日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
C型慢性肝炎経口治療薬ダクラタスビル塩酸塩/アスナプレビル/ベクラブビル塩酸塩配合剤(ジメンシー®配合錠)の薬理学的特性と臨床効果
岩田 博司石川 博樹
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2017 年 150 巻 3 号 p. 153-164

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抄録

インターフェロン(IFN)を併用しない直接作用型抗ウイルス薬(DAA)のみの治療として,非構造タンパク質5A(NS5A)複製複合体阻害薬であるダクルインザ錠(ダクラタスビル塩酸塩,以下ダクラタスビル)及び非構造タンパク質3/4A(NS3/4A)プロテアーゼ阻害薬であるスンベプラカプセル(アスナプレビル)が,ジェノタイプ1のC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変に対して世界で初めて開発され,2014年7月に本邦において承認された.ジメンシー®配合錠(以下,ジメンシー)は,ダクラタスビル及びアスナプレビルに,新規DAAである非構造タンパク質5B(NS5B)ポリメラーゼに対する非核酸型阻害薬のベクラブビル塩酸塩(以下,ベクラブビル)を配合した固定用量配合剤である.ベクラブビルはC型肝炎ウイルス(HCV)のNS5Bポリメラーゼに結合することで,NS5Bによるウイルスリボ核酸(RNA)の合成開始を阻害するDAAであり,作用点の異なるベクラブビルをダクラタスビル及びアスナプレビルに追加することで,in vitroでHCVゲノム排除作用の増強を示した.in vitroにおけるHCV RNAの排除においては,3剤のHCVレプリコン細胞への添加は,同様な濃度倍率の2剤併用に比較して効果的であり,2剤併用時に認められなかったHCVレプリコンの完全な排除が認められた.また,ダクラタスビル,アスナプレビルに耐性を示すNS5A及び非構造タンパク質3(NS3)のアミノ酸置換(それぞれL31M-Y93H及びD168V)を含むジェノタイプ1b変異レプリコン細胞の排除にも効果を示した.国内第Ⅲ相臨床試験の結果,ダクラタスビル/アスナプレビル/ベクラブビル固定用量配合剤(DCV-TRIO)は,1日2回12週間の投与により,ジェノタイプ1a/1bのC型慢性肝炎及び代償性肝硬変の全ての患者に対し96%の投与終了12週後のHCV RNA定量下限未満の割合(SVR12達成割合)を示し,このうちジェノタイプ1bの未治療患者に対するSVR12達成割合もまた96%と,ダクラタスビル/アスナプレビル併用療法(87%)より高かった.また,投与開始前の肝硬変の有無やNS5A耐性変異の有無に関わらず,DCV-TRIO投与群のSVR12達成割合(92%~96%)は高かった.SVR12を達成しなかったジェノタイプ1bの患者はいずれも有害事象又は患者希望による投与4週間未満の中止例であり,高度耐性株(NS3-D168,NS5A-L31+Y93H,NS5B-P495)の出現はみられず,4週間以上投与された患者は全てSVR12を達成した.安全性に関して,DCV-TRIOはおおむね忍容であり,死亡例は認められず,ジェノタイプ1b未治療コホートのDCV-TRIO群とダクラタスビル/アスナプレビル群との間には,重篤な有害事象及び投与中止に至った有害事象の発現割合に大きな違いはなかった.DCV-TRIO群において,Grade 3又は4のALT増加(13.8%),AST増加(9.2%)及び高ビリルビン血症(5.5%)が高い頻度でみられたが,これらは週1回のモニタリングにより管理可能である.以上より,ジメンシー配合錠は,C型慢性肝炎及び代償性肝硬変に対する治療薬として新たな選択肢となり,肝硬変やNS5A耐性を有する患者に対しても有効で,DAA療法で良好な効果が得られなかった患者に対しても治療法の1つとなるものと考えた.

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