日本薬理学雑誌
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147 巻, 1 号
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ROS/Gasotransmitterを介するシグナリングと病態
  • 三宅 崇仁, 白川 久志, 中川 貴之, 金子 周司
    2016 年 147 巻 1 号 p. 6-11
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/09
    ジャーナル フリー
    中枢神経系における免疫担当細胞であるミクログリアは,活性化時に多量の活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)を産生・遊離することが知られているが,ミクログリアにおけるシグナル機能分子としてのROSの役割はほとんど明らかになっていない.Transient receptor potential(TRP)チャネルは細胞内外の様々な物理化学的変化によって開口するCa2+透過型カチオンチャネルであり,ミクログリアにも多くのTRPチャネルが発現するが,ROSシグナリングとの関連を示唆する報告は非常に限られている.我々は以前,TRPM2欠損マウス由来ミクログリアではLPSおよびIFNγ刺激後のiNOS発現増大や一酸化窒素(NO)遊離が抑制されていることを報告した.そこでROSシグナリングに着目して詳細に検討したところ,LPSおよびIFNγ刺激の下流でNADPHオキシダーゼが活性化され,それにより産生されたROSがTRPM2を活性化し,細胞内Ca2+濃度上昇やMAPキナーゼリン酸化を介してNO産生増大を引き起こすメカニズムが明らかとなった.また,マウス培養ミクログリアにTRPV1アゴニストであるカプサイシンを処置すると,遊走が増強されることを見出した.免疫細胞化学や電気生理学的およびCa2+イメージング法を用いた解析によりTRPV1はミトコンドリアに発現し,その開口はミトコンドリアROS産生の増強,MAPキナーゼリン酸化を介してミクログリアの遊走を惹起することが明らかとなった.ミクログリアの機能変化や機能異常は各種病態と関連することが示されていることから,ミクログリアにおけるROSを介した機能制御機構の研究は,創薬研究において今後重要性を増すことが期待される.
  • 岩田 和実
    2016 年 147 巻 1 号 p. 12-17
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/09
    ジャーナル フリー
    活性酸素種(ROS)は種々の心血管系疾患において重要な役割を果たすことが知られている.しかしROSの産生源や作用機構は未だ明らかでない.NADPHオキシダーゼは心血管系組織におけるROS産生酵素の一つであり,本酵素の触媒サブユニットであるNOXには現在7種のサブタイプが存在する.NOX1は誘導型のサブタイプとして近年心血管系疾患への関与が明らかとなってきた.本稿では心血管系組織におけるNOX1の役割をNOX1遺伝子欠損マウス(NOX1-KO)から得られた実験結果を中心に解説する.アンジオテンシンⅡ(AngII)の持続投与による高血圧症モデルでは,NOX1欠損により血圧上昇の抑制が認められた.大動脈においてAngIIにより誘導されたNOX1由来のROSは一酸化窒素のバイオアベイラビリティを低下させて収縮反応を促進することが示された.リポポリサッカライド(LPS)による敗血症モデルではLPS投与数時間後に心臓でNOX1が強く発現誘導され,心筋細胞のアポトーシスを促進した.一方,アントラサイクリン系抗腫瘍薬のドキソルビシンは投与数日後の遅いピークで心臓のNOX1発現を誘導したが,その程度はLPSと比較して軽度であり,心筋細胞のアポトーシスには影響しなかった.しかし誘導されたNOX1は心臓の炎症性サイトカイン発現と線維化を促進した.他方,著者らは偶然にNOX1-KOの肺動脈が肥厚していることに気付いた.その機序を解析したところ,NOX1の欠損は肺動脈平滑筋細胞における電位依存性カリウムチャネルKv1.5タンパク質の発現を減少させ,アポトーシスを抑制することで平滑筋細胞のターンオーバーが低下したためであることがわかった.心血管系組織においてNOX1由来ROSは発現組織や時期により疾患増悪因子あるいは保護因子として多面的な役割を有することが明らかとなった.
  • 加藤 伸一
    2016 年 147 巻 1 号 p. 18-22
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/09
    ジャーナル フリー
    NADPHオキシダーゼは生体内のおもな活性酸素(ROS)の産生酵素であり,これまでに数種のホモログが同定されている.NADPHオキシダーゼ1(NOX1)は非食細胞型ホモログとして同定された分子種であり,全身に広く分布している.消化管においては,NOX1は特に下部消化管上皮に高発現していることが知られているが,生理学的および病態生理学的役割については不明な部分が多い.著者らは,5-FU誘起腸炎およびTNBS誘起大腸炎の病態におけるNOX1/ROSの役割を明らかにするため,NOX1遺伝子欠損マウスを用いて検討した.これら腸炎の発生は,野生型マウスと比較してNOX1遺伝子欠損マウスではいずれも有意に抑制された.また,腸炎発症時に観察される炎症性サイトカイン発現の増大もNOX1遺伝子欠損マウスでは抑制された.これらの結果はNOX1/ROSが腸炎の病態において,特に炎症性サイトカイン発現の増大過程に関与していることを示唆している.これまでNOX1は消化管では上皮細胞に発現すると考えられてきたが,興味深いことに著者らはNOX1が固有粘膜層に分布するマクロファージにも発現していることを見出した.マクロファージに発現しているNOX1は,ROS産生を介して炎症性サイトカイン発現増大に寄与しているものと推察される.一方,DSS誘起大腸炎を用いた検討から,NOX1/ROSは上皮バリア機能の調節を介して保護的に作用している可能性を示唆する結果を得た.このようにNOX1/ROSは消化管炎症の病態において,炎症惹起と粘膜保護(抗炎症)という相反する機能を有しているものと推察される.
  • 木村 英雄
    2016 年 147 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/09
    ジャーナル フリー
    硫化水素(H2S)は「卵の腐敗臭」で知られる毒ガスである.一方,メチオニン,システイン,グルタチオン,チアミン,タンパク質構造におけるジスルフィド結合など,イオウは生物界において極めて重要な働きを担っている.このイオウを転移する酵素の研究は1950年代から1970年代にかけて精力的に行われ,H2Sは副産物あるいは単なる酵素活性マーカーとして捉えられていた.1989年から翌年にかけ,哺乳類の脳に内在性H2Sが存在することが報告され,H2Sが何らかの生理活性を持つことが予想された.この報告をきっかけに私たちは,H2Sの生理機能についての研究をはじめ,その後多くの研究者が参入し,神経伝達調節,平滑筋弛緩,細胞保護,抗炎症,血管新生など様々な働きがあきらかになった.私たちはこの研究の途上,SがさらにつながったポリサルファイドH2Snがイオンチャネルを活性化し,カルシウム流入を促すことを見出し,さらに,がん抑制因子活性調節,転写因子核内移行促進による抗酸化遺伝子群の転写亢進,血管平滑筋弛緩による血圧調節などの生理活性を持つことが次々と報告されている.ここでは,H2SとH2Snの生合成,機能およびその作用機構について概説する.
性機能障害および下部尿路機能障害の治療における今後の展望
  • 堀田 祐志, 木村 和哲
    2016 年 147 巻 1 号 p. 31-34
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/09
    ジャーナル フリー
    交通事故などにより陰茎海綿体の栄養血管に障害が生じた場合,動脈性の勃起不全(erectile dysfunction:ED)が生じることがある.EDは患者のQOLを損なうだけでなく,時として夫婦間の不仲の原因になる場合もある.EDの治療にはホスホジエステラーゼ-5(PDE-5)阻害薬が第一選択薬として頓服で使用されている.このPDE-5阻害薬が無効で動脈性EDが確定診断された場合,動脈血行再建術が適応となることもあるが,この治療法は侵襲的であるため患者への負担が大きい.そのため動脈性EDに対する非侵襲的な新規治療法の開発が望まれている.外傷性の動脈性EDの研究には内腸骨動脈を両側共結紮することで陰茎を虚血状態にしたモデルが使用される.我々もこの動脈性EDモデルを用いてPDE-5阻害薬の「慢性」投与の効果を検討した.その結果,PDE-5阻害薬の慢性投与は勃起機能を改善するだけでなく陰茎海綿体の構造保持の面でも有効であることが示唆された.他にもスイカに多く含まれるアミノ酸の一種でありNO産生を促進すると報告されているシトルリンの動脈性EDへの効果についても同モデルを用いて検討し,シトルリン投与により勃起機能や陰茎海綿体構造が改善することを報告してきた.本総説では,動脈性EDに対する新規アプローチと題して,我々が行ってきたこれらの実験データや臨床での報告を紹介させて頂く.
  • 清水 翔吾, Fotios Dimitriadis, Nikolaos Sofikitis, 齊藤 源顕
    2016 年 147 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/09
    ジャーナル フリー
    ホスホジエステラーゼ(PDE)は細胞内セカンドメッセンジャーであるcyclic guanosine monophosphate(cGMP)およびcyclic adenosine monophosphate(cAMP)を分解し,細胞内シグナルを調整する.PDEファミリーのうち,PDE5はcGMP選択的に作用し,精巣臓器だけでなく生殖器の様々な箇所に発現している.PDE5阻害薬は,男性不妊症の主な原因となる特発性造精機能障害の患者において,精子数,精子運動率および精子正常形態率を改善するという報告が散見される.精細管間質に存在するライディッヒ細胞は男性ホルモン(テストステロン等)の産生・分泌を行い,セルトリ細胞にテストステロンを供給する.一方,セルトリ細胞は精子形成に関与する細胞に栄養を与える機能を持つ.筆者らは,PDE5が発現するライディッヒ細胞と精細管周囲筋様細胞に着目し,PDE5阻害薬による造精機能障害改善の作用機序について検討を行った.PDE5阻害薬であるバルデナフィルとシルデナフィルをそれぞれ12週間,乏精子症かつ精子無力症患者に投薬した.投薬前と比較して投薬後では,ライディッヒ細胞分泌能の指標となる血清インスリン様ペプチド3および精液検査での精子濃度および精子運動率が増加していた.この結果から,PDE5阻害薬によるcGMPの増加がライディッヒ細胞分泌能を刺激し,精子濃度および精子運動率の増加に繋がる可能性が示唆された.さらに筆者らは,PDE5阻害薬が精子形成を促進する作用機序として,セルトリ細胞に注目した.セルトリ細胞でのPDE5の発現は報告されていないが,PDE5が発現する精細管周囲筋様細胞は成長因子を放出し,セルトリ細胞分泌能を刺激することがマウスで報告されている.筆者らは,閉塞性無精子症および非閉塞性無精子症患者に対して,PDE5阻害薬であるバルデナフィルを投薬したところ,投薬後では投薬前と比べて,セルトリ細胞分泌能の指標であるアンドロゲン結合タンパク質分泌量が増加していた.本稿では,造精機能障害におけるPDE5阻害薬の効果とその作用機序について,筆者らの研究結果を中心に紹介したい.
  • 松本 成史, 柿崎 秀宏
    2016 年 147 巻 1 号 p. 40-44
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/09
    ジャーナル フリー
    1977年,F. Muradらは生体内における血管内皮由来物質としてのNO(一酸化窒素)の働きを発見し,1998年にはノーベル生理学・医学賞を受賞した.血管内皮やNO作動性神経から放出されたNOは,cGMP(環状グアノシン一リン酸)を産生して平滑筋を弛緩させる.cGMPを分解するPDE(ホスホジエステラーゼ)type5の活性化を抑制するPDE5阻害薬は,平滑筋細胞内cGMP濃度の低下を防ぎ,結果としてNO産生量を増加させる.PDE5阻害薬は,1990年代前半に狭心症治療薬として開発されていたが,陰茎海綿体平滑筋等を弛緩させることでED(勃起不全)に有効であることが認められ,本邦においても1999年にシルデナフィルがED治療薬として承認を受けた.またPDE5阻害薬はPAH(肺動脈性肺高血圧症)治療薬としても臨床応用されており,EDのみならず全身的な血管・血流改善薬の可能性を秘めている.LUTS/BPH(前立腺肥大症に伴う下部尿路症状)に関しては,その相関性について議論されており,共通の発症要因としてのNO-cGMP系の低下が注目されてきた.PDE5は陰茎海綿体のみならず,膀胱,前立腺,尿道をはじめとする下部尿路にも広く分布していることが知られており,PDE5阻害薬の中でタダラフィルは2014年に「BPHに伴う排尿障害」治療薬として本邦においても臨床での使用が開始となった.PDE5阻害薬は膀胱出口部閉塞抑制作用,骨盤内血流改善作用,求心性神経活動抑制作用といった下部尿路に対する作用に加え,抗炎症作用,抗酸化作用,血管内皮保護作用等の多岐に亘る薬理作用を有していることが知られており,本項では第88回日本薬理学会年会シンポジウムで発表した内容を中心に報告する.
  • 久末 伸一
    2016 年 147 巻 1 号 p. 45-47
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/09
    ジャーナル フリー
    勃起障害(erectile dysfunction:ED)は血管内皮障害との関連が強く指摘されている.そのため,生活習慣病との関連が以前より指摘されている.喫煙,高血圧,肥満/運動不足,冠動脈疾患はEDのリスクファクターであると同時にEDがこれら生活習慣病発見のためのサロゲートマーカーとなりうることが注目を集めている.最近ではこれら血管病変に対して衝撃波治療が血管拡張作用と血管新生作用を有することから,EDに対しても衝撃波治療が応用されるようになってきた.PDE5阻害薬であるタダラフィルが新たにBPHに対して保険適応となった.これまでにタダラフィル単剤ではIPSSにおいて症状を有意に改善することが明らかとなっており,他覚的所見に関してはαブロッカーとの併用で尿流測定における最大尿流率の改善に寄与することも知られている.また,動物実験では前立腺の線維化の予防につながり,長期投与によってBPHによる症状悪化を防ぐ可能性も示唆されてきている.
総説
  • 千葉 政一, 森脇 千夏, 伊奈 啓輔, 藤倉 義久
    2016 年 147 巻 1 号 p. 48-55
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/09
    ジャーナル フリー
    視床下部神経ヒスタミンはヒスチジン脱炭酸酵素によって必須アミノ酸l-histidineから生合成され,食行動・エネルギー代謝調節などの生理機能を広く制御し,他のアミン神経系同様に重要な役割を担う.近年,この視床下部神経ヒスタミンは5つの神経亜核(腹側亜核群としてE1,E2およびE3,背側亜核群としてE4およびE5)から構成されることが明らかとなった.E1とE2はおもに概日周期の情報処理に,E3はおもに空腹時の拮抗性食行動情報処理に,E4とE5はおもにストレス情報処理に,それぞれ関連した生理機能制御に寄与すると考えられる.しかし,これらの神経亜核群の生理機能について不明な点が多く残されており,今後の視床下部神経ヒスタミン研究と同分野の創薬に飛躍的な発展が期待される.
新薬紹介総説
  • 齋藤 亮, 大森 庸子
    2016 年 147 巻 1 号 p. 56-62
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/09
    ジャーナル フリー
    トレプロスチニルは,米国United Therapeutics社で開発された肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療薬である.PAH治療薬として,プロスタグランジンI2(PGI2)製剤,ホスホジエステラーゼ5阻害薬,エンドセリン受容体拮抗薬が国内外で用いられており,トレプロスチニルはPGI2の化学構造を改変することにより,消失半減期および室温下での溶液安定性を改善した皮下投与および静脈内投与が可能なPGI2誘導体である.本剤は,血管拡張作用,血小板凝集抑制作用および肺動脈平滑筋細胞増殖抑制作用を示し,これらの作用により肺動脈圧および肺血管抵抗を低下させ,肺高血圧症患者において有効性を示すと考えられる.PAH患者を対象とした国内第Ⅱ/Ⅲ相試験では,トレプロスチニルの投与によりエポプロステノール(Epo)未使用例にて6分間歩行距離の延長が認められたものの,血行動態パラメータ(心係数,平均肺動脈圧,肺血管抵抗係数)の改善は認められなかった.また,Epo切替え例ではいずれの評価指標も改善が認められなかったものの,18例中15例は臨床的悪化なくEpoから本剤へ切替えられた.一方,第Ⅱ/Ⅲ相試験よりさらなる投与速度の増量が許容された国内第Ⅱ/Ⅲ相追加試験では,6分間歩行距離の延長および肺血管抵抗係数の低下が認められた.両評価指標で改善を示した有効症例数は5例中4例であり,PAH患者に対するトレプロスチニルの有効性が確認された.安全性に関しては皮下注射部位の局所反応(疼痛,紅斑等)および他のPGI2製剤でも報告のある有害事象(下痢,悪心,頭痛等)が比較的よく認められた.持続皮下投与における疼痛対策が今後の課題ではあるものの,本剤は既存のPGI2製剤にはない特徴(在宅療法に適した持続皮下投与が可能,薬剤調製が簡便,室温での安定性が良好,消失半減期が比較的長い,など)を有しており,国内のPAH治療に対して新たな治療選択肢を提供できることが期待される.
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