日本薬理学雑誌
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149 巻 , 6 号
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特集:ミトコンドリア品質管理の生物学的理解とその医療応用
  • 長島 駿, 高田 拓弥, 柳 茂
    2017 年 149 巻 6 号 p. 254-259
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/14
    ジャーナル フリー

    ミトコンドリアの機能は,融合と分裂による形態変化,微小管上でのミトコンドリアの移動,小胞体など他のオルガネラとの相互作用などミトコンドリアダイナミクスによって制御されている.ミトコンドリア外膜に局在する膜型ユビキチンリガーゼMITOL(別名:MARCH5)は,ミトコンドリアの分裂因子であるDrp1とそのレセプターであるMiD49を基質にしてミトコンドリアの形態を制御していることやミトコンドリアの融合因子であるmitofusin-2を基質にしてミトコンドリアと小胞体の接着(MAM)の形成を誘導していることなどが明らかとなっている.このようにMITOLは,ミトコンドリアダイナミクスの制御を介してミトコンドリアの品質を管理している.本稿では,MITOLによるミトコンドリア品質管理機構とその破綻によるミトコンドリア機能低下および関連疾患についてMITOL欠損マウスの解析結果を中心に紹介する.

  • 山村 寿男, 鈴木 良明, 今泉 祐治
    2017 年 149 巻 6 号 p. 260-263
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/14
    ジャーナル フリー

    平滑筋細胞におけるCa2+シグナルは,筋収縮や細胞運命,遺伝子発現調節などに関与している.その情報伝達の要となる細胞質Ca2+濃度([Ca2+cyt)は,細胞膜上のイオンチャネルやトランスポーター,細胞内Ca2+貯蔵器官である筋小胞体(SR)やミトコンドリアなどによって緻密に制御されている.特に,時空間的に特徴的なCa2+シグナルが発生する細胞内微小空間〝Ca2+マイクロドメイン〟では,細胞内小器官や機能分子が集積し,物理的相互作用や機能連関を介して,極めて効率的なシグナル伝達が行われている.近年,細胞内Ca2+シグナルにおけるミトコンドリアの生理的役割や病態との関連が注目されている.様々な刺激によって惹起された[Ca2+cyt上昇は,ミトコンドリア内膜に存在するCa2+ユニポーターを介して,ミトコンドリアのマトリックスCa2+濃度([Ca2+mito)を増加させる.マトリックスのTCA回路はCa2+依存的に活性化するため,[Ca2+mitoの増加はATP産生を促進させる.産生されたATPは,細胞質からのCa2+排出を担うCa2+ポンプ(Ca2+-ATPase)の活性化に利用される.したがって,ミトコンドリアはCa2+シグナル調節に直接的および間接的に寄与しているといえる.また,一部のミトコンドリアはSRと結びついていることも知られている.この物理的近接を担う分子がミトフュージン(mitofusin)である.ミトフュージンを介した両オルガネラの構造的な共役は,Ca2+マイクロドメインにおける機能連関の効率化に関与しているため,その機能破綻は疾患につながる.本総説では,平滑筋細胞内のCa2+環境を整えるミトコンドリアの生理機能とそれを支える構造的分子基盤であるミトフュージンについて概説する.

  • 関根 史織
    2017 年 149 巻 6 号 p. 264-268
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/14
    ジャーナル フリー

    我々の着目するphosphoglycerate mutase 5(PGAM5)は,ヒスチジンを酵素活性中心とする酵素学的にユニークなSer/Thrプロテインホスファターゼである.また,N末端の膜貫通ドメインを介してミトコンドリア内膜にターゲットすることがわかっており,その細胞内局在においても興味深い特徴を持つ.我々は,ミトコンドリアにストレスを負荷すると,PGAM5がミトコンドリア局在のプロテアーゼによって膜貫通ドメイン内での切断(膜内切断)を受けることを見出した.さらに最近,他の研究室から,切断型PGAM5がアポトーシス促進機能を有する可能性が提唱され,PGAM5膜内切断とストレス応答との関わりが示唆されている.二重膜構造のオルガネラであるミトコンドリアには,内膜,膜間腔,そしてマトリックスのそれぞれのコンパートメントに,多種類のプロテアーゼが存在している.先に挙げたPGAM5以外にも様々なタンパク質がこれらミトコンドリア局在のプロテアーゼにより切断制御を受ける.さらに,最近の研究から,こうしたミトコンドリアにおけるタンパク質の切断・分解が,多様なかたちで,細胞やミトコンドリア自身のストレス応答に寄与していることもわかってきた.本稿では,PGAM5について我々が明らかにしてきた知見を含め,国内外の報告を紹介するとともに,ミトコンドリアにおけるタンパク質分解の役割について,ストレス応答への関与という観点から,最近の知見を概説したい.

  • 島内 司, 西村 明幸, 石川 達也, 西田 基宏
    2017 年 149 巻 6 号 p. 269-273
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/14
    ジャーナル フリー

    医薬品の開発研究は,新たな薬剤を生み出す創薬研究と既存の薬剤の新たな作用を見出し応用する育薬研究に分けられる.創薬標的はますます複雑化の一途を辿り,新薬創出の研究に必要とされる時間とコストも膨れ上がっている.新薬開発に比べて既承認薬はヒトでの安全性,薬物動態が確立されており,他の疾患への治療薬として適応するにあたって大幅な時間とコストの削減が可能となる.このような新しい医薬品研究のあり方は「エコファーマ(またはドラッグ・リポジショニング)」として提唱されている.ミトコンドリアは分裂と融合を動的に制御することでその品質を維持している.ミトコンドリアの機能異常は様々な疾患の原因となるため,その品質管理が新しい治療標的として注目されている.我々は心筋梗塞後に心筋が早期老化を引き起こす前段階において,ミトコンドリア過剰分裂が起こること,およびこの原因が低酸素に依存したミトコンドリア分裂促進GTP結合タンパク質dynamin-related protein 1(Drp1)の活性化にあることを見出した.ラット新生児心筋細胞において,低酸素/再酸素化刺激は心筋細胞の早期老化を引き起こし,低酸素誘発性のミトコンドリア分裂を阻害することで再酸素化後の心筋早期老化が抑制された.低酸素刺激によるミトコンドリア分裂を阻害しうる既承認薬のスクリーニングを行った結果,ジヒドロピリジン系Ca2+チャネル阻害薬であるシルニジピン(cilnidipine:CIL)がミトコンドリア分裂を抑制することを見出した.CILはCa2+チャネル阻害作用と無関係にDrp1活性化を抑制し,心筋老化を抑制した.以上の結果は,CILがミトコンドリア過剰分裂に起因する様々な疾患の治療薬に適応拡大できることを強く示している.

受賞講演総説
  • 恩田 将成, 小坂田 文隆
    2017 年 149 巻 6 号 p. 274-280
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/14
    ジャーナル フリー

    脳の情報処理は神経回路を基盤としているため,神経機能およびその異常は分子や細胞のみに起因するわけではなく,神経回路レベルの挙動として捉える必要がある.視覚の情報処理は並列階層的に構成され,光の電気信号への変換,画像情報の符号化,局所的な情報抽出,画像認識に分けることができる.我々は神経回路の構造と機能を解明する目的で,特定の細胞に入力する単シナプス結合細胞を全脳レベルで標識できる狂犬病ウイルストレーシング法を開発してきた.現在,この狂犬病ウイルスベクターを用いた単一細胞レベルの分解能を持つ神経回路マッピングに,2光子イメージングによる単一細胞レベルの分解能の機能評価と,光遺伝学による単一細胞レベルの分解能の機能操作を組み合わせた神経回路解析法を視覚神経系に適用することで,神経回路の情報伝達機構や動作原理に迫っている.本稿では,最近の研究から明らかとなったマウスとサルの視覚系の相違と共通点に焦点を当て,視覚情報処理機構について概説し,さらにその神経回路メカニズムを解析する新規狂犬病ウイルストレーシング法についても紹介したい.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(14)
  • 中津井 雅彦, 鎌田 真由美, 荒木 望嗣, 奥野 恭史
    2017 年 149 巻 6 号 p. 281-287
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/14
    ジャーナル フリー

    医薬品研究開発プロセスの効率化によって研究開発コストを抑制することは製薬業界にとっての急務であり,人工知能(AI)や分子シミュレーションの技術を駆使した「インシリコ創薬」に大きな期待が寄せられている.しかし,これまでの「インシリコ創薬」においては,主に計算機性能の不足により,①膨大な化合物ライブラリから疾患原因タンパク質と結合する化合物を網羅的に探索できない,②医薬品候補化合物の薬理活性を正確に予測することが難しい,といった課題があった.本稿では,これらの課題の解決を目指して筆者らが取り組んできた,スーパーコンピュータ「京」を活用した世界最大規模の高速・超並列バーチャルスクリーニング,および大規模分子動力学シミュレーションを活用したタンパク質-化合物結合親和性の高精度予測について紹介するとともに,次期のスーパーコンピュータであるポスト「京」の圧倒的な計算性能が実現するインシリコ創薬の未来を展望する.

新薬紹介総説
  • 玉置 賢, 佐藤 郁也
    2017 年 149 巻 6 号 p. 288-295
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/14
    ジャーナル フリー

    リファキシミン(製品名:リフキシマ®錠)は,イタリアAlfa Wassermann社が開発したリファマイシン系抗菌薬で,好気性及び嫌気性のグラム陽性菌並びにグラム陰性菌に対し広い抗菌スペクトルを有し,その作用様式は殺菌的であることが確認されている.リファキシミンの作用機序は,リファマイシン系の他の薬剤と同様に,細菌のDNA依存性RNAポリメラーゼ酵素のβサブユニットに結合することによってRNAの合成を阻害すると考えられる.また,リファキシミンは経口投与してもほとんど吸収されず,消化管内でのみ作用することが特徴とされる.ラット肝性脳症モデルを用いた検討において,リファキシミンは腸間膜静脈血中アンモニア濃度を低下させ,肝性脳症モデル動物で誘発される昏睡の発症を抑制することが確認された.リファキシミンは肝性脳症の主要な病因とされるアンモニア産生を減少させていると考えられ,実際に多くのアンモニア産生菌に対するリファキシミンの抗菌活性がin vitroで示されている.国内第Ⅰ相試験では,日本人健康成人男性での忍容性,安全性が確認され,外国人と薬物動態が類似していることが確認された.また,国内第Ⅱ/Ⅲ相実薬対照並行群間比較試験では,日本人肝性脳症患者にリファキシミン1200 mg(400 mgを1日3回)を14日間経口投与し,リファキシミンは対照薬であるラクチトールと同様に血中アンモニア濃度を低下させ,肝性脳症昏睡度(犬山シンポジウム昏睡度分類)及びPSE(portal-systemic encephalopathy)指数(肝性脳症昏睡度,血中アンモニア濃度及び羽ばたき振戦などをスコア化し一元化)を改善することが確認された.さらに,国内第Ⅱ/Ⅲ相試験を完了した患者を対象にリファキシミンの投与を10週間継続する国内第Ⅲ相試験を実施し,最大12週間投与における忍容性に問題のないことが確認された.難吸収性抗菌薬リファキシミンは肝性脳症患者で有効性及び安全性が確認され,本邦における新たな選択肢となった.

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