日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
抗悪性腫瘍薬ヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体イピリムマブ(ヤーボイ®点滴静注液50 mg)の薬理学的特性と臨床効果
天野 学小林 洋子長谷川 真裕美大塚 康司
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2016 年 147 巻 4 号 p. 243-252

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抄録

イピリムマブ(遺伝子組換え,以下,本薬)は,活性化されたT細胞上に発現する抑制性の共刺激受容体である細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)に選択的な免疫グロブリンGサブクラス1の完全ヒト型モノクローナル抗体であり,「根治切除不能な悪性黒色腫」を効能・効果として承認された免疫チェックポイント阻害薬である.本薬はT細胞上のCTLA-4と抗原提示細胞上に発現するB7(CD80/CD86)分子との相互作用を阻害し,T細胞の抑制性調節を遮断して腫瘍抗原特異的なT細胞を増殖・活性化させ腫瘍増殖を抑制する.また,制御性T細胞(Treg)に発現するCTLA-4への結合を介したTregの機能低下および抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性による腫瘍組織におけるTreg数の減少により腫瘍免疫反応を亢進させると考えられる.一方で,本薬はin vitroで軽度~中等度のADCC活性を示したが,in vivo非臨床試験および臨床試験では,活性化T細胞を減少させないことが示された.ヒトCTLA-4を発現したトランスジェニックマウスを用いたin vivo試験において,本薬は大腸がん細胞株の腫瘍増殖を抑制した.以上より,CTLA-4の阻害は腫瘍に対する免疫応答を増強させ,持続的な抗腫瘍効果により長期生存に寄与すると考えられる.実際に,根治切除不能な悪性黒色腫を対象とした海外第Ⅲ相試験において,本薬3 mg/kg投与群では対照群と比較して統計学的に有意な全生存期間の延長を認め,1年および2年生存率は対照群の生存率と比べて一貫して高く,Kaplan-Meier生存曲線は最終追跡時点の2年以上を通して対照群の曲線に収束せず,本薬の投与が長期生存に寄与する結果が示された.また,国内第Ⅱ相試験においても一定の抗腫瘍効果が確認された.主な副作用として作用機序に基づく免疫関連の有害事象である,下痢,大腸炎,皮膚障害,肝機能異常,内分泌障害等が認められたが,これらは管理可能であり,本薬3 mg/kgの忍容性が確認されている.以上のことより,本薬はこれまで予後不良の疾患であった根治切除不能な悪性黒色腫に対し,長期生存に寄与できる新たな選択肢を提供するものと期待される.

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