日本薬理学雑誌
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特集 幹細胞研究と臨床利用の進歩
患者由来iPS細胞を用いた筋疾患モデル
櫻井 英俊
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2016 年 147 巻 5 号 p. 272-276

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抄録

骨格筋疾患には,有効な治療法が確立されていない難病が多くあり,新規治療薬の開発に向け患者由来iPS細胞を活用した研究が期待されている.その実現のため我々は高効率で極めて再現性高くiPS細胞を骨格筋へ分化誘導させる方法を確立した.この方法はテトラサイクリン誘導性に骨格筋分化のマスター遺伝子であるMyoD1を強制発現することで,未分化iPS細胞からわずか10日程度で成熟骨格筋を分化誘導する方法であり,その筋分化効率は70~90%程度と極めて高い.この骨格筋分化誘導法を活用して,三好型ミオパチーの病態再現を行った.三好型ミオパチーの原因遺伝子であるDysferlinは,筋細胞膜に存在する分子で筋損傷時に細胞膜を修復する.三好型ミオパチー患者由来細胞では,レーザー照射による膜損傷後の膜修復が遅延することを明らかにした.さらにDysferlinの発現を回復することで,この膜修復の遅延は改善することを見出し,病態再現に成功した.次にデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に対してはエクソンスキッピング製剤の開発が進んでいるが,この治療法は遺伝子変異特異的であり適応患者が限られているため,共通の初期病態をターゲットにした創薬が渇望されている.我々はDMDに共通の初期病態として,筋収縮時のCa2+の過剰な細胞質への流入というモデルの確立に成功した.また過剰なCa2+の流入が細胞障害を引き起こし,培養上清中のCK活性の上昇という表現型も見出した.これらの表現型は原因遺伝子Dystrophinの発現回復により改善することから,Dystrophinの欠失が引き起こす細胞障害モデルを確立したと言える.今後,スクリーニングに適した解析システムを構築することで,これらの筋疾患に対する新たな薬剤の開発につながるものと期待できる.

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