日本薬理学雑誌
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151 巻 , 1 号
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特集:陰と陽の作用を持つDAMPs創薬のさきがけ
  • 西堀 正洋
    2018 年 151 巻 1 号 p. 4-8
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/10
    ジャーナル フリー

    20世紀末にエンドトキシン血症の致死性メディエーターとして同定されたhigh mobility group box-1(HMGB1)は,その後約15年間の研究で種々の炎症性疾患における病態の形成に重要な働きをすることが明らかにされてきた.現在では,組織損傷に応じて細胞外へ放出され,起炎性の作用を発揮するdamage-associated molecular patterns(DAMPs)の代表と考えられるようになった.本稿では,筆者らが取り組んできたHMGB1の中和活性を有するラット抗HMGB1単クローン抗体の作製をまず紹介する.次いで,本抗体を用いた神経系疾患,具体的には脳卒中(脳梗塞,脳出血),脳外傷,てんかん,神経因性疼痛モデルでの治療効果の解析結果を報告する.これら一見多様な疾患モデルにおいて,障害局所の神経細胞核からHMGB1が細胞質を経て細胞外へ放出されるのが,障害急性期に共通するイベントとして観察された.細胞外へ放出されたHMGB1は,血液脳関門(BBB)の破綻と炎症関連分子群の誘導に働き,脳内炎症を加速させた.末梢投与された抗HMGB1抗体は,いずれの病態モデルにおいてもHMGB1のトランスロケーション,BBBの破綻,炎症関連分子群の発現のすべてを強く抑制し,障害に随伴する神経症状を軽減した.これらの結果は,HMGB1が脳組織障害に際し極めて鋭敏かつ迅速に動員される因子であることを物語るとともに,BBB破綻や炎症性因子の誘導の最上流付近に位置する因子であることを示唆している.従ってHMGB1は,これらの疾患治療の極めて優れた標的であるということができ,HMGB1を標的とする抗体療法は,これまでにない新しい治療法となる可能性がある.

  • 七田 崇
    2018 年 151 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/10
    ジャーナル フリー

    脳梗塞は脳卒中全体の7割程度を占め,脳組織が虚血壊死に陥ることにより炎症が惹起される.脳梗塞に対する有効な治療薬の開発は未だに十分ではない.脳梗塞後の炎症は,治療可能時間の長い新規治療薬の開発にあたって重要な治療標的となりえる.脳は無菌的な臓器であるため,脳細胞の虚血壊死に伴う自己組織由来の炎症惹起因子(DAMPs)の放出によって炎症が引き起こされる.DAMPsは脳血液関門を破綻させ,脳内に浸潤した免疫細胞を活性化して炎症を惹起する.ミクログリア,マクロファージ,T細胞は脳梗塞巣で炎症性因子を産生して梗塞体積の拡大,神経症状の悪化を引き起こす.T細胞はマクロファージに遅れて脳内に浸潤することから,脳梗塞における新規の治療標的として注目されている.脳梗塞後の炎症を抑制する治療法は有効性が見出されていないが,これはマクロファージやミクログリアが脳梗塞後の炎症の収束期には,修復性の機能を担う細胞へと転換するためであると考えられる.今後は,脳梗塞後の炎症が収束して修復に至るまでのメカニズムが詳細に解明されることにより,炎症の収束を早める治療法の開発に期待が高まっている.

  • 植田 弘師, 前田 詩織
    2018 年 151 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/10
    ジャーナル フリー

    DAMPs/Alarminsは細胞がダメージを受けたとき細胞内分子が放出されて,周囲の細胞に対して生存にも関わる強い影響を与える物質群である.その多くは免疫系において語られることが多かったが,近年神経系においても報告がなされるようになってきた.プロサイモシンα(ProTα)は神経細胞から放出される神経保護性の核タンパク質性DAMPs/Alarminsである.ProTαについて特徴的な事実はその放出機構と受容体機構にみられる.前者は飢餓条件下に生ずる細胞内ATP減少による核から細胞質への移行と,それに続くカルシウム結合タンパク質S100A13との複合体形成とSNAREシステムなどを介した非小胞性ProTα分泌機構である.後者はProTαによる自然免疫受容体TLR4活性化とその下流のTRIFを介した抗炎症性メディエーター産生を示すが,MyD88-NFκBを介した炎症性サイトカイン産生を伴わない点が特徴的である.TLR4活性化機構はプレコンディショニングによる神経保護に関連するが,ProTαによる虚血誘発性神経ネクローシス抑制機構にはDAMPsとは別のGタンパク質,PKCを介した受容体メカニズムの関与も見いだされている.ProTαは多機能性であり,アポトーシス時には細胞質においてアポトソーム構成分子Apaf1に結合しアポトーシスを抑制する.ProTαのもつ神経・血管保護作用に着目して,ProTα由来の低分子ペプチドP6Q(NEVDQE)を開発し,脳卒中治療時のtPA治療有効時間延長薬としての有効性を明らかにしている.

特集:n-3系脂肪酸の新たなる生理・薬理作用の探索と将来展望
  • 中本 賀寿夫, 徳山 尚吾
    2018 年 151 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/10
    ジャーナル フリー

    近年,脂肪酸の有する多様な生理作用が注目されている.著者らはドコサヘキサエン酸(DHA)が種々の疼痛試験において抗侵害作用を示し,その発現機序に,内因性オピオイドペプチドのβ-エンドルフィン遊離が関与することを明らかにしている.これらの結果は,DHAなどの脂肪酸が生体内の疼痛制御機構を担うシグナルとして機能している可能性を示している.現在,遊離型DHAの作用部位の一つとして,Gタンパク質共役型受容体の脂肪酸受容体GPR40/FFAR1が知られている.この受容体は,脳や脊髄などの中枢神経系領域に豊富に発現していることがわかっていたが,その生理学的意義やその役割は不明であった.著者らはこれまでに,GPR40/FFAR1が脳内の各部位に広く発現し,神経細胞上に発現していることやGPR40/FFAR1アゴニストが痛みを抑制することを見いだしている.一方,GPR40/FFAR1アンタゴニストを繰り返し投与したマウスおよびその遺伝子欠損マウスは,機械的刺激に対して過敏な応答を示し術後痛の回復が遅延すること,すなわち痛みが悪化することも報告している.術後痛の急性期においては,DHAをはじめとする数種類の遊離脂肪酸含量が増加することも明らかにした.本総説では,疼痛時における脳内n-3系脂肪酸-GPR40/FFAR1シグナリングの役割について著者らの成績をもとに紹介したい.

  • 橋本 道男
    2018 年 151 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/10
    ジャーナル フリー

    n-3系脂肪酸の機能性は,心・血管系や脂質代謝系など,多岐にわたることがよく知られている.特に,n-3系脂肪酸のなかでも脳に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)は胎児期から老年期にいたるまで脳機能維持には必須である.その摂取不足は,脳の発達障害,うつ病,アルツハイマー病などの精神・神経疾患の発症と深く関連する.DHAは主に,神経新生,シナプス形成,神経細胞分化,神経突起伸張,膜流動性の維持,抗炎症作用,抗酸化作用などに関与し,脳機能維持に重要な役割を担っている.その作用機序は,1)細胞膜構成成分として膜流動性を変えてイオンチャネルや膜結合型受容体・酵素へ作用し,2)細胞膜から切り出された遊離型DHAが直接的に,あるいはさらに代謝されてプロテクチンD1などに変換されて,間接的に核や各種タンパク質に作用してその機能性を発揮する.今後の展開しだいでは,DHAなどn-3系脂肪酸の補充は,脳機能の低下を抑制し,様々な精神・神経疾患の発症とその進行を遅延し,さらには改善する可能性が期待される.

  • 柴田 重信, 古谷 彰子
    2018 年 151 巻 1 号 p. 34-40
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/10
    ジャーナル フリー

    哺乳類において1997年に初めて体内時計遺伝子ClockPeriodが見出され,体内時計の分子基盤を追及する研究が盛んに行われ続けている.全ての生物のリズム現象を調べる学問として「時間生物学」が生まれるとともに,薬物の吸収,分布,代謝,排泄に体内時計が関わることから「時間薬理学」という学問領域が台頭してきた.薬と同様に,栄養の吸収,代謝などには体内時計が深く関わる可能性があるため,「薬」を「食品・栄養」に置き換え,体内時計との関係を研究する「時間栄養学」の領域が確立されている.ヒトを含む動物では,体内時計を24時間に合わせるために外界の光刺激に合わせて体内時計を同調させるリセット機構をもつ.最近の研究において,繰り返しの給餌刺激で形成される末梢臓器の体内時計のリセット効果は,光刺激による視交叉上核を介さないことも明らかになってきており,時間栄養学の研究の発展は著しい.肝臓の体内時計の位相変動作用は食餌内容の血糖上昇指数が高く,インシュリンを分泌しやすいほどリセットしやすいことがわかっている.一方,近年様々な疾患予防の観点から脂質の摂取が見直されている.その中でもn-3系脂肪酸は抗肥満をはじめとする様々な疾患に関わり,体内時計が関与する疾患との相関がみられている.筆者らはn-3系脂肪酸を豊富に含む魚油が,肝臓時計に位相変動作用を引き起こすことを明らかにした.魚油は大腸でGPR120レセプターを介するGLP-1分泌を通してグルコース濃度が上昇,さらにインシュリン分泌を強化することで体内時計の同調機構が確立することもわかっている.また,飽和脂肪酸で見られた体内時計の乱れや肥満に関わる炎症反応がDHAで予防されるほか,魚油の摂取時刻違いにより血中EPA・DHA濃度が変わるなどの知見も明らかとなり,今後さらなる発展が期待されている.

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