒ細胞は男性ホルモン(テストステロン等)の産生・分泌を行い,セルトリ細胞にテストステロンを供給する.一方,セルトリ細胞は精子形成に関与する細胞に栄養を与える機能を持つ.筆者らは,PDE5が発現するライディッヒ細胞と精細管周囲筋様細胞に着目し,PDE5阻害薬による造精機能障害改善の作用機序について検討を行った.PDE5阻害薬であるバルデナフィルとシルデナフィルをそれぞれ12週間,乏精子症かつ精子無力症患者に投薬した.投薬前と比較して投薬後では,ライディッヒ細胞分泌能の指標となる血清インスリン様ペプチド3および精液検査での精子濃度および精子運動率が増加していた.この結果から,PDE5阻害薬によるcGMPの増加がライディッヒ細胞分泌能を刺激し,精子濃度および精子運動率の増加に繋がる可能性が示唆された.さらに筆者らは,PDE5阻害薬が精子形成を促進する作用機序として,セルトリ細胞に注目した.セルトリ細胞でのPDE5の発現は報告されていないが,PDE5が発現する精細管周囲筋様細胞は成長因子を放出し,セルトリ細胞分泌能を刺激することがマウスで報告されている.筆者らは,閉塞性無精子症および非閉塞性無精子症患者に対して,PDE5阻害薬であるバルデナフィルを投薬したところ,投薬後では投薬前と比べて,セルトリ細胞分泌能の指標であるアンドロゲン結合タンパク質分泌量が増加していた.本稿では,造精機能障害におけるPDE5阻害薬の効果とその作用機序について,筆者らの研究結果を中心に紹介したい.

著者関連情報
© 2016 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top