日本薬理学雑誌
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総説
軸索誘導因子は“がん微小環境制御因子”として機能する
中山 寛尚東山 繁樹
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2017 年 150 巻 6 号 p. 286-292

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抄録

脳の発生過程において神経細胞は適切な位置に配置され,複雑かつ緻密な神経回路網を形成していく.その過程で軸索誘導因子と呼ばれる,セマフォリン(semaphorin),ネトリン(netrin),スリット(slit),エフリン(ephrin)に代表される4種の因子とそのレセプターが精密な神経回路形成に極めて重要な役割を担っている.軸索誘導因子は,その作用として神経軸索を誘引または反発する性質を有しており,軸索を適切な方向に伸長させて,標的の神経細胞に到達するためのガイダンス因子として機能している.その後,さらなる機能解析によって,これらの因子は神経細胞のみならず血管内皮細胞,がん細胞,免疫細胞など様々な細胞に働きかけ,多様な機能を持ち合わせていることが分かってきた.たとえばセマフォリン3F(SEMA3F)は,神経軸索伸長を阻害する反発因子であると同時に,グリオーマU87MG細胞の遊走・浸潤を阻害すること,血管内皮細胞の遊走を阻害して血管新生を抑制する因子であることが分かってきた.一方で,軸索伸長を誘引するネトリン-1(netrin-1)は,U87MG細胞の遊走・浸潤を惹起するとともに,血管新生を誘導して転移を誘発する因子であることが明らかとなった.近年では,netrin-1がCD4陽性T細胞に対して遊走を惹起することが分かり,炎症免疫応答においても重要な役割を担っていることが分かってきた.以上の知見から我々は軸索誘導因子が,がんとその周辺環境(微小血管ネットワーク,細胞外基質や炎症など),いわゆる『がん微小環境』の制御因子であると考えている.がん微小環境は,がん幹細胞を形成・維持することによって,がんの再発や薬剤抵抗性を生み出す要因となることや,がん細胞の浸潤・転移を誘発する分子機構の一端を担っている.よって,軸索誘導因子のがん微小環境への影響を精査してその役割を解明することによって,新たながん治療薬の開発あるいは治療戦略が提示できるものと考えている.

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