日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集 漢方薬理学:漢方薬の新たな薬理学的メカニズム探究
釣藤散の脳機能障害改善作用
岡 淳一郎松本 欣三濱田 幸恵
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 147 巻 3 号 p. 157-160

詳細
抄録
釣藤散は,11種類の生薬からなる和漢薬である.臨床では,釣藤散が脳血管障害に伴う認知機能障害を改善することが報告されている.また,動物実験では,脳血管性認知症モデル動物や加齢あるいは2型糖尿病モデル動物の学習記憶障害を,釣藤散が改善することが報告されている.本研究では,まず幼若期発症1型糖尿病モデル(JDM)ラットにおける学習記憶障害に対する釣藤散の作用について検討した.我々のこれまでの研究から,JDMラットでは学習記憶障害,シナプス伝達効率の亢進およびシナプス長期抑圧(LTD)の減弱が生じることが明らかになっている.釣藤散(1 g/kg)の慢性経口投与により,JDMラットにおける学習記憶ならびにLTDが回復した.この時,JDMラットで過剰発現していたグルタミン酸受容体NR2Bサブユニット(GluN2B)が正常発現レベルまで回復した.以上より,釣藤散は,糖尿病によるシナプス伝達効率異常亢進を抑制すること,およびNR2B過剰発現を正常に戻すことにより,シナプス可塑性と学習記憶障害を改善することが示唆された.さらに,釣藤散が,強制水泳試験において抗うつ様作用を示すことを見出した.この抗うつ様作用は視床下部-下垂体-副腎皮質系の改善によるものではなく,その作用機序の一つとして,ストレス負荷によるグルタミン酸濃度上昇に伴う細胞障害からの保護が関与する可能性が考えられる.
著者関連情報
© 2016 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top