日本薬理学雑誌
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特集:ミトコンドリア品質管理の生物学的理解とその医療応用
平滑筋Ca2+シグナルにおけるミトコンドリアとミトフュージンの生理的意義
山村 寿男鈴木 良明今泉 祐治
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2017 年 149 巻 6 号 p. 260-263

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抄録

平滑筋細胞におけるCa2+シグナルは,筋収縮や細胞運命,遺伝子発現調節などに関与している.その情報伝達の要となる細胞質Ca2+濃度([Ca2+cyt)は,細胞膜上のイオンチャネルやトランスポーター,細胞内Ca2+貯蔵器官である筋小胞体(SR)やミトコンドリアなどによって緻密に制御されている.特に,時空間的に特徴的なCa2+シグナルが発生する細胞内微小空間〝Ca2+マイクロドメイン〟では,細胞内小器官や機能分子が集積し,物理的相互作用や機能連関を介して,極めて効率的なシグナル伝達が行われている.近年,細胞内Ca2+シグナルにおけるミトコンドリアの生理的役割や病態との関連が注目されている.様々な刺激によって惹起された[Ca2+cyt上昇は,ミトコンドリア内膜に存在するCa2+ユニポーターを介して,ミトコンドリアのマトリックスCa2+濃度([Ca2+mito)を増加させる.マトリックスのTCA回路はCa2+依存的に活性化するため,[Ca2+mitoの増加はATP産生を促進させる.産生されたATPは,細胞質からのCa2+排出を担うCa2+ポンプ(Ca2+-ATPase)の活性化に利用される.したがって,ミトコンドリアはCa2+シグナル調節に直接的および間接的に寄与しているといえる.また,一部のミトコンドリアはSRと結びついていることも知られている.この物理的近接を担う分子がミトフュージン(mitofusin)である.ミトフュージンを介した両オルガネラの構造的な共役は,Ca2+マイクロドメインにおける機能連関の効率化に関与しているため,その機能破綻は疾患につながる.本総説では,平滑筋細胞内のCa2+環境を整えるミトコンドリアの生理機能とそれを支える構造的分子基盤であるミトフュージンについて概説する.

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