日本薬理学雑誌
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特集:陰と陽の作用を持つDAMPs創薬のさきがけ
プロサイモシンα:ストレスから脳を守るDAMPs/Alarmins分子
植田 弘師前田 詩織
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2018 年 151 巻 1 号 p. 15-19

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抄録

DAMPs/Alarminsは細胞がダメージを受けたとき細胞内分子が放出されて,周囲の細胞に対して生存にも関わる強い影響を与える物質群である.その多くは免疫系において語られることが多かったが,近年神経系においても報告がなされるようになってきた.プロサイモシンα(ProTα)は神経細胞から放出される神経保護性の核タンパク質性DAMPs/Alarminsである.ProTαについて特徴的な事実はその放出機構と受容体機構にみられる.前者は飢餓条件下に生ずる細胞内ATP減少による核から細胞質への移行と,それに続くカルシウム結合タンパク質S100A13との複合体形成とSNAREシステムなどを介した非小胞性ProTα分泌機構である.後者はProTαによる自然免疫受容体TLR4活性化とその下流のTRIFを介した抗炎症性メディエーター産生を示すが,MyD88-NFκBを介した炎症性サイトカイン産生を伴わない点が特徴的である.TLR4活性化機構はプレコンディショニングによる神経保護に関連するが,ProTαによる虚血誘発性神経ネクローシス抑制機構にはDAMPsとは別のGタンパク質,PKCを介した受容体メカニズムの関与も見いだされている.ProTαは多機能性であり,アポトーシス時には細胞質においてアポトソーム構成分子Apaf1に結合しアポトーシスを抑制する.ProTαのもつ神経・血管保護作用に着目して,ProTα由来の低分子ペプチドP6Q(NEVDQE)を開発し,脳卒中治療時のtPA治療有効時間延長薬としての有効性を明らかにしている.

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