日本薬理学雑誌
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特集:脳機能とその破綻に対する時間・階層縦断的アプローチと治療戦略
メマンチンによるKATPチャネル抑制作用の発見
森口 茂樹福永 浩司
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2017 年 150 巻 5 号 p. 228-233

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抄録

著者らは,メマンチンによる認知機能改善効果の新たな治療標的としてATP感受性K(KATP)チャネル抑制効果を見出した.アルツハイマー病(AD)モデルマウスであるAPP23マウス(12ヵ月齢)に認められる認知機能障害はメマンチンの慢性投与(28日間)により有意な認知機能改善効果を示し,海馬における長期増強現象(long-term potentiation:LTP)の亢進ならびに記憶分子であるカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼⅡ(CaMKII)の自己リン酸化の増加を確認した.メマンチンによる海馬LTPの亢進ならびにCaMKIIの自己リン酸化の増加はKATPチャネル開口薬であるピナシジルにより有意に抑制された.次に,KATPチャネルのアイソフォームであるKir6.1/Kir6.2の過剰発現Neuro2A細胞を用いて電気生理学的解析により外向きK電流を測定した結果,メマンチンは外向きK電流を有意に抑制した.さらに,カルシウムイメージング解析により有意な細胞内カルシウム濃度上昇を確認した.免疫組織化学的解析によりKir6.2チャネルは海馬神経細胞においてシナプス伝達を担うシナプス後肥厚(postsynaptic density:PSD)に多く局在し,一方,Kir6.1チャネルは樹状突起および細胞体への局在が確認された.最後に,著者らはKir6.2欠損マウスならびにCaMKII欠損マウスにおいて認知機能障害が惹起されていることを確認し,メマンチンの慢性投与(28日間)では認知機能障害の改善効果が確認されないことを確認した.Kir6.2チャネル活性調節は膵臓β細胞におけるインスリン分泌促進効果による糖尿病治療標的である.メマンチンによるKir6.2チャネルの活性調節はADの脳糖尿病仮説を実証した結果であり,Kir6.2チャネルがAD患者における認知機能障害の新しい治療標的となる可能性が示された.

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