日本薬理学雑誌
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150 巻 , 5 号
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特集:脳機能とその破綻に対する時間・階層縦断的アプローチと治療戦略
  • 瀬木(西田) 恵里, 井本 有基, 小林 克典
    2017 年 150 巻 5 号 p. 218-222
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/09
    ジャーナル フリー

    近年,中枢神経における神経成熟状態の変化と精神疾患病態・治療メカニズムとの関連が示唆されつつある.しかしながら,神経の成熟状態を制御する分子機構はほとんど分かっていない.著者らは,抗うつ治療モデルである電気けいれん刺激による神経の活性化が,成体マウス海馬神経の成熟状態をどのように変化させるかについて解析した.電気けいれん刺激によって,海馬歯状回の顆粒成熟マーカーの発現が迅速に減少するとともに,神経興奮性の増大・刺激反応性の減少・短期可塑性の減少など未成熟様の機能変化が誘導された.すなわち,電気けいれん刺激による神経活性化によって,成熟神経が未成熟様に変化する「脱成熟」表現系が誘導された.また,これら脱成熟変化は,繰り返しの電気けいれん刺激により長期にわたって持続した.一方で,電気けいれん刺激後に,シナプス抑制の増強を行うと再成熟化がおきた.これらの結果から,電気けいれん刺激による脱成熟変化は,内在的な神経興奮性の増大によって維持されていることが示唆された.神経活性化による神経成熟と興奮性の制御が,うつ治療をはじめ様々な精神疾患治療の新たな戦略につながるものと期待される.

  • 小倉 明彦, 齋藤 慎一, 木村 聡志, 冨永(吉野) 恵子
    2017 年 150 巻 5 号 p. 223-227
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/09
    ジャーナル フリー

    ストレスは記憶の獲得や固定に大きな影響を及ぼす.心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状から立てられた現在の通説では,強いストレスは,新規記憶の獲得を阻害する一方,獲得した記憶の固定を強化する,とされている.動物個体へのストレス負荷は,いわゆるHPA軸をはじめとして何重にも備わった生体恒常性維持機構を駆動する.したがって,ストレスが記憶に及ぼす影響には,ストレスの脳への直接作用だけでなく,恒常性機構を介した二次的作用も含まれ,解釈を複雑にする.ストレスの記憶への影響を細胞レベルで解析するには,個体の恒常性機構から逃れて実験者が設定した条件下で,しかも長期にわたって解析できるモデル実験系が必要である.本稿では,培養海馬切片におけるRISE(繰り返し長期増強(LTP)誘発後のシナプス強化現象)が,求められるモデル系としての資格を満たすことを示す.RISEは,シナプスの新生を伴う長期的シナプス強化現象である.ストレスホルモン(糖質コルチコイド)は,LTPばかりでなくRISEをも阻害することがわかった.これは,ストレスは動物個体での記憶の固定を強化するとする通説とは合致しないが,固定の強化はストレスの恒常性機構(たとえば補償的に増大した脳由来神経栄養因子(BDNF)生産など)を介した二次的作用である可能性がある.

  • 森口 茂樹, 福永 浩司
    2017 年 150 巻 5 号 p. 228-233
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/09
    ジャーナル フリー

    著者らは,メマンチンによる認知機能改善効果の新たな治療標的としてATP感受性K(KATP)チャネル抑制効果を見出した.アルツハイマー病(AD)モデルマウスであるAPP23マウス(12ヵ月齢)に認められる認知機能障害はメマンチンの慢性投与(28日間)により有意な認知機能改善効果を示し,海馬における長期増強現象(long-term potentiation:LTP)の亢進ならびに記憶分子であるカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼⅡ(CaMKII)の自己リン酸化の増加を確認した.メマンチンによる海馬LTPの亢進ならびにCaMKIIの自己リン酸化の増加はKATPチャネル開口薬であるピナシジルにより有意に抑制された.次に,KATPチャネルのアイソフォームであるKir6.1/Kir6.2の過剰発現Neuro2A細胞を用いて電気生理学的解析により外向きK電流を測定した結果,メマンチンは外向きK電流を有意に抑制した.さらに,カルシウムイメージング解析により有意な細胞内カルシウム濃度上昇を確認した.免疫組織化学的解析によりKir6.2チャネルは海馬神経細胞においてシナプス伝達を担うシナプス後肥厚(postsynaptic density:PSD)に多く局在し,一方,Kir6.1チャネルは樹状突起および細胞体への局在が確認された.最後に,著者らはKir6.2欠損マウスならびにCaMKII欠損マウスにおいて認知機能障害が惹起されていることを確認し,メマンチンの慢性投与(28日間)では認知機能障害の改善効果が確認されないことを確認した.Kir6.2チャネル活性調節は膵臓β細胞におけるインスリン分泌促進効果による糖尿病治療標的である.メマンチンによるKir6.2チャネルの活性調節はADの脳糖尿病仮説を実証した結果であり,Kir6.2チャネルがAD患者における認知機能障害の新しい治療標的となる可能性が示された.

  • 柿澤 昌
    2017 年 150 巻 5 号 p. 234-239
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/09
    ジャーナル フリー

    加齢に伴う記憶力の低下は,個人差があるものの,誰でも経験し得る生理的な老化現象である.このような脳機能の生理的老化のメカニズム解明へのアプローチとして,記憶学習の細胞レベルでの基盤とされるシナプス可塑性への加齢の影響,さらには,老化の原因因子として着目されている活性酸素の影響に関する様々な研究が行われているが,未だに不明な点が少なくない.本稿では,システインのチオールは,活性酸素による酸化修飾に加え,一酸化窒素によるS-ニトロシル化修飾の標的であることに着目し,活性酸素によるS-ニトロシル化修飾の阻害を介したシナプス可塑性阻害に関する研究を紹介する.小脳皮質の平行線維-プルキンエ細胞シナプスに於けるシナプス可塑性の一種,長期増強(LTP)はS-ニトロシル化依存的であるが,若齢マウス個体由来の小脳スライスの活性酸素処理により,平行線維シナプスLTP及び小脳タンパク質のS-ニトロシル化が阻害される.さらに,老齢個体由来のスライスでも,同様に平行線維シナプスLTP及び小脳タンパク質S-ニトロシル化の阻害が見られる.これらの結果は,老齢個体に於いては,内因性の活性酸素による機能分子のS-ニトロシル化阻害を介してシナプス可塑性が阻害されることを示唆するものであり,このS-ニトロシル化阻害を特異的に解除する薬物の開発により,抗老化創薬に向けた一つの道が拓かれる可能性が期待される.

実験技術
  • 笠原 由佳, 池谷 裕二, 小山 隆太
    2017 年 150 巻 5 号 p. 240-245
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/09
    ジャーナル フリー

    熱性けいれんは乳幼児期において最も頻発するけいれんである.このため,これまで熱性けいれんが将来の脳機能に及ぼす影響について多大な関心が寄せられてきた.熱性けいれんが脳機能に及ぼす影響を分子細胞レベルで解明するためには,動物モデルの利用が必須である.環境大気温を上昇させ,間接的にげっ歯類の体温を上昇させる高温チャンバーモデルは,セットアップが簡便かつ安定した再現性が得られる優れた熱性けいれんモデルである.本稿では,高温チャンバーモデルの特徴を説明しながら,筆者らの研究室で実際に用いられている実験プロトコルを記述し,最後には実験的熱性けいれん誘導の評価基準を紹介する.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(18)
  • 田野﨑 翔, 遠山 周吾, 福田 恵一
    2017 年 150 巻 5 号 p. 246-250
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/09
    ジャーナル フリー

    重症心不全は内科的治療に抵抗性できわめて予後不良の疾患である.重症心不全に対しては心臓移植が唯一の治療法となるが,心臓移植件数は限られており,心臓移植の代替治療としてヒト多能性幹細胞から作成した心筋細胞による再生医療が注目されている.ヒト多能性幹細胞由来の心筋細胞を用いた再生医療の実現に当たっては,大量のヒト多能性幹細胞の培養,ヒト多能性幹細胞からの効率的な心筋分化誘導,分化した心筋細胞の純化精製,生着効率の高い移植など,各段階にいくつもの越えるべき障壁が存在する.Wntシグナルなどを利用した効率的な心筋分化誘導法,多能性幹細胞と心筋細胞との代謝機構の差異を利用した代謝による心筋細胞の純化精製,霊長類への心筋細胞の移植など再生医療への応用に向けた研究実績が蓄積されつつあり,今後は多能性幹細胞由来の心筋細胞による安全性・有効性を検証した上で,再生医療への応用が期待される.

新薬紹介総説
  • 中本 泰充, 山田 裕幸, 渡邊 靖夫
    2017 年 150 巻 5 号 p. 251-260
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/09
    ジャーナル フリー

    デシコビ配合錠(DVY)は,1錠中にテノホビル アラフェナミド(TAF)とエムトリシタビン(FTC)を含む配合錠である.TAFとFTCはいずれも核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)と呼ばれ,HIV-1逆転写酵素によりウイルスRNAからDNAが合成される過程を阻害することでHIV-1の増殖を抑制する.これまで広く使用されてきたNRTIとして,テノホビル ジゾプロキシルフマル酸塩(TDF)がある.TDFはNRTIであるテノホビル(TFV)の経口吸収性を改善した第一世代のプロドラッグである.一方,TAFはTFVの第二世代のプロドラッグとして開発された.TDFは血漿中で不安定であるのに対し,TAFは血漿中でより安定であり,効率的に標的細胞内に取り込まれる.そのためTDFよりも低い投与量で,TFVの高い標的細胞内濃度が得られ,その一方で血漿中のTFV濃度は低く抑えられる.その結果,TAFは優れた抗ウイルス作用を発揮すると共に,TDFの腎臓や骨への影響といった安全性上の懸念を低減したプロファイルを有する.DVYにはTAFの含有量の違いにより2規格があり,他の抗HIV薬と併用投与する際に,コビシスタット(COBI)またはリトナビル(RTV)と併用する場合はDVY LT(FTC:200 mgおよびTAF:10 mgを含有)を,COBIまたはRTVと併用しない場合はDVY HT(FTC 200 mgおよびTAF 25 mgを含有)を用いる.HIV-1の実験室株および臨床分離株を用いたin vitro試験において,TAFおよびFTCはHIV-1の広範なサブタイプおよびHIV-2に対して阻害活性を示した.他クラスの抗HIV薬との併用試験において,これら2剤はそれぞれ相加または相乗効果を示し,併用による拮抗作用は認められなかった.抗HIV薬による治療経験があり,ウイルス学的に抑制されている成人HIV-1感染症患者を対象として,FTC/TDF含有レジメン(FTC/TDF+キードラッグ)からDVY含有レジメン(DVY+キードラッグ)へ切り替えた場合の有効性および安全性を評価する第Ⅲ相臨床試験において,有効性の主要評価項目である投与48週時点のウイルス学的成功率は,DVY+キードラッグ投与群で94.3%,FTC/TDF+キードラッグ継続投与群で93.0%であり,非劣性であることが検証された.また,良好な忍容性および安全性が確認された.その他,DVYの有効成分を含むゲンボイヤ配合錠について,抗HIV薬による治療経験がない成人患者,抗HIV薬による治療経験がありウイルス学的に抑制されている成人患者,軽度から中等度の腎機能障害がある成人患者および抗HIV薬による治療経験がない12歳以上18歳未満で体重35 kg以上の小児患者など様々な患者集団を対象とした第Ⅲ相臨床試験を行い,いずれにおいても有効性および安全性が確認された.DVYは抗HIV治療ガイドラインにおいて,初回治療として選択すべき推奨薬のひとつに挙げられており,今後のHIV治療に大きく貢献することが期待される.

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