日本薬理学雑誌
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147 巻 , 3 号
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特集 新たな血管作動性物質と受容体に着目した血管研究の新展開
  • 松本 貴之, 田口 久美子, 小林 恒雄
    2016 年 147 巻 3 号 p. 130-134
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
    血管内皮細胞は,血液と接する血管内腔に存在し様々な因子を放出することから,最大の内分泌器官と考えられている.2005年に新規血管内皮由来収縮因子として報告されたウリジンアデノシンテトラフォスフェート(Up4A)は,その構造体にプリンとピリミジンを含む非常にユニークな物質である.これまで,様々なモデル動物標本を用いた検討からUp4Aは収縮反応や弛緩反応を誘発するといった血管緊張性を調節することが明らかとなったが,病態下におけるUp4Aの作用に関しては全く不明であった.我々は,生活習慣病の主翼である高血圧と糖尿病に着目し,これらのモデル動物を用いて,病態下でUp4Aの収縮力が血管部位によって異なることや,血管平滑筋におけるUp4Aの収縮機序の一端を明らかとした.また,Up4Aは,血管緊張性調節のみならず,平滑筋の増殖や遊走,炎症,石灰化にも関与することが報告され病態形成への役割も明らかになりつつある.今後,この新たな血管作動性物質であるUp4Aの研究がさらに進むことにより,生理的および病態生理的な役割が明確になることが望まれる.
  • 丸山 加菜, John J. McGuire, 篠塚 和正, 籠田 智美
    2016 年 147 巻 3 号 p. 135-138
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
    メタボリックシンドロームは,肥満を基盤として,耐糖能異常,脂質代謝異常,血圧高値などが集積することにより,動脈硬化性疾患が高頻度に生じる病態である.増加した脂肪細胞から産生・放出される種々のメディエーターが,肥満に伴う糖尿病,高血圧,動脈硬化などの発症に関与すると考えられている.一方,プロテアーゼ活性化型受容体(protease-activated receptor:PAR)は特定のセリンプロテアーゼにより特定部位が切断されリガンドとして自身を活性化するというユニークな活性化機構をもった細胞膜受容体である.中でもPAR2は,循環器系を始め,消化器系,呼吸器系,神経系など多様な組織において生理学的および病態生理学的な機能を有することから,創薬研究の標的分子として注目されている.血管内皮細胞に存在するPAR2は,内皮由来弛緩因子の産生・放出を介して血管平滑筋を弛緩させ,血管緊張性調節に寄与している.PAR2は種々のプロテアーゼや血液凝固を惹起する組織因子VIIa/Xaなどにより活性化されることから,血管壁PAR2がメタボリックシンドロームにおける病態形成に関与する可能性がある.我々は,メタボリックシンドロームモデルラットを用いた検討から,血管内皮細胞のPAR2は,メタボリックシンドロームの早期には組織・臓器への循環保持に寄与しているが,メタボリックシンドローム状態が続くとPAR2機能に破綻が生じることにより虚血性臓器障害が惹起されるのではないかと考えている.本稿では,血管内皮PAR2の血管拡張機能に焦点をあて,メタボリックシンドロームにおけるPAR2の役割について,我々の研究成果を中心に概説する.
  • 柴田 玲, 大内 乗有, 室原 豊明
    2016 年 147 巻 3 号 p. 139-142
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
    肥満症を中心とした代謝異常,心血管病の病態には,種々のアディポカインの産生異常が関わっている.近年,アディポネクチンなど生活習慣病や心血管病に保護的作用を有している可能性が高いと思われるアディポカインが見出されている.オメンチンもその一つである.肥満症や冠動脈疾患においてオメンチンの血中濃度は低値を示す.オメンチンは,血管において血管新生促進作用やリモデリング抑制作用を有し,心臓においては心筋梗塞縮小効果や心臓リモデリング予防効果を発揮する.今後,オメンチンのさらなる機能解析や発現作用調節機構の解明が,心血管病の病態解明への新たなアプローチにつながると考えられる.オメンチンは心血管病への診断に有用であるだけでなく,今後,治療への応用にも期待される.
特集 漢方薬理学:漢方薬の新たな薬理学的メカニズム探究
  • 佐藤 廣康, 西田 清一郎, 土田 勝晴
    2016 年 147 巻 3 号 p. 144-147
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
    東洋医学的概念,五臓の「腎」は先天の生命力を表し,老化予防・抗病力の賦活を意味する.更年期症状,冷え,全身倦怠,水分代謝の機能低下,頻尿,夜間頻尿,尿失禁,浮腫,前立腺肥大,性欲減退,勃起障害などの臨床症状を腎虚という.腎虚に対して処方される補腎剤には六味丸・八味地黄丸・牛車腎気丸があり,六味丸に2生薬ずつ添加した生薬構成をしている.補腎剤は若年ラット(10~15週齢)と高齢ラット(35週齢以上)で血管弛緩作用に違いを示した.単一フィトケミカル(植物由来機能物質)では薬理効果の加齢的減衰が著明であるが,多成分複合薬(漢方薬を含む)は抗加齢効果を表す.六味丸は,高齢ラットでは血管内皮依存性弛緩作用が弱くなった.高齢ラットで,八味地黄丸は六味丸より強い弛緩作用を表すが,内皮依存性弛緩作用はみられず,平滑筋作用が強い.牛車腎気丸は高齢ラットで弛緩作用は増強し,血管内皮依存性弛緩作用は保たれた.含有生薬の違い(種類,含有数)から,薬理作用に加齢的差異が表れたと考えられた.一方,糖尿病ラットでは,血管弛緩作用の加齢変化は著明に見られなかった.臨床適用では,長期投与によって主訴症状を改善した.同時に圧脈波解析では動脈スティフネス(CAVI)も著明に低下させた.病態下では急性投与での効果発現は表れにくく,長期投与の必要性が示唆された.
  • 福井 裕行, 水口 博之, 柏田 良樹, 根本 尚夫, 北村 嘉章, 武田 憲昭
    2016 年 147 巻 3 号 p. 148-151
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
    ヒスタミンH1受容体には,受容体刺激による遺伝子発現亢進を介する受容体アップレギュレーション機構が存在することを見いだし,タンパク質キナーゼC-δ(PKCδ)活性化を介することを明らかにした.臨床研究により,この機構が花粉症の鼻過敏症状悪化に関与し,ヒスタミンH1受容体遺伝子が疾患感受性遺伝子であることが示唆された.鼻過敏症モデルラットに対する抗ヒスタミン薬および抗アレルギー天然物医薬である苦参エキスの投与は,共に鼻過敏症状の改善とそれに相関した鼻粘膜ヒスタミンH1受容体mRNAレベル上昇の抑制を引き起こした.苦参エキスに含まれるヒスタミンH1受容体遺伝子発現抑制物質として(-)マーキアインを同定し,鼻過敏症モデルラットの鼻過敏症状に対する改善作用を明らかにした.(-)マーキアインの作用点がPKCδ活性化抑制であり,標的分子としてヒートショックタンパク質-90(Hsp90)の同定に成功した.Hsp90とPKCδは複合体を形成し,(-)マーキアインは複合体を解離させることにより,PKCδシグナルを核に伝えないと考えられた.さらに,Hsp90抑制薬が,鼻過敏症モデルラットの鼻過敏症状および鼻粘膜ヒスタミンH1受容体遺伝子発現亢進に対する改善作用を示した.以上の結果より,ヒスタミンH1受容体遺伝子が花粉症の感受性遺伝子であり,抗ヒスタミン薬はH1受容体のレベルで,苦参エキスはPKCδのレベルで改善作用を発揮することが示唆された.
  • 古川 哲史, 黒川 洵子, 白 長喜
    2016 年 147 巻 3 号 p. 152-156
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
    薬用人参は最もポピュラーな生薬の1つであり,東洋医学では不老長寿の薬・万能薬として使われている.その主成分はステロールサポニン(ginsenoside)であり,薬理作用としては免疫賦活作用,抗がん作用,血管拡張作用などが知られているが,その作用機序の詳細は不明である.我々は,薬用人参の心血管系に対する作用を検討した.薬用人参は,急性作用として心筋活動電位持続時間を短縮し,細胞内カルシウム濃度を低下させることで心血管系保護作用を示す.薬用人参成分の中で,ginsenoside Reが主な作用成分であった.コントロール状態では,緩徐活性化遅延整流性カリウム電流(IKs)を活性化し,交感神経刺激状態ではL型カルシウム電流(ICaL)を抑制することにより活動電位持続時間を短縮した.IKs活性化,ICaL抑制とも一酸化窒素(NO)依存性であるが,その機序は異なっていた.IKs活性化は,IKsチャネルαサブユニットKCNQ1のニトロシル化,ICaL抑制は交感神経刺激により産生されたcAMPの分解の促進によりもたらされた.NO産生源は3型NO合成酵素(NOS3,別名eNOS)であり,eNOS活性化はカルシウム非依存性であり,リン酸化酵素Akt依存性であった.Aktの活性化は,性ホルモン受容体であるエストロゲン受容体,アンドロゲン受容体,プロゲステロン受容体を介して行われた.Ginsenoside Reはエストロゲン受容体,アンドロゲン受容体,プロゲステロン受容体に直接結合するが,コアクチベーターの結合を起こさないために,ゲノム作用を示さなかった.以上から,薬用人参のステロールサポニンginsenoside Reは性ホルモン受容体非ゲノム作用の特異的リガンドとして心血管保護作用を示すことが明らかとなった.
  • 岡 淳一郎, 松本 欣三, 濱田 幸恵
    2016 年 147 巻 3 号 p. 157-160
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
    釣藤散は,11種類の生薬からなる和漢薬である.臨床では,釣藤散が脳血管障害に伴う認知機能障害を改善することが報告されている.また,動物実験では,脳血管性認知症モデル動物や加齢あるいは2型糖尿病モデル動物の学習記憶障害を,釣藤散が改善することが報告されている.本研究では,まず幼若期発症1型糖尿病モデル(JDM)ラットにおける学習記憶障害に対する釣藤散の作用について検討した.我々のこれまでの研究から,JDMラットでは学習記憶障害,シナプス伝達効率の亢進およびシナプス長期抑圧(LTD)の減弱が生じることが明らかになっている.釣藤散(1 g/kg)の慢性経口投与により,JDMラットにおける学習記憶ならびにLTDが回復した.この時,JDMラットで過剰発現していたグルタミン酸受容体NR2Bサブユニット(GluN2B)が正常発現レベルまで回復した.以上より,釣藤散は,糖尿病によるシナプス伝達効率異常亢進を抑制すること,およびNR2B過剰発現を正常に戻すことにより,シナプス可塑性と学習記憶障害を改善することが示唆された.さらに,釣藤散が,強制水泳試験において抗うつ様作用を示すことを見出した.この抗うつ様作用は視床下部-下垂体-副腎皮質系の改善によるものではなく,その作用機序の一つとして,ストレス負荷によるグルタミン酸濃度上昇に伴う細胞障害からの保護が関与する可能性が考えられる.
総説
  • 間賀田 泰寛
    2016 年 147 巻 3 号 p. 161-167
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
    さまざまなインビボイメージング技術を用いた小動物イメージング研究が進行している.イメージング技術は大きく分けると解剖学的情報を与えるものと生体の機能情報を与えるものに大別される.X線CTや超音波画像は高い空間分解能を有し,解剖学的情報を与える.それに対し,放射性核種を用いるPETやSPECT,蛍光イメージングは機能情報を与えるイメージング技術である.MRIは従来解剖学的情報を与える装置として発展したが,近年では様々な撮像法が開発され一部の生体機能情報を得られるようにもなってきた.さらにはこれら装置を組み合わせた小動物用マルチモダルイメージングシステムも開発されている.また装置の発達と前後して各種のイメージングプローブも発達してきている.イメージングプローブは小動物専用というものではないため,小動物イメージングで成功したイメージングプローブを用いて大動物やヒトでのイメージング研究に移行しやすい.さらに今回は割愛するが,得られたインビボでの画像情報には本来目的としない情報もバックグランドとして必ず含まれている.したがって生の画像情報から目的とする特異的反応に関する情報のみを抽出しうる解析法も重要であり,装置,イメージングプローブ,解析法の三者がそろって初めて有効なイメージング研究の遂行が可能となる.各自の研究に対応して合目的的に方法論を選択することが重要である.
創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(1)
  • 斉藤 幹良
    2016 年 147 巻 3 号 p. 168-174
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
    現在,世界で50品目を超える抗体医薬品が承認されており,2013年の抗体医薬の市場規模は7兆円を超える.抗体医薬の適応疾患は,当初のがん,免疫炎症疾患ばかりでなく,感染症,骨粗鬆症,加齢性黄斑変性症,高脂血症などへも広がってきている.近年,免疫チェックポイント阻害薬,T cell engager,抗体依存性細胞障害活性増強抗体,antibody-drug conjugateなど新たな作用機序を有する抗体や薬効を増強した抗体が実用化され,従来の抗体医薬では難しい疾患や症例に対して新たな治療法を提供している.激しい競合の中でいかに新たな価値を提供できるかが課題であり,今後の抗体医薬の方向性として,薬効増強や血中動態の改善など抗体の機能増強技術がさらに進展して行くとともに,その一方で,コスト低減に向けた抗体のバイオ後続品の開発がさらに活発化して行くものと思われる.
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