日本薬理学雑誌
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特集:脳機能とその破綻に対する時間・階層縦断的アプローチと治療戦略
電気けいれん刺激による海馬神経の成熟制御:精神疾患の新たな治療戦略
瀬木(西田) 恵里井本 有基小林 克典
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2017 年 150 巻 5 号 p. 218-222

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抄録

近年,中枢神経における神経成熟状態の変化と精神疾患病態・治療メカニズムとの関連が示唆されつつある.しかしながら,神経の成熟状態を制御する分子機構はほとんど分かっていない.著者らは,抗うつ治療モデルである電気けいれん刺激による神経の活性化が,成体マウス海馬神経の成熟状態をどのように変化させるかについて解析した.電気けいれん刺激によって,海馬歯状回の顆粒成熟マーカーの発現が迅速に減少するとともに,神経興奮性の増大・刺激反応性の減少・短期可塑性の減少など未成熟様の機能変化が誘導された.すなわち,電気けいれん刺激による神経活性化によって,成熟神経が未成熟様に変化する「脱成熟」表現系が誘導された.また,これら脱成熟変化は,繰り返しの電気けいれん刺激により長期にわたって持続した.一方で,電気けいれん刺激後に,シナプス抑制の増強を行うと再成熟化がおきた.これらの結果から,電気けいれん刺激による脱成熟変化は,内在的な神経興奮性の増大によって維持されていることが示唆された.神経活性化による神経成熟と興奮性の制御が,うつ治療をはじめ様々な精神疾患治療の新たな戦略につながるものと期待される.

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