日本薬理学雑誌
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総説
プリン作動性シグナルの心血管系における役割
西村 明幸西田 基宏
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2017 年 149 巻 2 号 p. 84-90

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抄録

細胞内においてエネルギー源や遺伝情報の構成成分として利用されるATPが細胞外でシグナル伝達分子として働くことが知られるようになっておよそ半世紀が過ぎた.現在では,ATPやその代謝産物を含むヌクレオチドによる細胞間情報伝達系は「プリン作動性シグナル」と呼ばれ,神経,免疫,循環器系など様々な組織での生理機能に関与することが知られている.例えば,神経系においてATPは神経伝達物質として利用され,循環器系においては血管トーヌスの調整や血小板凝集などに関与する.また,臨床的にもATP製剤やクロピドグレルなどプリン作動性シグナルを標的とした薬が開発されている.プリン作動性シグナルの受容体としては,アデノシンを認識するP1受容体,ATPを認識するイオンチャネル型のP2X受容体,Gタンパク質共役型のP2Y受容体が同定されており,ノックアウトマウスを用いた解析などを通じて,各受容体の役割について多くの報告がなされている.一方で,シグナル伝達経路は一本道ではなく複雑に分岐しており,また異なるシグナル伝達経路が相互作用(クロストーク)することで複雑なネットワークを形成している.我々はこれまでに,血圧調節に重要な生理活性ペプチドであるアンジオテンシンⅡを介したシグナルとプリン作動性シグナルのクロストークとして,①P2Y2RシグナルによるアンジオテンシンⅡ受容体(AT1R)の発現調節機構,②加齢依存的なP2Y6RとAT1Rの複合体形成によるアンジオテンシンⅡ細胞応答性の調節機構について明らかにしてきた.本総説では,心血管系におけるプリン作動性受容体シグナルの生理機能について,我々の最近の知見を交えつつ紹介する.

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